80.製粉のお手伝い(2)

 作業員の人たちは部屋に隅に重ねられていた紙袋、ふるい、大きな木のスプーン、大きな桶を中央に持ってきた。


「やり方はまず紙袋を広げて、その上にふるいを片手で持ってスタンバイだ。もう片手を使ってスプーンで小麦粉をすくってふるいの中に入れる。それから小麦粉を振るって紙袋の中に入れて、ふるいの中に殻が残る。その殻を大きな桶に入れる、これが一連の動作だ」

「色んなやり方があったんだけど、このやり方が一番いいってなったんだよね。だから、とりあえずこのやり方でやってみてよ」

「うん、分かった」

「よし、作業開始だ」


 石臼を囲む大きな桶の中にスプーンを突っ込んで持ち上げると、ふわふわの出来立ての小麦の香りが強くなった。それをふるいの中に入れて振るっていく。すると小麦粉は紙袋の中に落ち、殻はふるいの中に残る。


 いつも小麦粉を使っている側だけど、こうして小麦粉を作るのに大変な重労働をするんだな。なんてことない作業だけど、これをずっと続けていくのは大変だ。


 作業員たちの動きは無駄がなく、素早い動きで次々と製品となる小麦粉を作っていく。私は作業員の半分くらいしか速度がない。熟練の人はやっぱり違うな、私は確実に作業をしておこう。


 小麦粉をすくってはふるいにかけて、小麦粉と殻を分別していく。そしてふるいの中に殻が溜まったら大きな桶に殻を入れて、また作業に戻る。


 黙々と作業を続けていくと、石臼を囲む桶の中に入っている小麦粉がだんだんと減ってくる。そうすると、小麦粉の嵩が減っていきスプーンで取りにくくなってきた。


 作業員たちもやりにくそうに小麦粉をすくってはふるいにかけている。楽に小麦粉を取ることはできないだろうか? 私は考えて、ある方法を思いついた。


 魔動力で小麦粉を浮かび上がらせて、それでふるいにかけたらどうだろうか? 物を動かせる力なんだから、小麦粉も物だからきっと動かせると思う。うん、やってみよう。


 魔力を解放し、魔動力を小麦粉に向かって放つ。範囲を指定して、その範囲のものを浮かび上がらせるようにイメージする。すると、思った通りの小麦粉が宙に浮かんだ。


「うおっ、なんだ? 小麦粉が宙に浮いているぞ」

「もしかして、ノアちゃんの魔法」

「うん、私の魔法で小麦粉を宙に浮かせられないかなって思ったんだ。そしたら出来ちゃった」

「へー、そんなことも出来るのか」

「ノアちゃんは凄い魔法使いだね。小麦粉を宙に浮かせてどうするんだい?」

「これをふるいの中に入れて、振るっていくんだよ」


 宙に浮かせた小麦粉をふるいの中に入れて、振るっていく。うん、スプーンを使わなくてもいいから、楽に振るうことができるね。


「そのやり方いいな。そうだ、ノアは俺たちに小麦粉を渡してくれないか?」

「さっきの魔動力で小麦粉を浮かせてふるいの中に入れるといいんだね」

「あー、なるほど。そのほうが作業が効率よくできそうだね」

「よし、早速やってみようか」


 作業員の二人はふるいを持ってスタンバイしている。そこへ、私が魔動力で浮かせた小麦粉をふるいの中に入れる。すると、作業員は小麦粉を振るった。


「どんどん、やってくれ」

「分かった」


 私は魔動力で小麦粉を浮かせて、作業員たちのふるいの中に入れる。作業員たちは入った小麦粉を振るって、小麦粉と殻を分離させる。この作業を黙々とやっていく。


 すると、大きな桶に入っていた小麦粉が驚くような速さで無くなっていく。底に溜まった取りづらい小麦粉も魔動力で楽々宙に浮かせて、作業員にパスが出来た。


 そうやって作業をしていくと、作った分の小麦粉を全てふるいにかけることができた。


「小麦粉がもうなくなったよ」

「よし、ならこの作業は一旦終了だな」

「ふー、お疲れ」


 沢山の小麦粉入りの紙袋が出来た、こうやってみると壮観だな。


「よし、次は出来た小麦粉を倉庫に移動させるぞ」

「それも私に任せて。袋を宙に浮かせて、持っていってあげる」

「それはいいね。小麦粉の袋は重いから、持ち運ぶのが大変なんだよ」

「魔法様様だな、本当に助かるぜ。こっちだ」


 作業員は扉を開けて外に出る。私は魔動力で沢山の小麦粉の袋を宙に浮かせると、それを全て外に出した。外に出ると空気が清々しい、建物の中にいると小麦粉が沢山あるから粉っぽかったんだよね。


