114.砂糖作り(3)
地道に種取りを続けていき、とうとう全ての種を取ることが出来た。
「終わったー」
地道な作業が終わり、私は万歳をして喜んだ。種袋を持ち上げると、ずっしりとした重さを感じる。ここまで沢山の種を取った達成感で満たされた。
ビートの入った種袋を種保管箱に入れておき、コートを羽織る。それから種の取り終わった茎を魔動力で宙に浮かせると、それを移動させながら外へと出ていく。
「うぅ、寒い」
とたんに冷たい空気が体を覆う。その寒さに耐えながら、使い終わった茎と一緒に畑の端まで移動する。種の取り終わった枯れた根が山と積まれたところに、先ほど持ってきた茎を置く。
これらはいらないものなので、火魔法で一気に燃やした。魔力の力と量が増えた私の魔法はとても強くなっている。火は業火となって枯れた根と茎を燃やしつくす。それほど時間がかからずに全てを灰にすることが出来た。
出来た灰は地魔法を使って土に練り込んで置き、処分完了だ。種づくりが終われば、今度は砂糖作りが始まる。畑の端に寄せておいたビートに近づくと、まずは洗浄魔法で表面を綺麗にした。
それからビートを魔動力で浮かせて、家庭菜園のあるところまで持ち運ぶ。家庭菜園のところまできたら、今度はビートの葉を一つずつ風のナイフで切り落としていく。
全ての葉を切り落としたら、風魔法で葉を細切れにした。その細切れした葉を家庭菜園の土の上にバラまくと、地魔法で葉と土をこね合わせる。これでこの家庭菜園の栄養は良くなることだろう、次の野菜の収穫が楽しみだ。
葉の処分が終わると、ビートの根だけを魔動力で浮かせて家の中に持ち運ぶ。持ち運んだビートの根を食糧保管庫の中に三分の二だけ入れておき、保管する。残りの三分の一をキッチンカウンターに置いた。
コートを脱いでイスにかけておくと、私はキッチンカウンターの前に立った。これからビートの根の皮を剥いて、さいの目状に切る作業を始める。キッチンカウンターの棚から包丁とまな板と木の器を取り出すと、作業を開始だ。
まず、ビートの皮を厚く剥く。ビートが結構固いので皮を剥くのは大変だ。こういう時、身体強化が出来ればスムーズに作業出来るのかな? 身体強化も魔法なんだよね、私でも習得出来るかな? 今度クレハに相談してみよう。
怪我のしないように慎重に剥いていく。続けていくと手が疲れてくるが、適度に休みながら皮を剥き続けた。そのかいがあって、全てのビートの皮を剥くことが出来る。
皮を剥いたら今度は小さなさいの目状に切っていく。包丁に力を入れてビートを縦に切った後、横に切る。すると細い棒状になるので、今度はそれを切ってさいの目状にした。出来上がったさいの目状のビートは木の器の中に入れておく。
その作業を繰り返していくと、作業が終わる頃には木の器の中はさいの目状のビートで埋め尽くされた。
「よし、次は抽出だね」
棚から鍋をキッチンカウンターまで持ってくると、水魔法で鍋の中を水でいっぱいにする。本当ならここでかまどに火を点けて、その火で水をお湯に変えるんだけど、今の私には魔法がある。
鍋に手をかざすと、発熱の魔法を発動させる。錬金術ではこの発熱の魔法で熱したりして調合する時があるらしい。私も錬金術で使っているわけではないが、重宝させてもらっている。
しばらく発熱の魔法を発動して、水を温めていくと、湯気が出てきた。うん、このくらいでいいだろう。薪を使わずにお湯を作れるのが本当に楽になったな、錬金術の魔法のおかげだね。
そのお湯の中に静かに切ったビートを入れると、蓋をして厚手の布で鍋をくるむ。そして、あとは放置をすればビートの中にある糖分がしみ出してくるのだが、それもそれなりに時間がかかる。
だから、時空間魔法の時間加速を使う。鍋に向けて手をかざすと、時空間魔法を発動させた。強い加速をかけて抽出を早める。しっかりと時間加速をかけて数分、抽出が終わった。
厚手の布と蓋を外すと、少しとろみのついたお湯が出来上がっている。あとは、このお湯を煮詰めると砂糖が出来上がるね。先に抽出が終わったビートの実を手網ですくって木の器に移しておく。このビートの実は家畜の餌になるから、あとであげる予定だ。
鍋に入っているトロトロのお湯、今度はこれを煮立たせていくのだが、暖炉の火を使わなくても出来るんじゃないかと思っている。そう、発熱の魔法を使ってこの鍋のお湯を砂糖に変えていこうと思う。
厚手の布を畳んでダイニングテーブルの上に敷くと、その上に鍋を乗っける。私はイスに座ると、鍋を手で囲う。そして、発熱の魔法を発動させた。しばらくすると、鍋の中に入っているお湯がくつくつと煮立ちはじめる。
このまま煮立たせていくと、中に入っている水分が蒸発して砂糖の結晶が残る。だけど、その砂糖は白い物じゃなくて茶色いものだ。それは不純物が入っているせいで、白くならない。
でも、私は錬金術の魔法に気になる魔法を見つけた。精製、この魔法を使えば不純物を取り除くことが出来るんじゃないかと思う。だから、片手で発熱の魔法を発動させながら、もう片手で精製の魔法を発動させる。
少しずつ水分が蒸発していくお湯。かさが減ると色が濁ってくるはずなのだが、その濁りが無くなっていた。きっと精製の魔法がしっかりと発動していて、不純物を取り除いてくれているからだろう。
私はそのまま集中して砂糖作りを続けていった。
◇
全ての水分が蒸発した鍋の底には、この世界で初めてみる白い砂糖があった。
「すごい、出来た。白い砂糖だ」
本当に白い砂糖が出来た。鍋の底に固まった砂糖の塊をスプーンで崩して、一部を手のひらに乗せる。それを一口食べてみると、雑味のない純粋な甘味が口の中に広がった。
「あまーい!」
今までの砂糖とは比べようもないくらい、強い甘味を感じた。雑味がないから甘味がダイレクトに感じることが出来て、きっと強い甘味として感じることが出来るのだろう。
この白い砂糖を使えば、もっと料理が美味しくなる。そのことを考えるとテンションが上がった。砂糖を直接食べる料理がいいな、何があるかな……そうだ、ドーナツを作れる!
でも、ドーナツを作るには卵がいるし、牛乳とかバターも使った方がいい。まだまだ、足りないものがあるみたいだけど、その足りないものも多分もう少ししたら手に入ると思う。
そうだ、使用済みのビートの実を上げる予定だったんだ、いかなくちゃ。鍋の底に溜まった砂糖を砕くと、瓶の中に入れる。使った調理器具に洗浄魔法をかけると、コートを着てビートの実が入っている木の器を持って外へと出る。
寒い空気に当てられながら、家畜が放牧されているスペースにいく。まずは鶏がいる場所にいくと、鶏たちは放牧スペースでのんびりしていた。
「ココ、ルル、テテ、おいでー」
名前を呼ぶと、みんな反応してくれた。明後日の方向を向いていたのに、顔をこちらに向けてゆっくりと歩いてきてくれる。
「よしよし、いい子。ほら、おやつだよ」
ビートの実を地面にいくつか置く。首をせわしく動かしながら鶏たちが近づいてきて、ビートの実を突き始めた。良く見ると少しずつビートの実が減ってきているように見える。食べてくれているようだ、嬉しい。
鶏たちにあげた後は牛のモモにもあげよう。鶏たちの放牧スペースから出て、今度はモモがいる放牧スペースに入る。モモは地面に座ってのんびりとしていた。
「モモー、おやつだよー」
モモの前にビートの実が入った木の器を置いた。モモはそれに気づき、興味深そうに見つめる。しばらく身動きのなかったモモだが、舌を出してビートの実を食べ始めた。
そのままモモは止まることなくビートの実を食べ、すぐに完食した。どうやら気に入ったみたいだ。抽出した後だったけど、甘味が少し残っていたんだろうと思う。
「美味しく食べれて、偉いね」
モモの頭を撫でると、モモは気持ちよさそうに鳴いた。
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