88.家畜を飼おう(6)
「「「ごちそうさまでした」」」
家の中で昼食を食べ終えた私たちはイスに腰かけてのんびりとする。
「はー、きなこ揚げパン美味しかったです」
「もっと食べてもいいくらいだよな」
「だねー」
出来立てのきな粉揚げパンはやっぱり美味しかった。油と砂糖の背徳感マシマシの食べ物はどうしてこんなに美味しいんだろう。
「ウチはあの粉だけ食べてもいいぞ!」
「私は絶対にパンと一緒じゃないと嫌です!」
「粉だけでも美味しいぞー!」
「いいえ、絶対にパンと一緒がいいです!」
クレハとイリスがきな粉への熱い思いをぶつけあっていた。そんなに魅惑の粉だったんだ、確かに美味しいもんなー。
「まぁまぁ、二人とも。きな粉が美味しいのは分かったから、落ち着いて」
「いいえ、これは大事なことです。なぜ、きな粉揚げパンがこんなに美味しいのかクレハは分かっていないのです」
「ウチは分かっているんだぞー。きな粉のお陰なんだぞ!」
「ですから、あの美味しさは揚げたパンと一緒になるから美味しいのであって」
イリスが熱くなっちゃった。クレハに根気強くきな粉揚げパンの美味しさを語っている。パンのことになるとイリスは熱くなるから、気を付けないとね。
「分かりましたか、クレハ」
「うー……分かんないんだぞ」
「ですから」
「まぁまぁ、イリス。その辺にしておこうよ。きな粉揚げパンの美味しさは分かっているから」
「ですけどー……」
まだ、語り足りないみたいだ。ここは話題を逸らさないと。
「昼食も食べ終わたし、次の作業に移ろうよ」
「次はどんな作業をするんですか?」
「次は収穫したとうもろこしと大豆を砕く作業だよ」
「あのままじゃ、ダメなのか?」
「鶏はあのままじゃ大きすぎるし、牛は大丈夫そうだけど今は元気がないから食べやすいように砕いてあげるの」
話を聞いた二人は納得したように頷いた。
「作業はどこでやるんだ?」
「キッチンカウンターの上でやるよ」
「それじゃあ、外にある作物を持ってこないといけないですね」
「それは私がやるよ。魔動力で浮かせて持ってくるね、二人は家の中で待ってて」
「では、テーブルの上のものは私たちが片づけますね」
「洗浄魔法をかけてくれー」
席を立つ前に、お弁当箱やフォークに洗浄魔法をかける。それから、家を出て先ほどの脱穀機の近くに行った。そこには沢山の袋が置いてあり、全ての袋を魔動力で浮かび上がらせてそのまま家に戻っていく。
「持ってきたよー」
扉を開けて袋を家の中に入れて、床に置く。テーブルの上はもう片付いたみたいで、二人はキッチンカウンターのところにいた。
「それじゃあ、始めようか。まず袋に作物を入れる」
空の袋を数枚持ってきて、その中にとうもろこしと大豆を分けて入れる。袋の口を縛るとそれをキッチンカウンターの上に置く。
「えーっと、これからこの袋の中を潰すんだけど……ハンマーが一つしかないよね。ちょっと待って、石を持ってくるから」
一度外に出て、地魔法で石を呼び出す。石の形をハンマーの形にすると、それを持って家の中に戻る。それから、出来上がったハンマーを二人に手渡す。
「はい、これを使って袋の上から叩き潰して」
「仕上がりはどんな感じがいいですか?」
「先に鶏の餌から作ろう。だから、細かく砕いてね」
「分かったぞ。こういう作業ならウチは得意だぞ」
三人でキッチンカウンターに並ぶと、袋の上から石のハンマーで作物を叩く。ドン、ドンという音が家の中に響き渡る。
「これは結構な力仕事ですね。でも、細かくしないと鶏さんが食べられなくなるので頑張ります」
「だったら、ウチが頑張るんだぞ。うおぉぉっ!」
「ちょっと、クレハ。そんなに激しくやらなくてもいいよ」
物凄い勢いで石のハンマーを振り下ろすクレハ。作業が捗るのはいいけれど、ちょっと激しすぎないかな。振り下ろすハンマーが危なさすぎる。
「粉々にしてやるんだぞ!」
「いやいや、粉々になったら鶏も食べ辛いと思うから粒は残しておいてね」
「鶏のくちばしでついばむことができる大きさですね」
「そうそう、そういう感じ。クレハはもうちょっと力を抑えてね」
「そうなのか? 分かったぞー」
良かった、クレハが普通の力で作物を叩いてくれるようになった。そうやって、三人で作物を叩いて潰していく。ある程度、叩き終えると袋の上から作物の状態を確認する。うん、良い感じに細かくなった。
「二人とも、もうできた?」
「私は出来ましたよ」
「ウチもー」
「なら、作物を合わせようか」
もう一つの袋を取り出すと、それぞれが潰した作物を中に入れる。それに加えて、麦も中に入れると袋が良い感じに膨れた。あとはこの中身を混ぜるだけだ。
作物の入った袋を魔動力で宙に浮かせると、それを回転させて中の作物を混ぜていく。
「何しているんだ?」
「こうやって、中の作物を混ぜているの」
「ウチもやってみていいか?」
「もちろんいいよ」
クレハと交代して回してもらう。宙でグルグルと回転する袋、中の作物も十分に混ざった頃かな?
