105.素材の買い取り
翌日、いつも通り宿屋の前で二人を見送ると、リュックを背負って錬金術師のお店へと向かった。昨日、採取した素材を買い取ってもらうためだ。
お店にたどり着くと、扉のノッカーを叩いた。
「エルモさん、おはよう! ノアだよ!」
叩いている人が分かるように声を出してみた。そしたら、エルモさんも私が来たと分かって、平常心で扉を開けてくれるに違いない。しばらく待っていると、ゆっくりと扉が開いた。
「……あ、ノアちゃん、いらっしゃい」
寝ぐせのついた頭で眠たそうな顔をしたエルモさんが現れた。
「もしかして、まだ寝てた?」
「はい、そろそろ起きようとは思っていたんですが、中々ベッドから出れなくてですね」
「この頃、大分寒くなってきたからね。ごめんなさい、寝ているところを邪魔しちゃって」
「いいえ、気にしないでください。お陰でこうして起きてこられたんですから。どうぞ、中に入ってください」
良く見るとパジャマにカーディガンを羽織った恰好だ。ベッドからそのまま来てくれたんだね。言われるままに中に入ると、カウンターの前のイスに座るように促された。
「ちょっと着替えてきますので、待っていてください」
「うん、分かった」
そういうとエルモさんは店の奥へと消えていった。私は暇だったので、店の中を見回ることにした。店の中には見慣れないものが沢山置いてあり、興味が惹かれる。
珍しいものを見て時間を潰していると、店の奥から普段着を着たエルモさんが現れた。
「お待たせしました。今日は先日言っていた、素材を売りに来たのでしょうか?」
「そうだよ。昨日、森に行って沢山素材を取ってきたの」
「それは楽しみです。さぁ、カウンターの上に素材を並べてください」
エルモさんはワクワクとした様子でカウンターを軽く叩いた。私は背負ってあったリュックを下ろすと、中から素材を取り出していく。一つずつ出していき、順番に並べていく。
その様子をエルモさんが目を輝かせながら眺めていた。
「うわぁ、こんなに種類が豊富で沢山の量を取ってきてくださるなんて、とても助かります。しかも、どれも状態がいい。採取の仕方が丁寧ですね、これは査定のしがいがありますね。素材はこれだけですか?」
「ううん、まだあるんだけど、カウンターに乗せられないの」
「……可笑しいですね。明らかにそのリュック以上のものが出てきたように思えます」
寝起きなのにエルモさんは鋭い。カウンターに出しただけでも、リュックの大きさの比例以上のものが出ていることに気づいたらしい。
「えっとね、このリュックはマジックバッグなんだよね」
「ま、マジックバッグですか!? そんな高級品、どうしてノアちゃんが持っているんですか!?」
マジックバッグと聞き、エルモさんはとても驚いた様子だった。その後、身を乗り出して話を聞きたそうにしている。エルモさんなら話しても大丈夫だよね。
「えーっとね、私は色んな魔法を覚えることが出来るんだけど、最近マジックバッグを作れる魔法を覚えたの。それで、自分のリュックをマジックバッグ化することが出来たんだ」
「なるほど、ノアちゃんは貴重な時空間魔法の持ち主だったんですね。ということは、ノアちゃんに依頼するとマジックバッグを作れるんですか?」
「それが、今は男爵様の許可がないと作れないようになっているの。悪い人に目を付けられないようにするために、情報規制もしていて。その、エルモさんにはあまりこのことを言い触らさないで欲しいんだけど……」
「子供がそんな力を持っていたら悪い大人に利用されちゃいますからね。私はそんなはしませんよ、言い触らしたりはしません」
真剣な表情で言い触らさないことを約束してくれた、安心してホッとする。
「ノアちゃんがマジックバッグを使って採取をしてくれるから、私も助かります。こんなに沢山の素材を手に入れることが出来るんですから」
「私一人の力じゃないけどね、エルモさんの役に立って良かったよ」
「とりあえず、一つずつ査定していきますね」
エルモさんは素材を検分して、紙に金額を書き始めた。検分が終わった素材は近くにあった木箱に入れる。そして、カウンターが空くとそこにまた新たな素材を並べておく。
そうやって黙々と素材の検分が進められていった。かなり時間がかかっているけれど、それだけエルモさんが丁寧に査定してくれている証拠だ。こんなに丁寧にやってくれると、売る側としても助かる。
リュックの中に入っている素材を全て出し切り、カウンターの上にあった素材も全て査定が終わった。
「かなりいい素材が沢山手に入りました。今、精算しちゃいますね。あ、こちらをどうぞ」
そう言って手渡されたのは、先ほど金額を書いていた紙だ。素材の名前の隣に個数が書いていて、その隣には合計金額が書かれてある。それがズラーッと下まで続き、一番下には全ての合計金額が書かれてあった。
その金額を見て驚いた、農作業している時よりも高い金額だったから。そっか、農作物よりも素材採取のほうが値段が高いんだ。となると、農作物よりもこっちでお金を稼いだ方がいい?
でも、それには錬金術師が作った商品が売れないと意味がない。こんな村でそんなに沢山の錬金術の商品が売れるとは思えない。じゃあ、エルモさんはこんなに沢山の素材を買い取るお金はどこから出ているの?
「はい、お待たせしました。こちらが買い取り金額です。間違いがないか確認してくださいね」
板に乗せられたお金が手渡される。かなり多い金額だったから、金貨がいっぱいだ。いつもより多い金額をもらって、緊張でちょっとだけ手が震えた。
金額を確かめると、リュックの中に入っている硬貨を入れる袋にお金をしまう。
「エルモさんはこんなに買い取って平気なの? この村では錬金術の商品はあまり売れてないんじゃないの?」
「そうですね、この村ではそれほど錬金術の商品は売れません。だから、私は他の町で商品を売っているんです。素材が沢山あるところに住んで、商品は他の町にも卸す、このやり方で商売が出来ています」
「エルモさんが他の町に売りに行くの?」
「いえいえ、転移箱というものがあってですね、その中に入っている物を遠くの町にある同じ箱に転移させることが出来るんです。その箱を錬金術師協会に置いてもらって、そこで商品を買い取ってもらってます」
へー、転移させる魔法なんていうものがあるんだね。それだったら、この村にいても大丈夫なわけだ。作った商品は遠くの町に沢山売ることが出来るのなら、エルモさんもそれなりに稼げているのだろう。
「だから、素材はあればあるだけ助かります。もし、自分の手で扱いきれなくなった素材があれば、素材のまま売ればいいですしね。だから、ノアちゃんは気にせずに沢山の素材を取ってきても構いません」
「なんだ、そうなんだね安心した。あんまり素材を沢山持ってきても、エルモさんの商品が売れなければ意味がないと思っていたから。だったら、私も頑張って素材を集めてくるね」
「はい、いつでもお待ちしております」
これで私の収入源が増えたわけだ。農作物が充実した今はそんなに稼げていないから、助かる。農作物と素材採取、バランスよくやっていって安定した生活が送れるようになったらいいな。
「錬金術を使って商品を作ってお金が貯まったら、ノアちゃんにマジックバッグを注文するわ。素材を保存するのに適しているもの」
「その時が来たら、良いマジックバッグを作るね。そうだ、錬金術っていうのは、錬金術っていう独自の魔法なの?」
「そんなことないわ。普通の魔法と変わりないものを使っているの。ノアちゃんでも習得出来ると思うわ。興味あるの?」
「うん、どんなものか気になっている」
「それなら、ちょっと習ってみる?」
うん、錬金術に興味があるから、ぜひ習ってみたい。
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