89.家畜小屋を作ろう(1)

 餌作りをした翌日、私は木工所にやってきた。いつものように外では息子さんのヒートさんが木材の加工を施しているところだ。


「ヒートさん、おはよう」

「やぁ、ノア久しぶり。今日はどうした?」

「今日は家畜小屋を作ろうと思って、設計図と道具を買いに来ました」

「家畜小屋……もしかして家畜を飼っているのか?」

「うん、先日から飼い始めたんだ」

「へー、ノアはなんでもやるんだな。すごいな」


 家畜を飼っていることを伝えるとヒートさんは驚いた表情をした。野菜作り、家造り、今度は家畜の世話。色んな事をやっているから、そのせいで驚いているのかな?


「親父なら中にいると思うから、詳しくはそっちで話してくれ」

「うん、分かった」


 ヒートさんに一度別れを告げて家屋に入っていく。すると、そこではダンさんが木材の加工をしているところだった。


「ダンさん、おはよう」

「ノアか久しぶりだな。何か用でもあったか?」

「うん、家畜を飼い始めたんだけど、家畜小屋を作ろうと思って。設計図と必要な道具を買いに来たの」

「ほう、今度は家畜か。大変だけどやりがいのある仕事だと思うぞ。設計図はあるから、好きなものを見つけてこい」

「分かった。ありがとう」


 ダンさんの了承も得て、私は設計図が並ぶ本棚に近づいた。その中から家畜小屋の本を探していく。あった、これだ。早速中身を見て自分でも作れそうな家畜小屋を探す。


 これは大きいし、これも大きい。丁度いいサイズの家畜小屋はあるかな……あ、これなんてちょっと大きいけど良さそう。そこに乗っていたのは四頭の家畜を飼える大きさの家畜小屋だった。


 小さな鶏小屋も見つけることが出来た。あとはこれに必要な道具を買うだけで良さそうだね。早速、ダンさんに話しかけてみよう。


「ダンさん、作る小屋が決まりました」

「どれだ、見せてみろ」

「これです」

「……まぁ、この辺りが手頃だろうな。待っていろ、今必要な道具を見繕てやるから」


 すると、ダンさんは仕事から離れて道具が置いてある家屋のほうに進んでいった。私はそのまま家屋の中で待たせてもらう。しばらく待っていると、台車にいくつもの木箱を積んだダンさんが現れた。


「待たせたな、これくらいあれば間に合うと思う」

「ダンさんありがとう」


 支払いの料金を教えてもらい、その料金を支払った。台車を受け取って外に行くと、持ってきた荷車に木箱を詰め込んだ。


「ダンさん、今回も色々とありがとう」

「どういたしまして。良い小屋が出来るといいな」

「うん、頑張って家畜のために小屋を作るよ」

「ノア、頑張れよー」

「ヒートさんもありがとう! 今度何か手伝えることがあったら教えてね、手伝いに来るから」

「あぁ、その時はよろしく頼む」


 私は荷車の車輪を魔動力で動かすと、木工所を後にした。


 ◇


 家についた私は荷車を置くと、まず今ある土地を見回った。畑があり、家庭菜園があり、家がある。余った土地を見ると、家畜小屋を建てる十分なスペースはあるが、牛を放牧するスペースが足りないことに気づく。


 なら、木を沢山抜いて放牧するスペースを作ればいい。丁度小屋を作るのに木材が必要だったから丁度いいね。家畜小屋を建てる場所を決め、放牧する場所を決めると早速木を抜き始める。


 魔動力を使い、地面に生えている木を抜く。木を抜いたら木の根っこの部分を風魔法で切り落とす。次に木の上の部分も切り落とした。


 次に切り落とした木の根っこを風魔法で細切れにして、いらないものなので火魔法で焼却処分する。それが終われば木の枝の部分の処理だ。


 薪になりそうな枝は風魔法で切り、薪に変えておく。それ以外の部分、細い枝や葉っぱの部分は切り落とすと一か所に集めて火魔法で焼却処分をする。残ったのは木の丸太、それに乾燥魔法をかけておく。


