第四章 新しい手と豊かな生活
107.冬のはじまり(1)
薄明りが窓から差し込んできて、そのわずかな明かりで目が覚める。冬になると日の入りが遅くなって、いつも通り起きているはずだけど辺りは暗い。
体を起こすと、冷たい空気が体にまとわりつく。
「うぅ、寒い」
体を擦りながらベッドの縁に座って、靴を履く。その靴もいつもより冷たくなって、とても履き心地が悪い。寒さを堪えながら立ち上がり、クローゼットの前に来る。その中から仕立てたばかりの冬服を取り出して、着替えた。
私の冬服は厚手のスカートにレギンスを履いて、長めのブーツを履いている。上はハイネックのセーターにカーディガンを羽織っている。
パジャマも冬仕様なんだけど、普通の服の方が厚く出来ているから、どちらかというとこっちのほうが温かい。ようやく、寒さをあまり感じない状態になった。
そうすると動きやすくなる。早速、お弁当作りに取り掛かろう。すぐに台所へ行くと、かまどに薪で火を点ける。冷蔵庫の隣に設けたマジックバッグの能力をつけた扉付きの木箱を開ける。今はこっちに食材を置いていることが多い。
その中から、昨日下ごしらえをした材料一式を取り出してキッチンカウンターの上に置く。棚からフライパンを出し、火がついているかまどの上に置いて温める。
そのフライパンにオークのラードを入れて溶かす。溶けたらフライパンの中に肉を入れて、焼き始めた。あ、いけないお弁当箱を出すのを忘れていた。肉を焼いている間に棚からお弁当箱を取り出して、キッチンカウンターの上に並べる。
急いでフライパンのところに戻って、肉をひっくり返す。両面をしっかりと焼き上げると、昨日作っておいたソースをフライパンの中に入れる。すると、ジュワーッと音と煙が出て、ソースの香りが辺りに充満した。
ソースを少し蒸発させてからめると、フライパンを持ってキッチンカウンターのところに行く。それから、お弁当にお肉を詰め込んでいった。
あとはソースの残ったフライパンで野菜を炒めて、炒め終わったらそれをお弁当箱に詰める。そして、最後に潰した胡椒を振りかけると今日のお弁当の完成だ。
温かい内にお弁当箱を閉めて、リュックの中に入れる。それから棚に置いてあった時間停止をしたパンを取ると、魔法を解く。すると、ブワッと温かくて香ばしい匂いが漂ってきた。その温かいままリュックの中に入れる。
あとは水筒を用意して、中に水魔法の水を入れて、リュックの中に入れる。これで今日の準備が完了した。
二人はまだ起きてこないみたい、起こしに行こう。二人がいるベッドに近づくと、二人を揺すって起こした。
「二人とも、朝だよ。起きてー」
「ううん……おはよう、ございます」
「ファァッ……おはよう」
「うぅ、寒いですね」
「まだ、布団の中にいたいんだぞ……」
起き上がったイリスは寒そうに体を手で擦り、クレハに至っては布団に逆戻りしてしまった。まぁ、気持ちは分かる、分かるけどここは頑張って起きて欲しい。
「ほら、クレハ起きてー」
「うー、まだ布団の中にいたい」
「こら、起きろ!」
「うわぁっ、布団がー!」
思いっきり布団を剥いでみた。いきなり部屋の空気にさらされたクレハは元気よく飛び起きる。
「うぅ、寒い。ノア、いきなり布団を取るなんて酷いんだぞ」
「クレハは自業自得です。さぁ、服に着替えましょうか」
「クレハも早く」
イリスが靴を履いてクローゼットに近づくと、自分の冬服を手に取って着替え始めた。それに遅れてクレハもヨタヨタと歩きながらクローゼットに近づくと、自分の冬服に着替える。
イリスの服は厚手のワンピースの下に厚手のセーターを着て、下にはレギンスに長いブーツを履いている。最後に厚手のコートを着れば、外にいく準備の完了だ。
クレハは厚手のズボン、厚手のパーカーを着て、パーカーの中にハイネックの服を着ている。こちらも、最後にコートを着て、準備が完了した。
私も外に行くのでコートを着た。
「じゃあ、顔に洗浄魔法かけるよー」
洗顔の代わりに洗浄魔法をかける。これで顔がさっぱりとした。冬の顔洗いは冷たくて大変なので、洗浄魔法で終わらせることになった。
