92.新しい魔法はどんな魔法?

 二人を魔物討伐に見送った後、私は畑仕事を開始した。今日も一人で育てて、一人で収穫できる量をこなしていく。種を植え、植物魔法で育たせると、美味しそうな実が沢山なった。


 それを一つずつ収穫していって、木箱に詰め込んでいく。その最中、考えるのは時空間魔法のことだ。


 時間と空間の変異が出来るって書いてあったけど、具体的にどんなことが出来るんだろう。うーん、変異ねぇ。


 時間の変異は早くなったり、遅くなったり、時間を止めたりすることが出来るのかな? 何か活用出来ることはないかな……ちょっと自分に魔法をかけてみよう。


 魔力を高めて、時空間魔法を自分にかけた。動きが早くなりますように、と願いを込めて時空魔法を発動させる。


「ん? おぉ?」


 動いてみると私の動くスピードが各段に上がった。私は普通に動いているつもりなのに、通常の動きの二倍も三倍も速くなっている。これはいい!


 その動きのままに野菜の収穫を進めていくと、想像以上に早く収穫が終わっていく。これは凄い、自分の速度が本当に速くなっている。


 私はそのスピードのまま、収穫を続けていく。気分よく素早いスピードで収穫していくと、少しずつだが体が疲れてくる。というよりも、だんだん疲れが溜まってきているような気がする。


 そのまま作業を続けていくが、動くとどんどん疲れが溜まっていった。これはまずい、私は時空魔法を切った。


「ふー、疲れた」


 動くスピードが上がるのはいいけど、体が疲れるのはちょっと使いづらいかな。多分、普通に動いた分くらいの負荷がかかっているんだと思う。この使い方はいざという時に使った方がいいかもしれない。


 いや、今のはめちゃくちゃ速く動いていたからそうだったかも。今度は二倍速くらいの魔法をかけてやってみよう。二倍の速度になれ!


 自分に時空魔法をかけると、動きが二倍くらいの速度になった。その速度で収穫をしていくと、さっきよりは疲れを感じなくなる。この速度なら、問題ないかもしれない。


 しばらく動いていても、先ほどよりとても軽い負荷で動けている。うん、これくらいの速さだったら問題ないね。私は時空魔法をかけたまま、野菜の収穫を続けていった。


 結果として、二倍速の速度強化は上手くいった。野菜の収穫が終わる頃になると、普段の疲れとほぼ同じくらいの疲れしか感じていなかった。


 作業は早く終わるのに、疲れはほぼ一緒。これは使い勝手のいい魔法だと思う。急激に速度を上げると必要以上に疲れちゃうけど、それ以外なら問題なく使える。


 野菜の入った木箱を荷車に乗せ、作物所へと運んでいった。


 ◇


 家に帰ってきた私は夕食作りを始める。まずはいつも通りパンの生地を作るところからだ。材料を木の器に入れて、混ぜて捏ねる。一つの塊にしたら、濡れた布巾を木の器に被せて発酵させる。


 もしかして、この発酵も早く出来たりするのかな? 濡れた布巾を外して、中の生地が見えるようにすると、時空間魔法を発動させる。時間が早くなるように魔法をかけた。


 すると、パン生地がみるみるうちに膨らんできているのが分かる。これは発酵が早く進んでいる証拠だ。ぐんぐん膨れていき、いつも通りの大きさになると時空間魔法を止めた。


「上手に出来ているかな?」


 パンの生地を突いてみると、問題なく膨れ上がっているような気がする。ガス抜きをして軽く捏ね、小分けに切ると、石の板の上に小分けにしたパン生地を置く。


 それから二次発酵を始めるんだけど、また時空間魔法を使ってみる。生地に魔法をかけると、パンがみるみる膨らんでいき二次発酵が進んでいった。そして、丁度いいところで止める。


 見た感じ、いつもと同じくらいに膨らんでいるような気がする。これって大丈夫だよね? あ、発酵が終わったんならパンを焼かないとまずいよね。どうしよう、いつもは食べる時間帯に合わせて焼いているんだけど。


 うーん……待てよ。時間の変異を出来るっていうことは、時間を早くしたり遅くしたりも出来るけど、時間を止めることだって出来るんじゃない?


 一回試してみよう。使っていた木の器を手で持ち上げる、それから魔法発動の準備をした。木の器から手を放し、時空間魔法を発動させる、時よ止まれ!


 すると、落ちていた木の器がキッチンカウンターに落ちる前に止まった。


「うわぁ、本当に止まっている」


 まじまじと宙に浮いたままの木の器を見る。つんつん、と押したとしてもびくともしない。時を止めることも出来たんだ、この魔法は凄い!


 ということは、出来立てのパンに時空間魔法の時間停止をかければ、いつでも出来立てのパンを食べられるようになるんじゃない? それって凄いことだよね。


 よし、今日はそのやり方でやってみよう。そうすると、急いで石窯の準備をした。燃やした薪を石窯の中に入れて、鉄扉を締める。もしかして、時空間魔法を使ったら石窯の温度も早く温まる?


 手を石窯に向けて時空間魔法を発動させる。今度は時間よ早くなれ、そう願いながら魔法を発動させた。しばらく、待ってみると石窯から発せられる熱が高くなっているような気がする。


 一旦、時空間魔法を切り、魔動力で鉄扉を開けた。すると、高温の熱気がムワッと向かってくる。うん、この温度ならパンが焼けそう。時空間魔法でパンを焼く時間も早くすることができた。この魔法は本当に便利だ。


 パン生地が乗った石の板を石窯の中に入れて、鉄扉を魔動力で締める。……この状態で時空間魔法を使ったらどんなことが起こるんだろう? ものは試しだ、やってみよう。


 今度はパン生地を入れた石窯に向かって、時空間魔法をかけてみた。しばらくすると、いつもよりも早くパンの焼けるいい匂いが立ち込めてきた。その匂いを頼りにパンを焼いていき、丁度いいところで時空間魔法を止める。


 そして、鉄扉を開けて中のパンを見てみると……


「出来てる!」


 美味しそうに焼き上がったパンが出来上がっていた。急いで魔動力で石の板を取り、キッチンカウンターに乗せた。近くでまじまじと見ても、美味しそうに焼き上がったパンにしか見えない。時空間魔法を使った時短パン焼きの完成だ!


 あとは、焼き上がったパンを皿と籠に乗せて、そこで時空間魔法を発動させる。今度は時間停止だ、意識を集中して時間停止の魔法をかけた。すると、フッとパンの焼けたいい匂いが消える。


 これで、焼きたてのパンが時間停止になったのかな? 指で突いてみると、温度を感じなかった。先ほどまで温度を感じていたのに不思議な感じだ、これが時間停止になっている証拠になるんだろうか?


 とりあえず、今日のパンは時空間魔法の時間停止をかけて様子を見よう。何事も挑戦しないと分からないからね、どんどん使っていこう。


 すごく早くパンが焼けたから、やることがなくなったな。よし、家畜の世話にいってこよう。少しずつ元気なってくれるから、触れ合っていると楽しいんだよね。もっと元気になって、放牧スペースを走るぐらいには元気になってほしい。

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