102.三人で森の中を冒険(3)

「いきます」


 イリスが弓の構えを取ると、突然光が現れた。その光は弓の形をして、イリスの手にしっかりと握られている。それから、弓矢も出現した。その弓矢を光の弦と共に引っ張る。


 狙いを定めて、弓矢を射った。真っすぐに飛んだ光の弓矢は突っ立っていたゴブリンの頭に命中し、ゴブリンはその場に倒れた。


「ギギッ!?」

「ギーッ!」


 倒れたゴブリンを見て、他のゴブリンたちが驚いた。その隙にクレハが駆け出して距離を縮めていく。真っすぐに駆け出したクレハはゴブリンの群れに飛び込むと、すぐに剣を振るった。


「はぁっ!」


 クレハの剣は速くて力強い。一振りでゴブリンを倒せるほどの力があり、その動きは止まらずに流れていく。次々とゴブリンを倒していると、イリスもゴブリンに駆け寄っていった。


「ホリーウィップ!」


 イリスが魔法を唱えると、光の蔦が地面から生えて二体のゴブリンを拘束した。二体を拘束している間にクレハがそれ以外のゴブリンを倒す。二人の連係業だ。


 ゴブリンは抵抗らしい抵抗もできないままクレハの剣によって倒されていった。そして、残った拘束されたゴブリンにトドメを刺していく。


 戦闘はあっという間に終わった。離れたところで見ていた私が近づこうとした時、後ろから足音が聞こえてきた。驚いて振り返ってみると、そこにいたのは……


「ギギッ!」

「ギャーッ!」


 二体のゴブリンが武器を掲げてにじり寄ってきていた。しまった、他にもゴブリンがいたんだ、どうしよう! 私は後ずさりをしたが、それよりもゴブリンの歩幅のほうが大きい。どんどん、近づいてきている。


 はっ、そうだ! こういう時のために魔法があるんだった。私は両手を前に構えると、魔法を発動させた。


「時間停止!」


 時空間魔法の時間停止を唱えた。すると、近づいてきたゴブリンたちがピタリと止まった。少し離れたと事で見守っているが、ゴブリンが動く気配はない。良かった、攻撃を食らう前にゴブリンたちを止めることが出来た。


 あとはトドメをささなきゃいけない。正直気持ち悪くて怖気づけそうだけど、このまま放置も出来ない。もう一度手を構えると、今度は氷魔法を発動させた。


 宙に氷の刃を出現させると、それをゴブリンの頭に飛ばす。氷の刃はゴブリンの頭を貫いた。そこでようやく時間停止の魔法を解くと、ゴブリンたちは力なくその場に倒れる。


 倒した、のかな? 怖かったけど、何とかなって良かった。安堵で胸を撫でおろしていると、二人が近寄ってくる。


「ノア、どうし……ゴブリンじゃないか!」

「えっ、ノア大丈夫ですか!?」


 クレハがいち早く地面の上に倒れたゴブリンに気づいてくれた。すると、イリスが心配そうにかけつけてくれる。


「どうやら、近くにまだ潜んでいたみたい。でも、なんとか倒すことが出来たよ」

「怪我はありませんか?」

「うん、大丈夫。攻撃を受ける前に動きを止めたから」

「そうか、怪我がなくて良かった。他のゴブリンに気づかなくてごめんな、ウチがもっと注意深くしておけばノアを危険な目に合わせなかったのに」


 クレハがしゅんとして落ち込んだ。耳も尻尾も元気がなくなったように下に垂れてしまった。


「クレハのせいじゃないよ。それにほら、怪我なんてしてないから、そんなに気にしなくてもいいよ。元気だして」

「本当か?」

「ノアも私も気にしてませんよ。もし、気になるのなら次の索敵を頑張りましょう」

「うん、そうだな! 二人ともありがとう。次は完璧に索敵してみせる!」


 いつもの元気なクレハに戻ってくれた、元気のないクレハはクレハじゃないからね。


「魔物を討伐出来たわけだけど、魔石を取るの?」

「そうだぞ、ナイフを使って心臓付近にある魔石を取るんだぞ」

「結構気持ち悪い作業だね」

「慣れるとそうでもないですよ。ノアは見学してますか?」

「そうだね、手慣れた二人にお任せしてもいいかな」

「任せろ!」


 二人はナイフを手にすると、倒したゴブリンに近寄っていった。私はその傍で見学をする。倒れたゴブリンの胸を切り裂き、その中に手を突っ込んで、魔石を取り出す。うん、見た目からして結構グロテクスな作業だ。


