104.三人で森の中を冒険(5)

 森の中を辛い実求めて歩いていく。その道中、魔物が現れるので、そのたびに戦闘をしていった。また、ただ歩いていくのも勿体ないので素材採取もする。


 そうやって、時間をかけながら進んでいくと、クレハの様子が可笑しくなった。辺りをきょろきょろと見渡して、注意深く周囲を観察しているように思える。


「どうしたの?」

「この辺りのはずなんだ」

「じゃあ、この辺りを探してみましょうか」


 三人で手分けをして探すことにした。


「実ってどんな風になっていたの?」

「木に草が巻きついていたんだ。そこに生っていた」


 木に巻きつく草か、それを目印に探してみよう。三人で手分けをして木に巻きついた草になる実を探す。一本ずつ木を見ていき、絡まった草や蔦を確認していく。


 一本ずつ確認していくと、直径二センチの黒い実が生っている草を発見した。早速鑑定をしてみる。


 ポリテプの実:黒い汁がでるすっぱい実。食用可。


 これは違う実らしい。ついでに素材のリストを見てみるが、これは素材にならない実だった。気を取り直して、次に木を見ていこう。


 そうやっていくつかの木を見回っていると、声が上がった。


「あったぞ、これだ!」


 どうやらクレハが見つけてくれたらしい。私は駆け寄ると、その木には草が巻きついており、緑の実と赤い実がなっていた。


「これなんだ」

「鑑定してみるね」


 早速鑑定をしてみる。


 胡椒:香辛料の一つ。その実を乾燥させると、香辛料になる。


「わっ、胡椒だ!」


 まさかここで胡椒が見つかるなんて思ってもみなかった!


「なんだなんだ、凄いものか?」

「うん、凄いものだよ。これがあると、料理がグッと美味しくなるよ」

「そうなのか!? そんなに美味しくなかったけど、美味しくなるのか!」


 話を聞いたクレハはとても嬉しそうに喜んでくれた。そんなところにイリスもやってくる。


「見つかったんですね。どうです、食べても大丈夫な実ですか?」

「うん、これは食べても大丈夫。だけど、使いどころが料理に味をつけるものなんだよね」

「じゃあ、そのまま食べないほうが良かったんですね。ホラ、食べないほうが良かったじゃないですか」

「ウチが食べたから、この食材は見つかったんだぞ」


 えっへん、と自慢げにクレハは胸を張った。イリスはちょっと呆れているけれど、クレハには感謝したい。


「では、採取しますか?」

「うん、少しだけ実を残して、他は全部取っちゃおう」

「緑の実と赤い実があるけど、どっちを取るんだ?」

「どっちとも胡椒になるから取ってもいいよ」


 早速三人で採取を始める。実は穂みたいにくっついており、その穂の根元を折るように取っていく。


「これはこのまま使うんですか?」

「ううん、乾燥させてすりつぶして使うんだよ」

「乾燥したら美味しくなるのか」

「うん、美味しくなるよ」

「そっかー、楽しみだなー」


 お喋りしながら、どんどん取っていく。しばらく穂を取っていき、いくつかの穂を残して採取は終わった。うん、大量大量。


「二人とも採取してくれてありがとう」

「食べられるのはいつになるんだ?」

「明日には食べられると思うよ」

「明日ですか、楽しみにしてますね」


 胡椒を使った料理か、シンプルに味わうのなら焼いて食べたほうがいいかな。スープに入れてアクセントにしてもいいし、うーん悩むなぁ。


「もしかしたら、この森には他にも食材があるかもな」

「そういうことなら、探してみたいですよね。探したものがいいものだったら、ノアが活用してくれそうですし」

「この森には何でもありそうだよね。他にも探してみようか」

「なら、魔物討伐と素材採取と食材探しだな!」

「沢山見つけてみせます!」


 胡椒があったんだから、他の食材もありそうだ。二人とも料理が美味しくなると聞いて、やる気を漲らせてくれる。料理の幅が広がるからね、私も負けてらんない。


「今度はどっちに行く?」

「うーん……あっちに魔物がいそうだぞ」

「なら、魔物討伐をしてから色々と探しましょうか」

「うん、そうしよう」

「なら、先頭はウチが歩くぞ」


 魔物の声が聞こえた方向に私たちは歩き始めた。未知なるものを求めてさまよい歩く森は楽しくなってくる。今度はどんな素材や食材にあえるんだろうか? 期待に胸を膨らませて、私たちは歩いて行った。


 ◇


 それから、私たちは魔物討伐をしながら素材や食材を探し始めた。魔物討伐は怪我もなく順調そのものだ。どうやら今日は私がいるから、強い敵とは戦わないでいてくれたらしい。ありがたいよね。


