101.三人で森の中を冒険(2)

「クレハ、近くに魔物はいそうですか?」

「んー……あっち側にゴブリンの声が聞こえたぞ。何体がいるみたいだ」


 クレハは耳を使って周囲の音を拾い、魔物の居場所を突き止めていた。


「クレハの耳って便利だね」

「ふふん、私の耳は凄いだろ」

「クレハの耳には何度も助けられています」


 狼獣人だから聴覚が優れているのかな。魔物の音を聞き分けられるのは、見通しのきかない森では役に立つことだろう。クレハは褒められて嬉しそうに尻尾を振っていた。


「この周辺には魔物はいないみたいだから、素材採取してもいいぞ」

「もしかしたら、木の上にスライムがいるかもしれませんから、そこは気を付けてください」

「うん、ありがとう」

「ウチらも怪しいものがないか探さないか?」

「いいですね、私たちも探しましょう」


 みんなで素材を探すことになった。私はリストを見ながら、怪しい草やキノコや実を鑑定していく。うーん、これは形が変だけの草。このキノコは……毒キノコ。この実はただの実だね。


 そうやって気になったものを一つずつ鑑定していった。以前のように広範囲に鑑定をすればいいのだが、木が邪魔で上手に広範囲の鑑定が出来なかった。出来ると言えば言えるんだけど、頭が痛くなっちゃうんだよね。


 だから、気になるものだけを鑑定して素材を探していった。


「なぁなぁ、ノア! こっちに来てくれ!」


 クレハが何かを見つけたようだ。急いでそちらに駆けつけると、クレハが葉の大きな草を指さしていた。


「これなんて、素材になるんじゃないか?」

「鑑定してみるね」


 葉の大きな草を鑑定してみた。


 ヌーブ草:草を切ると粘り気のある汁が出てくる。汁は少し甘い。食用可。


「うーん、探している草じゃないみたい。でも、この草の汁は少し甘くて食べられるんだって」

「へー、そうなのか」


 話を聞いたクレハは少し残念そうにしたが、すぐにその草を千切ってとった。何をするんだろう、と思って見ていると、その草を食べる。食用可とはいったけど、まさか食べるとは思わなかった。


「うーん、少し甘い草みたいだ。これだったら、普通の食事のほうが好きだぞ」

「そりゃあね。草を食べてもあんまり美味しくないと思うよ」

「草は草だな! でも、ノアが調理するとどれも美味しくなるから不思議だな。この草は調理出来るか?」

「少し甘い粘り気のある草ねぇ……残念だけど何も思い浮かばないよ」

「そうか……」


 クレハ的には新しい食材を見つけたみたいな感覚だったんだろう、少し残念そうにしている。少し甘い粘り気のある草をどう調理していいか、いくら考えても思いつかない。ここは何か思いついたほうがいいんだろうか? うーん。


「ノア、こっちに素材らしき実がありました。ちょっと見てください」

「うん、分かった」


 おっと、イリスに呼ばれてしまった。考えることを一旦やめてイリスの傍に近寄る。イリスは見つけた実を指さして教えてくれた。


「この実なんですが、どうですか?」

「ちょっと鑑定してみるね」


 私は緑色の小さな実を鑑定してみた。


 ルコの実:清涼の効果を持つ実。飲食可。


 これは聞いたことがある実だ。リストを見てみると、あった! この実は素材になる。


「やったね、この実は素材になるよ」

「そうですか、良かったです。どんな商品の材料になるんでしょうか?」

「それは書いてないから分からないけれど、清涼の効果があるって書いてあったから飲み物系じゃないかな」

「なるほど、そうなんですね。クレハも取るの手伝ってください」

「分かったぞー」


 三人で集まって低木に生っている緑の実を取っていく。


「結構大きさがまちまちですが、小さいのは取らないほうがいいでしょうか?」

「あぁ、そうだね。ちょっと鑑定してみるね」


 ルコの実の中でも大きい実と小さい実があり、これを全部取っていいか分からない。そこでさらに鑑定のスキルを使って調べてみると、大きな実は成熟していて、小さな実は未熟であることが分かった。


「この大きさより大きな実をとってね。それ以下は未熟な実らしいから、取らないでそのままに」

「分かったぞ。その大きさだな」

「小さい実は未熟なんですね。じゃあ、大きな実を……」


 プチプチとどんどん実を取っていく。この実を取る感触、クセになりそうだ。小さな実を取らないように気を付けてとっていく。すると、クレハが実をじっと見ていた。


「どんな味がするんだ?」

「爽やかな味だと思うよ」

「食べてみてもいいか?」

「いいけど、美味しいかは分からないよ」


 クレハは実の味が気になって仕方がないみたいだ。しばらく考えると、パクッと実を口の中に入れた。そして、モゴモゴと口を動かして実を食べる。


「ノアの言った通り爽やかな感じだ」

「美味しいですか?」

「美味しいというか気持ちいい感じだな」

「「気持ちいい?」」


 それを聞いて気になってしまった。イリスと顔を見合わせると、二人で同時に口の中に入れてみた。そして歯で潰すと、口の中に爽やかな味が広がる。


「うん、これは爽やかな味です」

「食後に食べたい味だね」

「ちょっとクセになる感じがしないか?」

「確かに……口の中が寂しい時に欲しい感じです」


 美味しいとは言えないが、クセになる味なのは間違いない。爽やかさがなくなると、もう一つ食べたくなるくらいには気に入った。


「この素材でどんなものが出来るんでしょうね」

「やっぱり、この爽やかさを生かしたものじゃないかな」

「肉には合わない爽やかさだな」

「肉にかけるソースには出来なさそうだね」


 それぞれが感想を言いつつ、実を採取していく。そして、低木から出来るだけの実を取り、リュックの中に実を入れた。


「これだけ取れればいいと思う、次に行こうか。次は近くにいたゴブリンを討伐する?」

「そうですね、近くにいるなら討伐したいです」

「次はウチらの出番なんだぞ」


 次は戦闘になりそうだ。クレハが耳を使って当たりの音を拾うと、森の中を進んでいく。


 確か数体いる、ていう話だから私は離れたところから見ていた方がいいよね。もし、私のところまでゴブリンが来た時はどうしようか。やっぱり魔法で対応したほうがいいかな。


 どんな魔法がいいだろう? 敵を倒すのなら、攻撃的な魔法がいいよね。火魔法で相手を焼きつくすのもいいし、氷魔法で氷漬けにするのもいい。何かいい手段はないかな?


 私にとって初めての戦闘になるはずだから、魔法を発動しても上手く当てられないかもしれない。そしたら、確実に魔物の動きを止められる手段のほうがいいと思う。


 そうだ、時空間魔法を使えばいいんじゃないかな。時間停止の魔法を使えば、どんな魔物も時間を止めることができる。動きを止めた後だったら、私の魔法も簡単に当てることが出来る。


 うん、まず魔物に襲われたら時空間魔法で時間停止をしよう。まずは攻撃を受けないことが大切だからね。


「いた、ゴブリンだ」


 クレハの声を聞いて、自分の思考から戻る。木の陰に姿を隠して先を見てみると、ゴブリンと言われる魔物が五体もいた。


「まず、イリスのホーリーアローから攻撃をする」

「はい」

「次にウチが飛び出していって、ゴブリンを攻撃する。ノアはこの辺りに身を隠していてくれ」

「分かった」


 クレハが指示をすると、イリスと私は頷いた。ピリッとした緊張した空気が流れると、クレハは剣を抜く。


「よし、作戦開始だ」

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