81.ひっぱりだこ
「コルクさーん、今日の仕事終わったよー」
作物所のお店の中に入り、声をあげた。すると、奥から物音が聞こえてきてコルクさんと男爵様が現れる。
「あ、男爵様! こんにちは」
「あぁ。今日は製粉の手伝いをしていたんだってな」
「はい、そうです」
「ノアが手伝ってくれて、本当に助かっている。ありがとう」
男爵様はニカッと笑って褒めてくれた、嬉しいな。
「今日はどれくらい進んだ? 半分はいったか?」
「今日は小麦を全部小麦粉に変えるところまで進んだよ」
「何、それは本当か!?」
「うん。今、最後にひいた小麦粉をふるいにかけているところだよ」
小麦粉の状況を伝えるとコルクさんはとても驚いている様子だった。
「ノアが手伝ったのは、石臼を回すことだよな」
「他にも手伝ったよ。ふるいにかける時に魔動力で小麦粉を移動させたり、倉庫に小麦粉を運んだりもした」
「そんなところまで手伝えるのか。いや、よく考えれば魔動力があれば、それだけのことは出来るはずだ」
腕組をして難しい顔をするコルクさん。どうやらそこまで考えつかなかったみたいで、感心をしている様子だった。
「細かいところまで気づいて手伝ってくれてありがとな。報酬は上乗せするぞ」
「やったー、ありがとう!」
「どれだけの小麦粉が出来たのか見てみたい。倉庫を見せてもらってもいいか?」
「もちろんです、こちらになります。ノアも来てくれ」
「はーい」
男爵様から意見が出て倉庫を見に行くことになった。私もその後についていって、店から出た。それから倉庫について扉を開けると、倉庫の右側に沢山積まれた小麦粉の袋が見える。
「一日でこんなに小麦粉が出来たのか、信じられない」
「俺もそう思います。全部、ノアのお陰でしょう」
「私、頑張りましたよ!」
沢山積まれた小麦粉の袋を見て、男爵様もコルクさんも驚いている様子だった。普通ならここまでは進まないのだけど、今回は私の魔法があったからここまで進むことが出来た。
魔法の恩恵を目の当たりにして、二人は難しい顔をする。
「こんなに作業が早く進むのはありがたい。これだと早く町に小麦粉が届けられそうだ」
「町に使いを出して、小麦粉の販売を早めることを伝えますか?」
「うむ、そうしたほうがいいだろう。町も小麦粉を欲していたしな、出来るだけ早い方がいい」
「では、明日朝一で町に使いを出します」
これで町の人たちも早く小麦粉が手に入ることになるね。頑張ってよかったなー、これでみんなお腹いっぱいパンが食べられるといいな。
「……ノア、またお手伝いをしてもらってもいいか?」
「はい、どんなお手伝いですか?」
「もう一回、農家を回って小麦を乾燥させるお手伝いと今回のように小麦を引くお手伝いだ」
もう一回やるってことか。私のやることは今は少ないし、全然平気だね。
「もちろん大丈夫ですよ」
「ということは、男爵。もう一度、同じ作業をやらせるってことですね」
「あぁ、今回の量では商人も満足に小麦が売れる量がないだろう。だから、町から商人たちが来る前に売る量を増やしておく必要がある」
なるほどね、買い付けにくる商人の数が多いことを見越して、早めにその量を確保するつもりなんだね。うんうん、そのほうがみんなに小麦粉が行き渡るからいいね。
「じゃあ、俺は農家の人たちに明日のことを伝えてくる。そっちのことは頼んだぞ」
「はい、お任せください」
「ノア、明日迎えに行くから待っていてくれ」
「宿屋で食事をとったら、屋敷まで行きますよ。そのほうが早いです」
「そうか、分かった。そうしてくれ。では、またな」
男爵様は足早にこの場を去って行った。
「仕事が増えたけど、ノアは大丈夫か?」
「私は全然平気だよ」
「でも、確か他にも頼まれた仕事がなかったか?」
「木のほうはほとんど終わっているんだよね。だから、大丈夫」
「そうか、ならいいんだが」
私が平気だと知ると、あからさまにホッとした顔になった。コルクさんは私のことを気にかけてくれて、本当に優しいな。