 二人が倒れたゴブリンの魔石を全て回収して、魔石を袋の中へと入れた。


「今、二人を洗浄するね」


 二人の手とナイフがゴブリンの血で染まっていたから、洗浄魔法で綺麗にしてあげた。


「ありがとうございます。いつもこの作業をすると、汚れてしまうんですよね」

「今日はタオルで拭かなくてもいいから、とっても楽なんだぞ」

「それは良かった。良かったら今度、生活魔法でも覚えてみる?」

「うーん、ウチは無理そうなんだぞ」

「私なら使えそうですかね」

「練習してみるといいよ。きっと出来るようになるよ」


 生活魔法は何かと便利な魔法だ、覚えていると色んな場面で役立つことがある。魔物討伐をする二人にもきっと必要となる場面が沢山あるはずだ、こんなことなら早く教えておくべきだったかな。


「洗浄魔法は覚えたいですね。こういう時に便利に使えそうですから」

「そうだな。イリスが覚えてくれれば、魔物討伐の後処理があっという間に終わるんだぞ」

「なら、今度から洗浄魔法を教えるよ」

「ありがとうございます」


 聖女の卵ではあるけれど、聖魔法以外でもきっと使えるようになるよね。イリスにはその才能があると思うから、簡単に覚えてくれると思う。


「それじゃあ、この場所を移動しようか」

「次は素材でも探しに行きましょうか」

「なら、魔物がいなさそうな場所を探すんだぞ」


 クレハが耳を使って周囲の音を探る。しばらく任せてみると、魔物がいない場所が分かったようだ。


「あっち側にいくと魔物が少ないみたいだぞ」

「なら、そっち側に行こうか」

「あまり音を出さない魔物もいるので、道中は気を付けていきましょうね」

「ウチが先頭になって歩いていくぞ。索敵は任せろ!」


 クレハを先頭にして森の中を進んでいった。周囲を見渡しながら素材がないか探し歩く。


「あれなんてどうですか?」


 移動している最中、イリスが何かを見つけてくれた。その場所を見てみると、キノコが三本生えている。そのキノコを鑑定で調べてみた。


 ヨルモック茸:食べたり、胞子を吸い込むと眠気を催すキノコ。食用可。


 えーっと、リストと見比べて……あった!


「これは素材になるものだよ、ありがとう」

「良かったです」

「やったな!」


 幸先よく素材が見つかってくれた。キノコを丁寧に取ると、それをリュックの中に入れる。よし、これで採取の完了だ。立ち上がろうとした時、木の陰から何かが飛び出してきた。


「キーッ!」

「ホーンラビットだ!」


 すぐにクレハが盾になり、ホーンラビットを迎いうつ。ホーンラビットは凄い速さで向かってきて、頭に生えた角を前に出して飛び掛かってきた。


 キンッ!


 角をクレハが剣で受け止めた。その剣を振ると、反動でホーンラビットは飛ばされる。飛ばされたホーンラビットが地面に着地する前にクレハが駆け出していった。


「はぁっ!」


 ホーンラビットが着地すると同時にクレハは剣を突き立てた。


「キィーッ!」


 ホーンラビットは断末魔を上げて、その場で動かなくなった。すると、クレハはすぐに気を緩めることはせずに周囲の気配を伺う。


「まだ、いるみたいだ」


 クレハがセリフを言い終わる頃、木の陰からホーンラビットが現れる。その数、三体。


「イリス!」

「はい!」


 イリスも戦闘体勢に入り、場は緊張感が増した。私は邪魔にならないように後方へと下がる。二人とも、お願い!

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