93.魔法を活用してみよう
夕方になり、夕食の準備を進める。二人が帰ってくる時間に合わせて夕食を作っていると、家の扉が開いた。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「二人ともお帰り」
今日も二人が無事に帰ってきた。そのことにホッとしながら、二人に近づいていく。
「はい、洗浄魔法」
二人の汚れを取るために洗浄魔法をかける。すると、二人は気持ちよさそうな顔をして魔法を受けてくれた。
「はー、お腹空いたー」
「今持っていくから、席に座ってて」
「ありがとうございます」
二人を席につかせると、料理を皿に盛ってテーブルの上に並べた。自分も席についた時、パンの話をする。
「今日のパンは焼きたてなんだよ」
「焼きたてですか? でも、触ってみても温かくないですよ」
「帰ってきた時は料理をしていたから、焼きたてじゃないぞ」
「ふっふっふっ、この時空間魔法を解除すると……」
二人の目の前でパンにかかった時空間魔法を解除した。すると、パンから焼きたての熱いいい匂いが漂ってくる。
「これは、焼きたてのパンの匂いですね!」
「本当だぞ。さっきまで、全然匂いがしなかったのに……どうしてだ!?」
「新しく覚えた時空間魔法で焼きたてのパンの時間を止めてたの」
「新しい魔法を早速使ったんですね。なるほど、時間の停止が出来るんですね」
「他のことも出来そうだけど、今日はそれをやってみたんだよね。さぁ、食べてみて」
二人が焼きたてのパンに手を伸ばす。
「あちち、本当に焼きたてなんだぞ!」
「家に帰ってきて焼きたてのパンが食べられるのって凄いことですよ!」
「いつもは焼いて少し経ったパンだからね、ちょっと冷めるのが難点だったね」
「いただきます……ん! これは、焼きたてのパンの味です!」
「むぐむぐ、うん! 焼きたてだ!」
「魔法が成功したみたいで良かったよ」
これで時空間魔法の時間停止によって、パンの時間がしっかりと停止されていたことが分かった。自分もパンを食べてみると、焼きたての熱くてフワフワした食感が口に広がった。
「これは良い魔法ですね。この魔法があれば、いつでも焼きたてのパンが食べられるということですよね」
「だったら、料理にも使えるんじゃないか?」
「うん、料理にも使えそうだね。今日は試しにパンだけに魔法を使ってみたんだけど、今度から料理にも使ってみる」
「焼きたての肉もいつでも食べられるんだぞー」
「毎日の食事がもっと楽しみになってきました」
パンが成功したんだし、料理に使っても大丈夫だろう。二人が帰ってくる時に合わせて作るのはちょっと大変だったから、この魔法は本当に助かる。事前に作っておいて、時空間魔法を使えばいいだけだから。
「そうだ! お弁当にも使えるんじゃないか!」
「そうですね、その手もありますね!」
すると、クレハが良いことを思いついたようにいった。お弁当に時空間魔法を使うのか、それはとてもいい案だと思う。だけど、それには大きな欠点がある。
「確かにお弁当にも使えるとは思う。だけど、時空間魔法を解除できる私がいないと作りたてが食べられないと思うよ」
「そうだ、それがあったんだ!」
「そうですね、ノアがいないと魔法の解除が出来ないんでしたよね」
二人ともがっかりした表情で肩を落とした。時限式に魔法が解除出来るようになれば大丈夫なんだけど、そのやり方があるのかどうかも分からない。今度試してみようかな。
二人ともがっかりしているので、ここは話題を変えよう。
「そういえば、今日はオークと戦えたの?」
二人の昨日言っていたオーク、無事に帰ってきたことは勝ったということかな? でも、それだったら素材のオークを持ってくるはずだけどそれが見えない。
「それがですね、オークを運ぶ荷車がなかったから今日は諦めたんです」
「その荷車がないとオークを倒しても運べないんだぞ。ウチは一体でもいいから持っていく、て一旦だけどイリスに止められたぞ」
「オークを背負ったままの移動は危険ですからね。突然、魔物たちに襲われたらすぐに対処出来ないです」
「ウチはすぐにオークを放り出すって言ったんだけど……」
「もう、それでは危険です。クレハはもっと考えたほうがいいです」
オークを運ぶ荷車がないとオークを倒しても報酬額は低い。そのことをしっかりと理解しているイリスが無駄なことをするクレハを止めたみたいだ。
「それは残念だったね。荷車か……木工所に依頼して二人専用の荷車でも作ってもらう?」
「それは名案なんだぞ! 専用の荷車があれば、いつでもオークを狩れるんだぞ!」
「そうですね、そうしたほうが良さそうです。冒険者ギルドで貸し出している荷車はいつも全て借りられていますから」
オークみたいな大きな魔物を運ぶためには、荷車が必要だ。それを引くのも大変だろうけれど、クレハには身体強化があるからなんとかなると言っている。
本当ならそんな重い思いをさせたくないんだけど、他の手段は思いつかない。……まてよ、時空間魔法は使えるかな? 時間のほうは使ったけど、まだ空間の方は使っていない。
空間の変異が出来るってことは、物の狭さとか広さを調節出来るものなんじゃないかな? それとも、新しい空間を作ったり出来る魔法なのかな?
