91.称号のレベルアップ

 家畜がやってきて十数日が経った。日に日にます寒さを感じながら、家畜の世話に精を出す。


「おはよう、モモ」


 牛舎の扉を開くと、牛のモモが立ってこっちを見ていた。


「モー」

「声を聞かせてくれて、ありがとう」


 最近になって声を出すようになったモモは少しずつ元気を取り戻している。まだ乳は出ていないけれど、この分だといずれ回復してくれるだろう。


「モモ、掃除をするからこっちにきてね」


 まず、モモを反対側スペースに移動させる。それから、モモがいたところの掃除の開始だ。掃除と言っても落ちていた糞をスコップですくって、バケツに入れるだけだ。


 土の色と似たような色だから見えづらいところがあるけれど、大分慣れてきて見分けがつくようになってきた。慣れた手つきで糞を土ごと回収する。


 そうやって糞を回収した後は水場の水を入れ替えて、餌場に餌を入れる。それが終わると、モモを元にいた場所に戻す。すると、モモは餌に気づき食べ始める。


 その餌を食べ終えた後は放牧して草を食べてもらおう。栄養価のある食べ物だけじゃダメだから、草も適度に食べてもらわないといけないから。


「モモ、美味しい?」


 長い舌を出して、餌をからめとって食べるモモ。以前は食べるのさえも億劫に見えていたが、今は食欲旺盛になって本当に良かった。


 モモが食べている隙に今度は鶏の餌の時間だ。牛舎を出て、隣にある鶏小屋に近づく。


「コケーッ」

「コッコッコッ」

「コケコ」

「今日も元気だね、ココ、ルル、テテ」


 鶏小屋の中でみんなが元気に声を上げていた。鶏小屋の扉を開けて、まずは三羽を外に出す。それから、鶏小屋の傍に置いておいたチリトリと箒で鶏小屋の中の糞を掃除する。


 それが終わると、水場の水を入れ替えて、餌入れに餌と細かく刻んだ野菜くずを入れておく。


「はい、お待たせ。餌だよー」


 三羽を呼ぶと分かったように鶏小屋の中に入っていき、餌をついばみ始めた。前はあんなに鈍かった動きが機敏になってきているように見える。


「ふふっ、美味しい?」

「コッコッコッ」


 夢中になって食べてくれて嬉しい。食べている姿を見るのは楽しくてずっと見ていたくなる。だけど、そろそろモモの食事が終わる頃だ。放牧の時間になる。


 鶏小屋の扉は開けておき、いつでも放牧スペースに出れるようにしておく。それが終わるとモモのところに戻る。食事は終わっていたみたいで、のんびりとしていた。


「モモ、外に出るよー」


 モモを放牧スペースに連れ出すと、のんびりとした足取りで牛舎を出ていった。そして、生えている草を食べ始める。うん、食欲があってよろしい。


 二か所で回収した糞を持って、小屋の後ろに行く。そこには穴が開いていて、糞を入れておく場所だ。それぞれ糞を入れておいて、これでお世話は完了だ。この糞が肥料になったら家庭菜園のところに撒いておこう、効果があるかは分からないけれど。


 家畜の世話が終わると、今度は畑仕事だ。小麦はしばらくは作らなくても平気だから、今は売れるだけの野菜を作っている。一人でも出来る作業量でやっているから、無理なく働くことが出来るのがいい。


 モモと鶏たちの鳴き声を聞きながら、私は畑に向かっていった。


 ◇


 夕方になって、二人が帰ってきた。


「ただいま、ノア!」

「ノア、ただいま帰りました」

「二人とも、おかえり」

「なぁなぁ、聞いてくれ!」


 帰ってきて早々にクレハが詰め寄ってきた。


「今日、新しい力が目覚めたんだ!」

「私もです!」

「え、そうなの!?」


 ということは、レベルが上がったってことだよね。二人を鑑定してみよう。


【クレハ】


 年齢:十一歳

 種族:狼獣人

 性別:女性

 職業:冒険者

 称号:勇者の卵 レベル三


【イリス】


 年齢:十歳

 種族:人間

 性別:女性

 職業:冒険者

 称号:聖女の卵 レベル三


「本当だ、二人ともレベルが上がっているよ!」

「やっぱり、そうか!」

「やりましたね!」

「やったね、二人とも」


 イェーイと三人でハイタッチをする。


「これで、オークと戦えるような気がする」

「いけますでしょうか」

「絶対にいけるって!一度挑戦してみよう」


 二人はオークと戦うことを考えているみたいだ。でも、ちょっと待って、オークって大きな魔物じゃなかったかな?


