100.三人で森の中を冒険(1)
「大分、寒くなって来たね。仕立屋さんに行って、冬服もこしらえないとね」
「ウチは動くから、動きやすい服装がいいんだぞ」
「私は寒いの苦手ですから、温かい服装がいいです」
「今度相談にし行ってみよう」
お喋りりながら村の中を歩いていく。目指すのは森の出入口だ、そこまで二人についていく。しばらくあるいていると、村の端まで辿り着いた。村の端は簡素な柵があるだけで、防衛機能はほとんどない。
「この村って壁で囲まれている訳じゃないんだね」
「そうですね、まだ開発中だからでしょうか。ここからの森を切り倒して、領土を広げているみたいですよ」
「そうそう、樵が木を切っているんだ」
「へー、なるほどね。ここにも樵がいるんだ」
男爵様が配置した樵には二種類がいるみたいだ。内側の森を切って農地を広げる樵、外側の森を切って領土を広げる樵。
私が手伝ったのは内側の木の伐採だ。外側もあったのに内側になったのは、そっちのほうが危険がなかったからだろう。子供だからと気を遣われたに違いない。
そっか、ここは領土を広げる場所で、いずれ境界線が移動するから簡素な柵で囲っているだけなんだ。でも、魔物が来た時は心配だな。私の魔法で壁を作ってもいいんだけど、それはお節介かな?
「何を考えているんですか?」
「ん? ここの柵だと心もとないから、私の魔法で壁を作ったほうがいいのかな、と思ってね」
「ノアの石が出る魔法だな。その魔法を使うと、立派な壁が出来ると思うんだぞ」
「そうですね、ここの柵はいつ壊れてもいいように簡単に作られているようですし。簡単に出し入れの出来るノアの魔法なら役に立つかもしれませんね」
今度、男爵様に相談したほうがいいかな。でも、出しゃばったマネをして迷惑になるのもなぁ。んー、どうしようかな。
「それはそうと、とうとう森に入りますよ。クレハ、ノアを守る準備はいいですか?」
「もちろんだぞ。魔物、どこからでもかかってこい!」
クレハが私を守るように前に出ると、それに続いてイリスも前に出る。二人とも、私を守ってくれるみたい。なんだか嬉しいな。
「二人ともありがとう。でも、今から力んでたら疲れない? いつもはこんな風に入ってないでしょ?」
「ふふっ、そうですね。ちょっと力みすぎたかもしれません」
「ウチは平気だぞ、守るんだぞー!」
「はいはい。クレハ、いつも通りでいいから、森の中に入ろう?」
「い、いつも通りでいいのか? むー、それだといつも通りだぞ、今日はノアがいる特別な日なのに」
二人に肩の力を抜くようにいうと、力を抜いてくれた。変に力んで、力を発揮できないことになったら大変だからね。いつも通りでいて欲しいかな。
「それじゃあ、いきましょうか。クレハが先頭でいいですよね」
「任せろ! 魔物の気配を探るのは得意なんだぞ!」
「二人とも、お願いね」
そうやって、私たちはようやく森の中に入っていった。魔物がいる場所か……ちょっと怖いけど、二人がいるから大丈夫!
◇
森の中に入り、しばらく歩いていく。気になるものが生えていたら鑑定をして、リストにある素材か確認をする。
「えーっと、あれなんか怪しいな。鑑定」
木の根元に生えていた特徴的な草。それを鑑定すると、リストにあった素材だと分かった。
「二人ともちょっと待って。素材が見つかった」
「本当か?」
「それじゃあ、ノアは採取してください。私たちは周囲を警戒しますね」
「うん、お願い」
二人に周囲の警戒をお願いすると、私は木の根元に近づいてしゃがんだ。そして、もう一度草に向かって鑑定をかける。名前を確認してから、リストを見ると一致した。うん、これで間違いない。
「素材一つ目、ゲットだね」
根から丁寧に掘り起こして、素材を回収した。回収した素材はマジックバッグ化した自分のリュックの中に入れる。よし、これで次に……
ボトッ
その時、私の横に何かが落ちてきた。なんだろう? と思って横を見ると、そこには緑色のプルプルとしたものが存在していた。
「きゃっ!」
「どうした、ノア!」
悲鳴を上げるとすぐにクレハが反応してくれた。
「あ、スライムだ!」
クレハはすぐにこちらに駆け寄ると、剣をスライムに突き立てた。すると、スライムはプルプルと震え出して、体がデロンと溶ける。
「ふぅ、ノア無事か?」
「うん、ありがとう」
「木の上にいたスライムが落ちてきたんですね。すいません、不注意でノアを驚かせてしまいました」
「ううん、大丈夫。それにしても、木の上にも魔物はいるんだね」
「魔物は色んなところに潜んでいるんだぞ。この森では油断が命取りになるんだぞ」
危ないところだったけど、クレハのお陰で助かった。例え周りに魔物の姿が見えなくても気を付けないといけないね。すると、クレハが倒したスライムから何かを取り出した。
「それは何?」
「これは魔石なんだぞ。倒した魔物から回収するのが、冒険者としての仕事なんだぞ」
「その魔石を売ることでお金を手に入れているんです。中には魔物自体が素材の場合もありますから、その時は素材と魔石の両方を売れるんです」
「へー、そんな風になっていたんだね」
なるほどね、魔物の体からとった魔石を売るか、素材の魔物を売るかでお金を稼いでいたのか。魔物との戦いのことは良く聞いてたけど、そういうことは聞いていなかったな。
「これをしっかり取らないと、お金が手に入らないんだぞ」
「とても重要なことだね」
「魔石も取ったことですし、森の中を歩きましょう」
「この魔物の死体はどうなるの?」
「スライムは土に吸収されて、いずれ無くなると思います」
流石、魔物討伐のプロだ、そういうことも分かるんだね。私は立ち上がると、二人の後をつけて再び歩き始める。だけど、少し歩いた時にクレハの動きが止まった。良く見ると、頭についた耳がぴくぴくと世話しなく動いている。
「近くに魔物がいるみたいだ。この声は……森ネズミみたいだ」
「ノアは後ろに下がっていてください」
二人が辺りを警戒していると、木の陰から何かが現れた。灰色の毛に覆われた大きなネズミだ。そのネズミは赤い目でこちらを睨み、鋭い牙と爪を見せた。
「ギーッ!」
声を上げるとこちらに向かってくる。
「聖なる壁!」
すると、イリスが呪文を唱えた。二人の目の前に透明な壁みたいなものが出てきたように見えた。そこに森ネズミが飛び込んでくる。
ゴン!
森ネズミは透明な壁にぶち当たり、地面の上に転がった。
「今だ!」
クレハの剣が動き、ネズミの体を突き刺した。森ネズミは小さな悲鳴を上げて、パタリと動かなくなる。
「森ネズミ、討伐完了ですね」
「今のはウチだけでも大丈夫だったぞ」
「ちょっと良いところは見せておきたいじゃないですか」
「そうか?」
一瞬の内に終わった森ネズミの討伐。二人は緊張感のない会話をして戦闘を締めくくった。
「二人とも、無駄のない動きだったね。あっという間に魔物を倒しちゃった」
「これくらいどうってことないぞ。普段なら数匹同時にくるから、その時が大変だぞ」
「まだ森の入り口付近ですからね。奥に行くと、色んな魔物が数をなして襲ってきますよ」
「そうなんだね。とにかく助かったよ、ありがとう」
二人に助けられたことを素直にお礼をいうと、二人は照れた。
「えへへ」
「ふふっ」
そんな可愛らしい二人を見て私もなんだか嬉しくなって笑ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます