98.錬金術師のお店(1)

 マジックバッグの騒動からしばらく経ったが、特に問題なく過ごせている。クレハとイリスはマジックバッグを有効に使って、討伐した素材となる魔物をマジックバッグに入れて冒険者ギルドに持ち込んでいるみたいだ。


 他の冒険者はマジックバッグが手に入るかもしれない、ということで日々の魔物討伐を頑張ってお金を貯めているらしい。お陰で魔物討伐は進んでいき、開発が進んでいった。男爵様がいうには領地が広くなっていっているみたい。


 少しずつ村が豊かになっていき、開発が進んでいる。あとは人を増やしていくだけだ。木工所は大忙しに家を建てているらしく、ダンさんたちは毎日が忙しいらしい。


 その内、私にも家を建ててくれ、という声がかかるかもしれない。その時は力を貸すつもりだ。もっと、この村が賑やかになってくれれば私も嬉しいからね。


 そんな訳で、私は変わらずにのんびりと暮している。家畜の世話をして、畑仕事をして、食事を作っている。そんな同じことの繰り返しの毎日は穏やかで心地いい。


 でも、ちょっと違う仕事もしてみたいと思い始めた。畑は自分一人が出来る範囲に縮小してしまったから、収入が減っている。それが気がかりだ。


 そこで、私は素材採取を思い出した。素材採取をしていた頃はそれなりに収入はあったし、上手くすればもっと収入が増えるかもしれない。野菜はほぼ定額で売れて安定性はいいけど、大きな収入にはならないのが残念だ。


 素材が豊富だと言われている大森林で素材採取をすれば、すごくお金になるんじゃないかって思った。うん、これはいい案だと思う。私は早速二人が帰ってきてから相談してみた。


「二人とも、今度新しいことを始めようと思うの」

「新しいことってなんだ?」

「何を始めるんです?」

「素材採取をやろうと思うんだ」

「「素材採取?」」


 夕食の後片付けが終わった後に二人に相談してみた。素材採取と聞いて二人は不思議そうな顔をした後、何かを思い出したような表情になる。


「町でノアがやっていた仕事だ!」

「そうです、町にいた時にノアがやっていたことですよね」

「うん、そうなんだ。畑仕事は安定的な収入が得られるけど、そんなに金額は高くない。だから、ここは素材採取をして一攫千金を狙おうと思うの」

「一攫千金ですか、上手くいけばそうなりますよね」

「お金が沢山ってことか? それは凄いんだぞ!」


 素材採取でおいしい思いをしていたことを思い出して、二人の返答は明るい。


「だから、私も森に行って素材採取をしようと思っているの」

「ノア一人で行くのか? それはちょっと危険なんじゃないか? 森の中は魔物がうじゃうじゃいるんだぞ」

「そうですよ、一人で行くのは危険です。そうです、私たちと一緒に行きませんか?」


 二人と一緒に? そこまでは考えていなかったけど、そんなに森の中が危険な場所だったんだ。そうしたら一人で行くのは難しいかな。前のところは魔物が出ないところで採取していたから大丈夫だったけど、今度はそうはいかない。


「そっか、森は危険なところなんだね。二人と一緒に行ってもいい?」

「もちろんです。そのほうが危険が少ないですし、魔物討伐のプロがここにいますからね。任せてください!」

「ウチらがノアを守ってあげるんだぞ!」


 魔物討伐のプロな二人が傍にいると安心するね。うん、二人に頼らせてもらおう。


「早速明日行くか?」

「明日は寄るところがあるんだ。どんな素材を採取したらいいのか、錬金術師のお店を訪ねようと思っているの」

「採取してきたらいいものを聞いてくるんですね」

「そういうこと。何がお金になって、何がお金にならないか聞いてからの方がいいと思うの」


 この村には錬金術師のお店がある、と聞いたことがある。冒険者ギルドの受付の人も素材の用があったらこっちに行けって言っていたし、一度訪ねることにしよう。


 まずは売れるものをしっかりと把握してから、採取に行こう。そのほうが無駄がなくていいと思うんだ。


「では、ノアと一緒に行くのは明後日になりそうですね」

「ノアと一緒に行く森、楽しみなんだぞ!」

「そうだね、三人で行動するのは久しぶりだから、私も楽しみ」


 バラバラで動くことが多いから、三人で行動するのがとても楽しみだ。明後日のことを思うとワクワクが止まらない。早く明後日にならないかな。


 ◇


 翌日、二人を見送った後に錬金術師のお店に行った。町の外れにはなくて、しっかりと町の中心にお店を構えている。


「へー、ここが錬金術師のお店かー」


 可愛らしい看板が目印の普通のお店、そんな印象だ。建物はいたって普通だけど、看板だけ凝っているように見える。まぁ、このほうが分かりやすいよね。私は扉についてあるノッカーを叩いた。


「すいませーん」


 声を上げてノッカーを鳴らすと、店の中から物音が聞こえた。しばらく、扉から離れて待っていると、扉がゆっくりと開く。


「ど、どちらさまですか?」


 おどおどしたお姉さんがお店の中から出てきた。そのお姉さんは辺りをきょろきょろ見回した後、下を向いてくる。


「わっ、ここにいた」


 私の姿を見ておねえさんは驚いた。えーっと、私の姿が見えていなかったみたい。


「おはようございます」

「あ、おはよう、ございます……」

「お姉さんに聞きたいことがあって来たの。お話してもいい?」

「そうなんですね。えっと、ちなみに聞きたいことってなんですか?」

「素材のことです」

「素材……なら、中でお話を聞きますね。どうぞ、お入りください」


 お姉さんが扉を開けて中へと誘導してくれる。私は誘導されるまま中へと入ると、店の中が見えた。壁際には沢山の棚があり、その棚には珍しいものが沢山置かれていた。


 そんな棚に囲まれるようにカウンターがある。そのカウンターの中と外にはイスが備え付けられてあった。全体にこじんまりとした店構えだ、とても可愛らしく思える。


「こちらのイスを使ってください」


 カウンターの外側のイスを指し示されて、私はそのイスに座った。お姉さんはカウンターの内側に入ると、イスに座る。


「私はこのお店の店主、エルモです。年は二十歳になります」


 金髪の髪をハーフアップにして、横の髪を編み込みにした、可愛らしい店主がそこにいた。


「私の名前はノア、十一歳になるよ」

「そう、十一歳になるんですね。よろしくお願いします」


 そこでようやく、お姉さんが笑ってくれた。どうやら緊張が解けたみたいで良かったな。


「強面の冒険者さんだったらどうしようかと思ったんですが、小さな子供で本当に良かったです」

「冒険者のおじさんが苦手なの?」

「……はい。未だに慣れなくて、苦労してます」


 しょんぼりとした様子で肩を落とした。冒険者たちは怖くないんだけどなぁ、なんだか勿体ない気持ちになる。


「それで、今日は何か用があったんですか?」

「うん、今度素材採取に行こうと思うんだけど、どんな素材が売り物になるか分からないから、事前に聞きに来たの」

「あなたが素材採取を? それはちょっと危険だと思うんです。素材があるのは魔物が沢山いる森の中ですよ」


 私が素材採取の話をすると、エルモさんは心配そうに顔を歪めた。まぁ、こんな子供が森の中に入るっていうんだから、その反応が普通だよね。


「大丈夫。私には魔物討伐のプロがついてくれるから」

「あら、そうすると冒険者に付き添って行くってことなのですか?」

「うん」

「まぁ、それなら……でも危ないですよ?」

「魔物討伐のプロが守ってくれるから大丈夫だよ」


 エルモさんはしつこいように確認してくるので、私は心配させないように笑顔で答えた。すると、渋い顔をしていたエルモさんだったけど、ようやく認めてくれたのか表情を明るくする。


「分かりました。そこまでいうのでしたら、買い取りしている素材を教えましょう」


 良かった、これでようやく話が進む。

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