 作業員に連れられて行くと、そこは倉庫だった。作業員が倉庫を開けると、土の地面の上に沢山のすのこが置かれてある。


「右端のすのこの上から乗せていってくれ」

「右端だね、分かった」


 指示通りに右端から小麦粉の袋を重ねていった。大人の人が持ち上げられる高さまで積み上げて重ねる。うん、良い感じに積み重ねられたと思う。


「おお、こんなことまで魔法で出来るなんてな。凄く楽だったぞ、ありがとよノア」

「あそこまで積み重ねるの結構な重労働なんだけど、魔法を使って一瞬で出来るなんてね。ノアちゃんの魔法が羨ましいよ」

「えへへ、役に立ったみたいで良かったよ」

「腰も腕も痛くねぇし、まだまだ働けそうだな」

「もしかしたら、今日で全部の小麦を小麦粉に変えられるかもしれないね」


 今ある小麦を全部小麦粉にか、そうしたら村に小麦粉が十分に行き渡るし、隣町にも早く小麦粉を卸せるね。うん、ここで頑張るといいことづくめだ。


「小麦粉作り、頑張ろうよ。沢山の小麦粉を作ったら、村も町も喜ぶんでしょ?」

「そうだな、早く沢山の小麦粉を届けたいよな」

「さっきの調子でやっていれば、出来るはずだよ。頑張ろう」


 三人で顔を見合わせて強く頷く、心が一つになった気がした。小麦粉不足だった村や町のために今出来ることは、早く小麦粉を作って流通させることだ。


「よし、もう一回小麦を作っていくぞ。ノア、頼んだぞ」

「ノアちゃんの魔法で沢山小麦粉を作ってね」

「うん、任せてよ!」


 三人で建物の中へと入っていく。小麦粉作り、頑張るぞ!


 ◇


 それから三人で小麦粉作りを頑張った。作業員が石臼に小麦を入れ、私が石臼を回す。そうして出来た小麦粉をみんなで協力しあって振るって、製品の小麦粉に変えていった。


 小麦粉を作るのは大変だけど、三人で協力し合って作っているので大変さを分かち合えるのっていいな、と思った。そんな風に作業をしていると、私の帰る時間になった。


「あ、そろそろ帰る時間だ」


 窓から差し込む日の光を見て、その時間に気づいた。


「お、そんな時間か。なら、あと十袋くらい小麦を砕いてくれ」

「そうしたら、残りの仕事は俺たちでやるからさ」

「うん、分かった」


 石臼を早く回していき、小麦を砕いて小麦粉に変えた。二階から沢山の小麦が投入されているので、私も負けじと石臼を回して小麦を砕いていく。そうすると、二階から小麦の投入が終わる。


 私が石臼を回していると、作業員たちが下りてきた。


「これで全部の小麦を投入し終えたぞ」

「え、本当? なら、この小麦をふるいにかければ、全部の小麦を小麦粉に変えたことになるんだね」

「残りの仕事は俺たちがやるからさ、ノアちゃんは帰ってもいいよ」


 どうやら、本当に今ある全部の小麦を小麦粉に変えることが出来たみたいだ。目標が達成されたみたいで嬉しいな、作業員たちもどことなく嬉しそうな顔をしている。


 石臼から出てくる小麦粉がなくなり、私の仕事が終わった。


「残りの仕事、任せても大丈夫?」

「もちろんだ。というか、ノアは手伝いだからな無理はさせられない」

「そうそう、これは元々俺たちの仕事なんだから、気にしないで」

「分かった、じゃあ私は行くね。」

「おう! 今日は本当に助かった! また機会があったら手伝ってくれ!」

「ノアちゃん本当に手伝ってくれてありがとう」


 私は作業員たちに別れを告げて、建物を出た。粉っぽかった建物の中から外に出ると、清々しい気持ちになる。仕事も終わったので清々しさが二倍になったような気がした。

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