「二人とも、もしかしたら荷車がなくても大丈夫かもしれない」
「どういうことですか?」
「私が覚えた魔法は時空間魔法。時間と空間をつかさどる魔法なんだけど、空間のほうを使ってみたらどうかなっと思ったんだ」
「空間ってなんだ、難しくて良く分からないぞ」
「物が存在していないところの間、ていうことかな」
「物が存在していない? うーん、やっぱり分からないぞ」
クレハは腕を組んで難しそうな顔をしている。イリスは分かっているような顔で頷いてくれた。
「空間の魔法、それを使ったら大きくて重たいものをどうにか出来るかもしれない、ということなんですね」
「うん、一度試してみようよ。そしたら、大きくて重たいものを無理なく運べるようになるかも」
「それじゃあ、早く夕食を食べちゃおう。どうなるか気になるぞ」
空間の魔法を試すために、早めに夕食を食べ終える。先に食器や二人のお弁当箱に洗浄魔法をかけて、棚に戻しておく。これで準備完了だ。
「何に魔法をかけるんですか?」
イリスの問いに私は考える。空間が必要だから、個別の空間になっているものに魔法をかければいい。個別の空間になっているもの……リュックなんてどうだろう?
「リュックに魔法をかけようと考えたよ」
「リュックならいいな。魔物討伐にも持っていけるし、物を入れる道具だぞ」
「それじゃあ、私のリュックで試してみるね」
私は壁にかけていた自分のリュックをダイニングテーブルに持っていく。この何も変哲もないリュックが時空間魔法をかけたらどんな風に変貌するんだろう。
「よし、時空間魔法をかけるよ」
「おう」
「お願いします」
二人が見守る中、私はリュックの中に手を入れて時空間魔法を発動させる。空間を意識して魔法を使うと、リュックの中に魔力が広がっていく感覚がした。
そのまま魔力を広げている感覚で魔法を発動した。そして、これ以上広がらない、というところで魔法の発動を止める。
「どうですか? 上手くいきましたか?」
「リュックの中、どうなったんだ?」
二人が興味津々に聞いてくる。そこで、改めてリュックの中を手で探った。普通ならリュックの中に手を入れて動かすと、リュックの生地の感触がする。だけど、今はなんの感触も感じない。
それどころか、手をどんどん奥に入れることが出来て、とうとう腕を全て入れることが出来た。
「二人とも見て、腕がすっぽり入っちゃうよ」
「おお、なんか凄い光景だぞ!」
「大丈夫なんですか? ノアの手がどっかいっちゃったように見えます」
「なんか、リュックの中の空間がめちゃくちゃ広くなったように感じるんだよね」
外からリュックを見た時は、私の手から肘までの長さしかないのに、今はそれ以上の長さが入っているように見える。見ている物の大きさと実際の大きさが違うので、ちょっと混乱してしまいそうだ。
「多分、リュックの中が拡張されたんだと思う」
「ということは、そのリュックは見た目以上に物が入るっていうことなんですね」
「一体、どれだけ入るんだ?」
確かに、一体どれだけこのリュックには物が入るんだろう。
「よし、物を入れて確かめようか!」
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