 周辺の魔物を一掃すると、今度は素材と食材探しだ。三人で手分けをして探し出すと、色んなものを沢山見つけた。中には素材でもない食材でもないものも混ざっているが、それに一喜一憂するのも楽しい。


 でも、やっぱり楽しいのは素材を見つけた時だ。見つけると三人で飛び上がって喜んで、素材を採取する。見つけるのも楽しいけど、三人で喜び合うともっと楽しい。


 そうやって次々に素材を見つけていった。だけど、食材はあまり見つからなかった。ちょっとしたハーブを見つけたりしたけれど、それだけだ。どうやら素材探しよりも食材探しのほうが難しかったらしい。


 それでも素材が沢山見つかったから、食材が見つからないのは仕方がないと割り切れた。そうやって、探していくと時間は経っていき、帰る時間になる。


 秋のせいか、日が暗くなるのが早い。完全に暗くなる前に私たちは村へと戻っていった。帰り道はクレハの耳を使って魔物に会わないように慎重に帰っていく。


 そうやって、日暮れ頃には村へと辿り着いた。日暮れになると気温が下がるからか、手やほっぺが冷たくなっている。冬が近いことを感じながら、私たちは冒険者ギルドの中に入っていった。


 中に入ると数名の冒険者がいて、席に座って楽し気に何かを話している。


「おっ、クレハにイリスじゃん。お疲れさん」

「おや、今日はノアもいるみたいだな。どうしたんだ?」


 冒険者たちは気さくに話しかけてくれる。いつも宿屋の食堂で一緒になっているから、みんなとは顔なじみだ。


「今日は私の素材採取に付き合ってもらったの」

「へー、ノアは素材採取もするのか。すごいな」

「素材採取って難しいじゃねぇか。ちゃんと出来たのか?」

「もちろん!」

「ノアは凄いんだぞ!」

「沢山見つけましたよ」

「そりゃあ、凄い!」


 冒険者に褒められて、いい気分になる。というか、クレハが一番自慢げに胸を張っていた。


「ねぇ、君たち。換金に来たなら、早く来て頂戴」


 すると、受付のお姉さんが気だるげに話しかけてきた。いけない、換金をしないとね。三人でカウンターに近寄った。


「今日はこれだぞ」

「お願いします」


 二人がリュックの中から魔石と素材をカウンターの上に並べた。お姉さんはそれを一つずつ検分していくと「あら?」と不思議そうな声を上げる。


「今日の魔石は綺麗ね。どうしたの?」

「ノアが洗浄魔法で綺麗にしてくれたんだぞ」

「そうだったの。助かるわー、手が汚れなくてすむもの。ノアちゃん、ありがとう」

「いえ、どうしてしまして」


 お姉さんは慣れた手つきで検分を進めていくと、何か気づいたように顔を上げた。


「今日はオークはないのかしら?」

「今日はノアがいたので討伐してきませんでした」

「あらー、助かるわ。今日は簡単な検分で終わりそうね。ノアちゃん、ありがとう」

「お姉さんはいつもやる気がないんだぞ」

「ふふっ、少ない仕事のほうが素敵だって思うには、クレハちゃんには早いわね」


 冗談ぽく言うお姉さんにクレハは不思議そうな顔をしている。少ない仕事のほうが確かに楽でいいけれど、クレハにはちょっと物足りなく感じちゃうかもね。


「はい、今回の換金よ。いつもより少ないのは、さっき話していた素材採取をしていたからかしら?」

「うん、この素材は錬金術師のお店で売ろうと思っているんだ」

「ノアちゃんはなんていい子なの。私の仕事を減らしてくれる天使に見えるわ。ぜひぜひ、錬金術師のお店をひいきにしてあげてね」


 身を乗り出して頭を撫でてくれるくらいには、このお姉さんに感謝をされている。嬉しいんだけど、ちょっと複雑な気持ちになった。


「今日はお疲れ様。また来てね」


 お姉さんが手を振って私たちに別れを告げた、もう用がなくなったらしい。このお姉さんはマイペースというか、なんというか。私たちはカウンターから離れて、三人で集まって今後の話をする。


「これから、素材を売りに行きますか?」

「素材を売るのは明日にするよ。もう遅いみたいだから、迷惑かなって思って」

「なら、宿屋の食堂に行って食事をしよう!」

「うん、そうだね。沢山歩いたから、お腹減っちゃったね」

「今日はどんなメニューなんでしょうかね」

「早く行こう!」


 クレハは元気よく駆け出して、冒険者ギルドの扉を開いた。そして、私たちに向かって手招きをして急げと言っている。私たちは顔を見合わせて笑い合うと、元気に駆け出していくクレハの後を追った。

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