97.時空間魔法の扱い

 男爵様はすぐに動いてくれた。まず、マジックバッグの効果を披露した冒険者ギルドに話をするためにやってくる。冒険者ギルドに関わっている職員や冒険者を集めて、今回のマジックバッグの騒動をみんなの前で説明した。


「今回のマジックバッグの件、ノアが新しい力に目覚めたお陰で作れたものだ。魔法に目覚めて試しに使ってみたらマジックバッグになった、間違いないな?」

「はい、間違いありません」


 みんなの前で説明すると、驚きながらも納得する。


「ノアは色んな魔法を覚えていると聞いている。だから、新しい魔法に目覚めることもあるだろうな」

「そうか、元々あった魔法じゃなくて、新しく目覚めた魔法なんだな。マジックバッグを作れる魔法がこんなに近くで見つかるなんて驚きだ」

「この村からマジックバッグが出てきた時は本当に驚いた。そんな貴重なものがどうしてここにあるんだ、夢じゃないかって思ったくらいだ」


 冒険者とギルド職員は色んな反応を示したが、みんな一様にマジックバッグが出てきて驚いた、という反応だった。みんなはマジックバッグというものを知っているくらいの知識はあったんだね。


「難しい魔法らしく、頻繁に使えない魔法らしい。無理に発動するとノアに負担がかかる。だから、みんなはノアに魔法を使うように催促をしないように。無理に催促をした場合は俺が罰する。ノアはこの村の財産だ、それを傷つける者には容赦はしない」


 厳しい口調でみんなに伝えた。マジックバッグを作る時だけ頻繁に使えないんだけど、それは伏せているみたいだ。なんでも正直に伝えればいいっていう訳じゃないから、そう言ってくれると助かる。


 それにしても、私に無茶をさせた時は罰するって大きく出たね。無茶をさせるだけで罰せられたら堪ったものじゃないから、無理にお願いする人はいなさそうだ。


「もし、この中でマジックバッグが欲しくて買おうと考えている奴がいたら、まず俺に相談してくれ。俺が許可した者だけ、マジックバッグを持つ権利をやろう」


 どうやら、マジックバッグを作ってもいいが男爵様の許可が必要になるらしい。高価なものだから、そんなに申し出る人がいないと思うんだけど……


「なぜ、俺の許可が必要になるか説明しよう。マジックバッグは高価だ、だから値切って買おうとする奴が出てくるだろうと思っている。他にも無理なお願いをする奴も出てくるかもしれない。だから、俺が窓口になってノアの壁になる必要があるんだ」


 そうか、無理難題を吹っ掛けるお客をシャットダウンするために男爵様が間に入ってくれるんだ。それだったら安心だ、私は男爵様が許した人だけマジックバッグを作ればいいんだから。


「それと、これは勝手なお願いでもある。ノアがマジックバッグを作れることはここにいる奴らだけの話にして欲しい。他の村や町の連中に知られると、どんな悪い奴がノアを目につけるか分からない。ノアを守るため、村の財産を守るために、ノアの情報は広めないで欲しい」

「私からもお願いします。私はまだこの村にいたいです、クレハとイリスとも一緒にいたいです。悪い人に目を付けられたくないので、私の力はここだけの話にしてください」


 私は頭を下げてみんなにお願いした。すると、周囲がざわついた後、笑い声が聞こえてきた。


「この村に再びパンを広めてくれたノアには、俺たちは本当に感謝をしている。パンがあるだけで、仕事である魔物討伐が無理なく行えるようになった。ようは、ノアは俺たちを救ってくれた救世主ってことだ」

「そうそう。そんな俺たちを救ってくれたノアがもしかしたら悪い奴に目を付けられるかもしれない、であれば俺たちが出来ることは一つだ。男爵様のいうことを聞き、ノアを助けることだと思う」

「それにクレハとイリスは俺たちにとって、大事な妹分だ。その二人を悲しませることになるようなことは絶対にしない。俺たちは男爵様の指示に従って、適切に対処するつもりだ」


