113.砂糖作り(2)

 ビートを収穫し終えた農家の人たちは家へと帰っていった。残ったのは私、男爵様、コルクさんだ。


「ノア、これから冬の間よろしく頼むな」

「任せてください。頑張って定期的にビートを作ります」

「その間に野菜も作って欲しい。この冬の時期に他の季節の野菜を作ってもらうとありがたい」

「コルクさん、任せて。と、言いたいところだけど、私一人でやっているからそんなに数は作れないよ」


 今までは農家の人たちの助けがあって、なんとか収穫出来ていたけれど今は一人だ。一人で出来る作業にも限界があるから、思ったような収穫量になるとは思えない。


「コルク、他の町からは野菜が欲しいという要望はあったか?」

「ある程度、まとまった野菜を納品したので大丈夫だとは思います。ですが、季節の野菜となると話は別でしょう。すでに売買をしている町には植物魔法を使える者がいる、と知られていますし」

「そうだよな、他の季節じゃないと手に入らない野菜を納品しているんだ、そういう話が広まっていても可笑しくはない」


 そっか、この村に植物魔法が使える人がいるってことは他の町には知られているんだ。そうだよね、色んな季節の野菜を納品しているんだから、知られても可笑しくない。


「他の町の商人たちは植物魔法を使える人物を知りたそうにしてました」

「まぁ、そうだよな。魔法一つで色んな野菜を作れる人物なんて、そうそういないからな。ノアの名前は伏せているか?」

「植物魔法を使える人物はいるが、それが誰なのかは教えられない、と伝えてあります」

「それしかないだろうな」


 二人は難しい顔をして相談している。私のことで迷惑をかけてしまって申し訳ない気持ちになるけれど、助かっている。そんな便利な魔法を使えるのが子供だと知られれば、良くない人たちを呼び寄せそうで怖いから。


 そんな私の不安そうな顔を見て、男爵様は困ったように笑ってくれた。


「そう心配するな。ノアのことは絶対に口を割らない」

「悪い奴らに目を付けられないように全力を尽くす」

「ありがとうございます。急に攫われたらどうしようかと考えちゃいました」

「子供がそんな魔法を使えると知れたら、攫う奴も出てくるかもしれませんからね。気を付けないといけません」

「そうだな。とにかく村に入ってくる商人や見慣れない者がいた場合は要注意だな。もう一度、村人にノアのことを言わないように周知する必要がありそうだな」


 二人とも私のことを考えて、色々と手を尽くしてくれるみたい。その姿を見て私の不安は少しは和らいだ。というか、そんな怪しい人が来た時のために自衛もしっかりとしておかないとね。


「とにかく、怪しい人が訪ねてきたりしたら注意をするんだぞ」

「俺のほうでも注意はしておく。何かあったら、作物所にくるんだ」

「分かった、頑張って自衛するね。私も魔法が使えるから、魔法で撃退出来るのであれば撃退する」

「無理はするなよ。でも、いざという時は魔法を使ってもいい」


 そうだ、私には魔法があるんだから、魔法で撃退すればいいんだ。色んな属性魔法も使えるし、魔動力だってある、なんだったら時空間魔法だってあるんだ。あれ、もしかして私って強いんじゃない?


 危ないのは不意をつかれた時くらいか、そうならないように魔法発動の練習はしておいたほうがいいかもしれない。やっぱり、私も魔物討伐に行って少しは鍛えたほうがいいかな?


「魔物討伐をすると強くなれますか?」

「ん、魔物討伐か? そりゃ、戦うってことだから強くなるが……まさか魔物討伐で鍛えようと思っているのか?」

「私も少しは戦えるようになったらいいのかなって思いました」

「確かに、いざとなった時に頼れるのは自分の力だ。でも、ノアには味方がいるだろう。無理をして鍛える必要はないと思うぞ」

「それでも、備えがあったほうがいいと思うんです。ちょっと、鍛えてみます」

「まぁ、ノアがそこまでいうのなら止めないが。無理はするんじゃないぞ、困った時があったら存分に周りを頼れよ」


 男爵様は周りを頼れと言ってくれているが、私は自分を鍛えたほうがいいと思った。一人の時があるから余計に不安になるけど、いざという時のために力を蓄えればその不安だってなくなると思う。


 うん、二人にお願いをして私も魔物討伐に連れて行ってもらおう。毎日はいけないかもしれないけれど、素材採取と合わせて魔物討伐が出来たらいいと思った。


「それじゃあ、帰るか」

「そうそう。これが今回のビートの料金だ、受け取れ」


 男爵様が呟くと、コルクさんが袋からお金を取り出して渡してくれた。今回も金貨がある、こんなに沢山のお金が貰えて嬉しい。これに加えて、砂糖を作ったらまたお金が貰える。この冬もしっかりとお金が稼げそうだ。


「ノア、野菜と砂糖作りを頼んだぞ」

「はい、頑張ります」

「ビートの収穫時期は農家の人たちの様子を見ながら、俺から指示を出す」

「分かった、指示が入ったらビートを作ればいいんだね」

「そういうことだ。それじゃあな」


 男爵様とコルクさんはそれだけをいうと、自分たちのいるべき場所へ帰っていった。私はそれを見送ると、畑に向かう。さてと、私も自分の仕事をしておかないとね。まずは種の採取から始めよう。


 さきに砂糖にするビートを抜いておかないとね。手を前にかざすと、魔動力を発動させる。えーっと、種にはこれくらい必要だから、抜くのはニ十個くらいかな?


 魔動力を発動させ、ニ十個のビートを一度に抜いた。すっぽりと抜かれたビートは宙に浮き、その浮いたビートを畑の端に積み重ねておく。


 今度は残ったビートを種にする作業だ。地面に手をつくと、植物魔法を発動させる。するとビートがどんどん成長していき、ビートから花が咲いた。そしてその花が枯れて小さな粒が茎にくっついてる、それが種だ。


 埋められている全てのビートに種が出来ると、今度は魔動力で全てのビートを抜いて畑の端にある一か所に集めた。集め終わると、今度は一つずつビートから種のついた茎を切り取っていく。


 風魔法で指先に風のナイフを作り、その風のナイフで茎を切る。地味に一つずつ切り取っていき、茎を溜めていく。黙々と作業を続けていくと、時間はかかったが全てのビートから種のついた茎を切り取ることが出来た。


 種を採った後の根は枯れていて、使い物にならない。処分は後でするとして、まずは茎から種を取り出す作業をしよう。両腕いっぱいに刈り取った茎を魔動力で浮かせると、それを宙に浮かせながら家の中に入っていく。


「うー、温かい」


 家の中に入ると、焚火の熱で家の中が温かくなっていた。ホッとする温かさに気が緩んだが、すぐに引き締め直す。ダイニングテーブルの上に茎を乗せて、一旦コートを脱いでイスの背にかけておく。


 コートのポケットから先ほど使っていたビートの種袋を取り出して、ダイニングテーブルに置く。そして、イスに座ると茎を手に取って一本ずつ種を手で取り始める。


 ちょっと手が冷たくて思うように動かない、こんな時こそ発熱の魔法だ。手に発熱の魔法を発動すると、じんわりと手が温かくなっていくのが分かる。じわじわと熱が広がって、指が思い通り動き出す。


 もう手が温かくなった。これで自由に種を取り出すことが出来る。


「よし、頑張るぞ」


 気合を入れ直して、一つずつ茎から種を取り出していく。

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