「それくらいでいいよ」
「中身は混ざりましたかね?」
「ウチがやったんだから、絶対に混ざっているぞ」
うん、こんなに回転させたんだから大丈夫だと思う。これで一つ目の鶏の餌が完成した。結構重労働だったけど、無事に完成出来たようで安心した。
「それじゃあ、どんどん餌を作っていこうか」
「おう! ウチに任せろ!」
「はい、頑張りましょう」
餌作りが本格的に始まった。
◇
作物を叩いて砕く作業と作物を混ぜる作業が終わり、餌作りは終了した。家の隅に何袋も積み重なった袋を見て、達成感が沸き起こる。
「二人とも、餌作りを手伝ってくれてありがとう。お陰で、餌作りが終わったよ」
「ノアの役に立って良かったぞ」
「これでしばらくは大丈夫そうですね」
本当に二人に手伝ってもらって助かった。一人では一日でこんなに餌を作ることが出来なかったからね。
「早速、餌をあげてこようか」
キッチンカウンターの下から大きな木の器を取り出すと、袋から餌を移す。十分に餌を入れたら、それを持って外へと出ていった。石の囲いの中を見ると、牛は座っている。鶏はボーッと立っているだけだ。
「やっぱり、まだ元気がないですね」
「うん、早く元気になってほしいね」
「みんなー、餌を持て来たんだぞー」
石の囲いの中に入り、イリスとクレハに餌の入った木の器を手渡す。二人は石の餌場に餌を入れて、今度は牛と鶏を誘導する。
「餌を持ってきたんだぞー。動け―!」
「はい、餌はこちらにありますよ」
クレハは牛を押していて、イリスは鶏を餌場まで抱えていく。鶏を餌場の近くに置くと、鶏はすぐに餌に気づいて餌をついばみ始めた。
「あ、すぐに食べてくれました。良かったー、沢山食べてくださいね」
「ウチは全然動かないぞ。こういう時は餌で釣ればいいんだっけ」
クレハは餌場に近づき、片手に餌を乗せるとそれを牛の口先まで持っていった。
「ほら、餌だぞー」
チラつかせると、牛の頭が動いた。餌に気づき、長い舌で餌を絡めとって食べ始める。
「よしよし、いい子だ。さぁ、こっちにおいで」
クレハが餌場に誘導すると、座っていた牛が立ち上がりそちらのほうに歩いていく。そして、餌場に入った餌に気づき食べ始めた。
「ふー、ようやく食べてくれたぞ」
「お疲れ様。餌だと気づいたらすぐに食べてくれるようになったね」
「うん、少しは元気になってくれたと思うぞ」
鶏も牛も餌があると気づいたら食べてくれた、これは少しずつだけど元気になっている証拠だ。とにかく、このまま餌を与え続ければなんとか元気になってくれるだろう。
餌をついばむ鶏と餌を長い舌で絡めとる牛、のどかな雰囲気が流れていた。
「じゃあ、次は私たちの夕食の準備でもしようか。また、一緒にパンを作ろうか」
「それはいいな! 今度はどんなパンを作ろうかな」
「もうそういう時間になっていたんですね。家の中に入って、パン作りをしましょう」
家畜の世話を終わり、今度は自分たちの世話をする番だ。三人でお喋りをしながら家の中に入っていった。今日は楽しいパン作りが出来るみたいで良かったな。
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