「そのオークを倒して持って帰るつもり?」

「もちろん、そのつもりだぞ」

「オークは討伐料だけじゃなくて、素材も売れますからね。そのほうが良いんでしょうけど……」

「まぁ、大きいから持ってこれないよね」


 そんな大きなオークを二人が持ってこれるわけがない。倒したとしても、持って帰らないとお金にはならないだろう。そんな魔物を討伐して、メリットはないと思う。


「ウチが荷車を引いてオークを運ぶんだぞ!」

「他の冒険者さんもそんな風に運んでいるんです。でも、いくら身体強化の魔法があるからと言って、クレハの力で本当に出来るんでしょうか」

「ウチに任せろ! 力とスピードなら自信があるぞ!」


 クレハが身体強化を使ったらどれだけ強くなるかは分からない。だけど、そんなにいうんだったら、凄い魔法なのは確かなんだろう。でも、本当に任せても大丈夫なのかな?


「絶対、ウチらだったら勝てると思うぞ。新しい力だって、強力じゃないか」

「いけそうではありますが、まだ自信がありません」

「もし、敵わなかったらイリスを抱えて逃げる! 約束する、無茶はしない!」

「……もう、仕方ないですね。いいですよ」

「やった!」


 クレハの根気強い粘りにイリスが負けた。ということは、二人は一度オークと戦ってみるらしい。


「あんまり、無茶はしないでね」

「分かっているんだぞ、無茶はしない!」

「そういって、クレハは結構無茶なことをするんですよね。いいですか、敵わなかったらすぐに逃げますからね」

「うん、分かった!」


 二人のことは心配だけど、ここは二人を信じて待つしかないね。二人が称号のレベルアップをしたから、今度は私の称号がレベルアップするみたいだけど、今度はどんな魔法を覚えるんだろう。


「ノアは今度、どんな魔法を覚えるんだ?」

「んー、今は分かんないなぁ。どんな魔法があったら便利?」

「肉が増える魔法がいいぞ!」

「そんな魔法があるわけないじゃないですかー。私はパンが増える魔法がいいです」

「もう、二人ともー」


 二人とも食い気で面白い。でも、そんな魔法があったらどれだけいいかなー。


「私は食べたい料理がポンと出る料理がいいかな」

「それもいいんだぞー。好きな時に好きなだけ、好きな料理を出せる魔法で頼む!」

「ふふっ、そんな魔法あったら食べる物に困りませんね」


 そんな魔法があったら素敵だけど、そう簡単にはいかないよね。さて、明日起きたら自分を確認してみよう。


 ◇


 翌朝、起きた私はすぐにステータスを出してみた。


【ノア】


 年齢:十一歳

 種族:人間

 性別:女

 職業:酪農者

 称号:賢者の卵 レベル三


 攻撃力:25

 防御力:25

 素早さ:34

 体力:44

 知力:67

 魔力:80


 魔法:生活魔法、火魔法レベル六、水魔法レベル六、風魔法レベル六、地魔法レベル六、氷魔法レベル六、雷魔法レベル六、植物魔法レベル六、魔動力、時空間魔法


 スキル:鑑定


 称号のレベルと魔法のレベルが上がってるし、新しい魔法の時空間魔法を覚えている! 時空間魔法ってどういう魔法なんだろう、調べてみよう。


 時空間魔法:時間と空間の変異が出来る魔法


 時間と空間の変異? どういう意味だろう、良く分かんない。時間は時間だよね、時間の変異っていうと早くなったり遅くなったり止めたりすることかな?


 じゃあ、空間は? 新しい空間を作る感じになるんだろうか? でも、新しい空間を作ってどんなことが出来るんだろう? うーん、今すぐじゃ良く分からないな。


 とにかく、新しい魔法の活用方法は後にして、先にお弁当を作ってこよう。それにしても、最近寒くなってきたからベッドから出るのも一苦労だね。


 気合を入れて今日のお弁当でも作りますか!

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