「よし、宿屋に行こうか」
「今日も温かいスープあるかなー」
「寒いですし、きっとありますよ」
三人で集まって家の扉に近づく。扉を開けて外に出ると冷たい空気が私たちを襲ってくる。
「うぅー、寒いね」
「この出る瞬間が嫌ですね」
「早く宿屋に行くんだぞー」
三人で集まって寒さを凌ぐ。でも、集まっていたらいつまで経っても宿屋に辿り着かない。仕方なく離れて移動を開始した。
◇
「やっと、宿屋に辿り着いたんだぞ」
「外は寒かったですね」
「食堂は温かいといいなー」
宿屋の中に入ると、ホッと一息つけた。そこから食堂の中に入ると、温かい空気が私たちを包み込んだ。どうやら、暖炉に火が点いているらしい、部屋の中はとても温かかった。
私たちが空いている席に座ると、ミレお姉さんがやってきた。
「おはよう、三人とも」
「「「おはよう」」」
「寒くても元気でよろしい」
「寒いからそんなに元気ないんだぞ」
「冷えますよねー」
「元気なのはきっと目の錯覚だよ」
「それだけ言い返すことが出来るんだったら元気な証拠だわ。はい、今日の朝食よ」
ミレお姉さんが朝食をテーブルの上に置いた。今日のメニューは野菜のスープ、燻製肉のチーズ焼き、焼きたてパンだ。どれもとても美味しそうだ。
「やった、温かいスープがあるんだぞ!」
「冬の定番メニューだからね。これから外に行く人たちを温めるのも仕事の内よ」
「温かいスープは助かります。いただきましょうか」
「うん、いただきます」
「「いただきます」」
三人で手を合わせて食事を頂く。少し冷えた体に温かいスープが染み渡って、体の奥から元気が漲ってくるようだ。肉を食べればもっと元気になり、パンを食べればホッと安心する。
「今日のノアは錬金術のお姉さんのところに行くんですか?」
「うん、今錬金術の魔法を習っているからね、そのつもり」
「早く全部の魔法を覚えるといいな」
あれから錬金術のお店に通って、エルモさんから魔法を習っている。いくつか習得出来たけど、全部の魔法を習得するにはまだ時間がかかっていた。それにただ覚えるだけじゃなくて、魔法の練度も重要だ。
暇を見つけてはコツコツと練習をして、錬金術の魔法を鍛えていたりもする。今まで魔法は自然と覚えていたが、自分で習って習得するのがとても楽しい。だから、毎日楽しく錬金術のお店に通っている。
その分、収入は減っちゃうけど、これから収入が増える事がある。男爵様が言っていた砂糖作りが始まるんだ。それが始まれば、高収入が期待出来るし、今までの分も取り返せると思う。
早く砂糖作り始まらないかな。砂糖作りが始まっちゃうと忙しくなるから、その前に錬金術の魔法を一通り出来るようになっておかなくちゃね。
「何考えていたんですか?」
「ん? ちょっとこれからのことを考えていたんだよ。なんだかんだで忙しいな、と思ってね」
「ノアは沢山やることがあるから、あんまり無理しないで欲しいんだぞ」
「大丈夫。これは私がやりたいことだから、むしろやる気全開だよ」
「そうなのですか。なら、いいんですけれど」
考え事が長すぎて二人に心配かけちゃったな、失敗。三人で会話を楽しみながら朝食を食べ進めていった。
「今日も美味しかったね」
「そうですね、体がポカポカになりました」
「ミレお姉さん、ごちそうさま!」
「はい、おそまつさま。気を付けて行ってくるのよー」
食事も終わり私たちは席を立った。ミレお姉さんに別れを告げると、食堂を出て宿屋の外に出る。
「うぅ、外はやっぱり寒いんだぞ」
「体がポカポカしているから、余計に寒く感じますね」
「二人とも、気を付けていってきてね」
「ノアも錬金術の魔法、頑張るんだぞ」
「新しい魔法、楽しみにしてますね」
「うん、ありがとう。それじゃあね」
二人は離れていって手を振って、森に向かっていく。私はその姿を見送ると、一度家へと向かっていった。家畜の世話をしてからエルモさんのお店に行こう。
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