 ここにいるみんなが男爵様の話を理解して守ってくれると約束してくれた。みんなの顔を見ると穏やかに笑っていて、その笑顔がとても心強く思えた。


「俺たちは男爵様に従います。もし、約束を違える人が出た場合は懲らしめるか報告します」

「三人はこの村にいなくてはならない存在です。その三人が安心して暮らせるように、私たちは尽力したいと思います」

「だから、安心してください。俺たちでこの子たちを守りましょう」

「そうだ、守ろう!」

「俺たちの手でこの子たちを守るんだ!」


 おー! と声と拳を上げて一致団結をしてくれた。私が村のためにしたことは、みんなのためになっていた。そして今、私はその時の恩を返されている。その事実に胸の奥が温かくなって嬉しくなった。


 横に立つ男爵様が私の頭を撫でた。


「みんな、ノアのために協力してくれるらしい。良かったな、これで村の中で困ったことにはならないだろう」

「はい、ありがとうございます」

「何、ノアという財産を守るためだ、力を惜しまないさ。あとは、情報が外に漏れないようにするだけだ。これで、ノアが狙われる確率がぐっと低くなるだろう」


 この開拓村にマジックバッグが作れる人材がいるとしれば、外から良からぬ者が現れるかもしれない。それが、私にとって一番怖いこと。その情報が上手く村の中だけで留まってくれればいいんだけど、そう上手くはいかないよね。


「私も自分の身は自分で守れるようにします。いざという時は、魔法で懲らしめてやります」

「ノアの攻撃魔法は見たことがないから、どれだけ強いか分からないな。結構強いのか?」

「日常的に使っている魔法は弱く発動しているので、強い魔法を使えるとは思うんですよね。だから、強いと思います」

「そうか、だが無理はするなよ。もし、周りに頼れるのであれば頼りなさい。きっと、ノアの力になるだろう」


 男爵様は優しく答えてくれた。そうだよね、周りを頼ってもいいんだよね。自分で対処出来なかった時は周りを頼らせてもらうことにしよう。


 すると、離れた位置で話を聞いていたクレハとイリスが近寄ってきた。


「ノア、みんなが協力してくれて良かったな!」

「みんな、とても頼もしい方ばかりなので安心してください」

「二人ともありがとう。ごめんね、迷惑をかけて」

「迷惑だなんてそんなこと言わないでください。元々は私たちがあのリュックをみんなの前で使ってしまったから、こんなに大事になってしまったんです。私たちのほうこそ、迷惑をかけてごめんなさい」

「ごめんなさい。凄く騒がれてびっくりしたんだぞ」

「ううん、私もマジックバッグの効果が凄いって気づいていたのに、何も考えずに二人に使ってもらったから私も悪いの」


 三人で集まって、三人で反省をする。しゅん、と落ち込んでいると男爵様から声がかかった。


「何、大事になって良かったじゃないか。こうしてみんなが協力してくれることになったんだから、みんなとの繋がりが深くなったと思えばいい。落ち込むことはない、むしろこの事が表に出て良かったと思っているぞ」

「どうしてですか?」

「もし、俺のところに来ずに勝手にマジックバッグを広めたら、それこそ噂が広まって他の村や町からそれを狙う悪い人が来たかもしれないだろう? だけど、そうなる前に手は打てたのは良かったと思うぞ」


 男爵様のところに相談にいかなかったら、どうなっていたんだろう。便利だから好きなようにマジックバッグを使っていたと思うし、必要な人に広めていたと思う。しかも、正規の値段じゃなくてきっと安く売っていただろう。


 まさか、あんなに高いとは思ってもみなかったから、高く値段をつけられなくて安いマジックバッグが出回ったと思う。そうすると、噂が村の外に出ていって、噂を聞いた悪い人たちがこの村に来ていたかもしれない。


 そう考えると、騒動が男爵様に相談するきっかけになったっていうことだよね。うん、前向きに考えよう。きっと今回、こういうことになったのが最善だったんだ。


 男爵様のお陰で前向きになれような気がする、ありがとうございます。

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