 この一連の作業を黙々と進めていく。木を抜いては余分なところを切ったり薪に変えたり、最後に乾燥魔法をかける。そうやって次々に薪と丸太を作っていく。


 今回は家みたいな大きな建物じゃないから、そんなに丸太は必要ない。あとは放牧するスペースさえ取っておけばいい。スペースと必要となる木材の兼ね合いを実ながら作業を続けていった。


「まぁ、こんなものかな」


 昼ごはんの前には木を丸太にする作業は終わった。沢山の木を抜いたことで、広いスペースを作ることが出来たし、必要以上の丸太を作ることも出来た。


 一度家に戻ってお弁当を食べると、昼の作業の開始だ。まずは家畜小屋の土台となる部分から。地面に手を置き、地魔法で石を呼び寄せる。設計図を頭に叩きこんで、その通りに石を発現させる。


 一気に魔法を使うと、土台の石が現れた。この部分が家畜小屋の床になる部分だ。あとはこの土台に木材を固定して、小屋を作っていけばいい。次は丸太を木材に変える加工だ。


 まず、地魔法で木材を置く土台を呼び出す。その上に丸太を魔動力で乗せると、丸太の切り口に定規とペンを使って切りたい木材の線を書く。設計図を見ながら間違いのないように慎重に書いていき、番号もふっていく。


 それが終わると、今度は切り出し作業だ。丸太を魔動力で浮かせると、今度は風魔法を使って丸太を切っていく。線に沿って慎重に切っていくと、余分な木材と完成した木材が出来上がった。


 完成した木材と余分な木材とで分けて地面に置いておく。次に完成した木材に溝を掘っていく作業だ。この木材は柱となる部分だから溝同士をくっつけて組み立てる必要がある。


 設計図を見ながら、番号を間違えないように確認をして、溝を掘っていく。久しぶりの作業だから、はじめは慎重に作業をしていき、慣れてきたら少しずつペースを上げていく。


 そうやって、出来上がった木材に全ての溝を掘り終えた。久しぶりだからちょっと時間がかかったけど、丁寧に仕事が出来たと思う。満足いく溝が掘れて嬉しい。


 次の丸太の加工に移ろう。丸太を土台の上に移動させると、丸太の切り口に定規とペンを使って線と番号を書く。それから丸太を宙に浮かせると、風魔法を使って丸太を切る。うん、線の通り切れたと思う。


 余分な木材を避けて、必要な木材だけを近くに置いておく。それから、土台に切った木材を置き、また溝を掘っていく。設計図を見ながら間違えないように慎重に作業を進めていく。


 集中して作業を進めていくと木材の加工が終わった。さて、また次の木材に移りたいところだけど、夕食の準備の時間だ。先にパン作りをして、発酵している間にまた木材の加工を始めよう。


 ◇


 夕方になり、魔物討伐からイリスとクレハが戻ってきた。


「なぁなぁ、ノアは小屋づくりを始めたのか? 丸太が沢山置いてあったぞ」

「そうだよ。木材加工も始めているよ」

「すぐに作り始めたんですね。ちなみにどんな小屋になるんですか?」


 帰って早々に丸太の存在に気づいたみたい。二人とも興味津々に家畜小屋のことを聞いてくる。私は食事の用意を一旦ストップして、設計図を持ってきてテーブルの上に広げた。


「これを造ろうと思っているよ」


 造るページを見せると、二人は「ほー」と図面を覗き込んだ。


「今度はこんな小屋が建つのか。なんだか楽しみだな」

「こんな立派な家を建てたノアですから、小屋を建てるのも簡単にしちゃいそうですね」

「まぁ、この家よりは建てるの簡単だと思うよ」

「なんだか、家族の家が建つって思ったらワクワクするな。頼んだぞ、ノア」

「そうですね。ノア、大変かと思いますが頑張ってくださいね」


 二人に激励されて、やる気が漲ってきた。この調子で明日の作業も頑張って続けていこう。その前に、夕食を食べないとね。


「じゃあ、夕食にしようか」

「やったー。今日の夕食は何かな」

「楽しみです」


 賑やかな声が家の中に響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る