「ノアが来てくれて、本当に助かっている。これが終われば、状況は落ち着くだろう。だから、もうひと踏ん張りだ」
「うん、任せて。村のためにも、町のためにも頑張るから」
「頼もしいな。だが、無理はするなよ」
「うん、分かった。じゃあ、夕食の支度があるから帰るね。またねー!」
私はコルクさんに別れを告げて、その場を後にした。
◇
次の日、朝食を食べ終えた私は男爵様の屋敷に立ち寄った。少し待たされたが、すぐに男爵様と合流する。それから馬に相乗りになって、農家がいる地区へと馬を走らせた。
まずは一軒目の農家に行くと、子供が一人で待っていた。どうやら、この間と同じ順番で回るみたい。
「男爵様、おはよう!」
「よう、留守番ご苦労。早速小麦を乾燥させていくな」
「うん!」
「ノア、よろしく頼む」
「はい!」
馬に乗ったまま、山になっている小麦に手を向ける。そして魔力を解放すると、乾燥魔法をかけた。段々しなびていく小麦を見ながら、丁度いいところで乾燥の魔法をストップさせる。
「こんなものでしょうでしょう」
「うむ、確認してくれ」
「はーい」
その子供が小麦を確認した。
「うん、良い感じだよ」
「よし。それじゃあ、早く脱穀するように伝えてくれ」
「分かった、行ってくる!」
すると子供は畑仕事をしている親の下に走っていった。
「この調子で次々と乾燥させてくれ」
「前回と同じようにですね」
「あぁ、そうだ。それじゃあ、行くぞ!」
男爵様はまた馬を走らせた、乾燥マラソンが始まる。次々に農家を訪れては、山になった小麦の束を乾燥させていく。乾燥させるとすぐに違う農家へと馬を走らせた。
時々、農家の人が水を持って待機していた。どうやら走る馬のために水を用意していたみたいで、馬はその水をごくごくと勢いよく飲み干し、また走っていった。
水は男爵様がお願いして用意してもらったみたい。農家を駆け回る馬のことを気にしてそんなことをお願いしていたんだ、男爵様の人の好さが伝わるお願いだった。
色んな農家を巡り、小麦を乾燥させていく。午前中には全ての農家を回り終えることが出来た。
「いてて」
「どうした?」
「お尻が痛くて」
「馬に乗り慣れていないとそうだな。すまんな、無理をさせて」
「いえいえ、気にしないでください」
馬に沢山揺られたからお尻が痛くなっちゃった。それを口にすると男爵様はとても申し訳なさそうにして、謝ってくれた。しまった、気をつかわせてしまった。私は慌てて首を横に振った。
「いや、気にする。村のために頑張ってもらっているのに、そのせいで怪我をしてしまったら一大事だ」
「男爵様……気を使ってくれてありがとうございます」
「気にするな、俺が好きでやっていることだ」
召使いの時はこんなことでは気にもかけられなかったけれど、今は違う。身近に自分の体を心配してくれる人がいるって、本当に安心するよね。それが偉い人ならなおさらだ。
「帰りは景色を見ながらゆっくりと帰ろう。そのほうがお尻も痛くないだろう」
「でも、男爵様はお忙しい身じゃ」
「何、忙しさなんてどうとでもなる。今はノアの体の方が心配だ」
「ありがとうございます」
この気遣いが本当に嬉しい。馬は静かに歩いてくれるし、お尻も痛くないね。お言葉に甘えて景色でも楽しもう。
「今年は小麦が去年よりも採れて良かったですね」
「あぁ。見てくれ、この小麦畑を。また刈られていない小麦がこんなにも残っている、今年の冬は安心してこせそうだ」
辺りを見渡すと、まだ刈り途中の小麦畑が良く見える。そののどかな景色は見ていて心が和む、いつみても飽きない景色だ。
のんびり進む馬上で景色を楽しむ。これってとっても贅沢なことなんじゃないかって思う。この村に来て良かった、何度もそう思っては男爵様の楽し気な話しに耳を傾けた。
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