82.木のお仕事、完了!

 男爵様に連れられて、農家を回って小麦に乾燥魔法をかけ終えた。その翌日は、またコルクさんのところで製粉作業のお手伝いをした。


 作業はこの間と同じ、石臼を回して小麦を砕き、作業員たちに魔動力で浮かせた小麦をふるいにかけさせ、袋詰めされた小麦粉を倉庫に運ぶ。この一連の動きをした。


 お陰で倉庫には沢山の小麦粉が置かれていて、沢山の商人が買いに来ても大丈夫なくらいになった。コルクさんはその小麦粉の山を見て、嬉しそうな顔で笑っていたのが印象的だった。


 コルクさんから多めの仕事料を受け取って、今回のお手伝いは終了した。残りの製粉作業は需要を見ながら、仕事が無くならない程度の速度で行っていくらしい。


 もし急な需要が求められたら、その時は私にもう一度助けて欲しいみたいだ。もちろん、私は了承をした。困っている時はお互い様だよね、どんどん頼ったらいいと思う。


 お手伝いがひと段落し、畑仕事も時々野菜を作る程度で良くなった。次に私がするべきことは、木を抜く作業だ。まだこれが終わっていない。だから、私は久しぶりに樵の兄弟のもとを訪れた。


「おー、ノアか! 久しぶりだな!」

「ノアちゃん久しぶり。最近忙しかったの?」


 久しぶりに合う樵の兄弟は変わらずに元気だった。


「中々来れなくてごめんね。畑仕事や他の仕事も入ってきちゃったから、来れなかったんだ」

「何も気にするな。ノアの仕事は俺たちよりも大分先に進んでいるからな、これくらい支障はない」

「そうそう。森だってあともう少しで全部の木が無くなるし、ノアちゃんの仕事は早すぎるくらいだよ」

「そっちの仕事は捗っている?」

「まぁまぁだな。薪を作るのも一苦労だからな、無理せずやっているってところだ」

「ノアちゃんは魔法を使うからいいけれど、僕たちは道具を使ってやっているからね。時間がかかるのは仕方のないことだよ」


 木を切るのはそれだけ重労働だということだろう。魔法ではすぐに出来ることも、道具だと時間がかかってしまう。私がやってもいいのだけれど、それだと樵の兄弟の仕事が無くなってしまうから私は手を出さない。


「それじゃあ、仕事を始めようかな。まず先に燃やして欲しいものとかある?」

「もちろんあるぞ。あっちに葉っぱの山が出来ているだろ? あれを燃やして欲しい」

「結構な量があるから燃やすの大変だけど、頑張ってね」


 指を刺された方向を見てみると、葉っぱや細い枝が山のように積まれていた、それが三つも出来ている。


「燃やすのは任せて。ぱぱっとやっちゃうから」

「頼もしい言葉だな」

「任せたよ、ノアちゃん」


 私は樵の兄弟から離れると、葉っぱと枝の山に立ち向かった。近くに行くと、その山の大きさが良く分かる。私がいない間、樵の兄弟は頑張ってこんなに処理したんだな。


 よし、私も負けないようにこのゴミを焼却処分だ。山から少し離れると、両手を山にかざす。そして、魔力を高めると火魔法を発動させた。


 山を包み込むように大きな炎を出し、勢いをつけてゴミを燃やしていく。生木、生葉っぱだから火は中々移らない。だから、火力を上げて魔法の火で葉っぱや枝を燃やしていく。


 大火力で山を燃やしていくと、少しずつだが嵩が減ってきた。葉っぱと枝が燃えて言っている証拠だ。私はそのままの火力を維持して、どんどん燃やしていった。


 燃やしてからどれくらいの時間が経ったのか分からないが、山の嵩はどんどん減っていった。そして、山の嵩がぺったんこになったのを見ると、魔法を止めた。


 火が消えた後に残ったのは黒ずみの物体だけ、元は葉っぱや枝だったものだ。燃やしにくいものを燃やすのは一苦労だね。あとは燃えカスを地面の中に埋まれば、これでひと山の作業は完了した。


 残りはふた山か、こっちも早く終わらせて木を抜く作業に入らなきゃ。


 ◇


 久しぶりに戻ってきた作業は順調に進んだ。樵の兄弟が薪を作る時に出た葉っぱや細い枝を燃やして、燃えカスを地面に埋める。木を地面から抜いて、根っこと葉っぱのついた枝を切り落として丸太に変える。


 その作業をずっと続けていった。あんなに沢山あった森の木がどんどん丸太に変わっていく光景は面白い。開拓している、ていう感じがしてちょっとだけワクワクした。


 他にやる仕事もないので、毎日通って作業をしていた。すると、とうとう抜く木がなくなったのだ。


「やったー、終わったー!」


 最後の木の加工が終わると、私は両手を上げて喜んだ。改めて周囲を見てみると、周囲には沢山の丸太が転がっていた。


 この丸太の置き場所が実はなくて、今はこの土地に転がしている。木工所のところで丸太の保管はしているのだが、そっちがいっぱいになってしまったので持っていけない。だから、土地の余っているここに置きっぱなしになっている。


 ちょっと丸太の置き場所は気になるが仕方がないだろう。私は遠くで薪づくりの作業をしている樵の兄弟のところへ向かった。


「全部木を抜き終わったよー」

「何、本当か! 凄いじゃないか、全部の木を抜くなんて」

「やったね、ノアちゃん」


 二人に報告すると、二人は驚いた後に褒めてくれた。作業を開始して一か月以上経っているけど、なんとか終わらせることができたね。


「これで私のやることは終わったのかな」

「あとは時々ここに来て、処分するものを燃やしてくれるだけでいいと思うが」

「もし、丸太の移動をお願いする時があったら、ここに呼ぶかもしれないね」


 そっか、まだ葉っぱと枝の焼却処分の仕事があったんだ。丸太の移動も私がやればすぐに終わるしね。うん、まだここに通うことになりそうだ。でも、これでほぼやることは無くなったなー。


「あ、木を抜いたこと男爵様に報告してくるね」

「あぁ、そのほうがいいだろう。よろしく頼むな」

「そうだね、早く知らせた方が色々と計画立てやすいし」

「じゃあ、私は行くね。時々、ここに来るから」

「おう、その時はよろしく頼むな」

「じゃあ、またねー」


 私は樵の兄弟にお別れを言って、その場を立ち去った。


 ◇


「というわけで、木を全部抜くことが出来ました」


 私は男爵様の屋敷に来て、作業完了の報告をした。


「まだ余分なものを焼却したり、丸太を移動したり、細かい作業は残っています」

「そうか、この短期間によくやってくれた。礼を言おう」


 報告をすると男爵様は嬉しそうな顔をした。予定よりも大幅に早く森を一つ無くすことが出来たのだから、嬉しいはずだ。


「これで農地が広がったようなものだ。よそから人が来ても住まわせることが出来るな」

「ということは、家造りを始めるんですか?」

「まず、現地を視察して、それからどこに家を建てるのか、どのくらいを農地にするのか決まってからだな」

「すぐには建てないんですね」

「まぁな、色々と事前にやることがあるということだ。そんなにすぐには話しは動かないさ」


 すぐに家を造ると思ったけど、その前に色々とやることが多いみたい。私の手伝えることといえば、家を造ることと農地を耕すことくらいかな。


「何かお手伝いできることがあったら声かけてください」

「あぁ、そのつもりだ。もうノアなしなのが考えられないくらいだ」


 そういった男爵様は執事にある指示をした。すると執事の人布のかかったお盆みたいなものを持って、近づいてくる。


「その布を捲ってみろ」


 言われた通りに布を捲ってみると、そこには数枚の金貨が置かれてあった。


「今回の報酬だ。少ないかもしれないが、受け取ってくれ」

「こんなに沢山、ありがとうございます!」


 全然少なくない、私にとっては多い方だ。ありがたく金貨を受け取った。買う物が色々とあって出ていくお金は沢山あるけど、その反対に入ってくるお金も沢山ある。私もあの二人に負けないように稼がないとね。


「また、落ち着いたら今回のような依頼をするかもしれない。その時はよろしく頼むな。そうそう、また新しい魔法を覚えたら早く教えて欲しい。活用できるようなものなら、活用したいと思う」

「分かりました、その時はよろしくお願いします。新しい魔法を覚えたら、出来るだけ早く伝えますね」


 こうして、私のお手伝いはひと段落した。さて、時間も出来たし次は何をしようかな。

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