79.製粉のお手伝い(1)

「小麦の乾燥、ご苦労。これで早めに小麦粉が出荷できる」

「私の魔法が役に立って良かったです」


 小麦の乾燥が終わり、私たちは作物所へと向かっていった。早いところだと、もうすでに脱穀し終えた小麦が納品されているかもしれないから、その確認のためだ。


 作物所につくと、農家の人たちが小麦を納品しているところに出くわした。


「おお、どうやらもう納品している農家がいるみたいだな」

「午前中に行ったところの脱穀はもう終わったんですね」

「うむ、これだったらあとは製粉作業になるな」


 農家の人たちの納品が終わり、作物所の周りに人気がなくなった。その時に作物所の中へと入り、忙しそうにしているコルクさんを見かける。


「よう、コルク。小麦の調子はどうだ?」

「男爵様、ようこそいらっしゃいました。順調に小麦が集まっているところですよ」

「それは良かった。乾燥に走ったかいがあるってもんよ」


 コルクさんは手を止めて男爵様の前に来た。念願の小麦が沢山手に入って、二人ともとても嬉しそうだ。


「小麦はもう倉庫に入っているのか?」

「はい、持ってきてもらった小麦は倉庫に移しました。後は製粉作業をするだけですね」

「そうか。製粉作業も大変だと思うが、早く終わらせてほしい」

「もちろんですよ。あ、ノアと少し話してもいいですか?」

「うむ」


 私に何か用事があるのかな? 手招きをするコルクさんの前に行った。


「どうしたの、コルクさん」

「ノアに一つ仕事を頼みたいんだが」

「どんな仕事?」

「製粉作業を手伝って欲しいんだ。小麦を製粉にするのに巨大な臼を回さなきゃいけないんだが、それが重労働でな。臼を引くのを魔動力でやってくれないか?」


 小麦粉を作るためには臼を引かないといけないらしい。どれだけ大きな臼かは分からないけれど、これは魔動力の出番だね。


「そのお手伝い、任せて。私の魔動力で巨大な臼を引いて小麦粉にしてあげる」

「そうか、助かったよ。これで、早く小麦粉を納品することができる」

「ノアの魔法はこんなことにも利用できるのか、凄いな」


 魔法がこんなところでも役に立つなんて驚きだよ。でも、村のためになるんだったら、頑張るから。


「それじゃあ、明日の朝にここに来てくれ。現場に案内するから」

「分かったよ」


 明日は作物所で働くことが決まった私。その後、男爵様は私を家まで馬で送ってくれた。


 ◇


 翌日、宿屋の食堂で朝食を食べ終わた私は作物所までやってきた。


「コルクさん、おはよう!」


 店の中に入って声を上げると、奥から物音がしてコルクさんが出てきた。


「よお、おはよう。今日はよろしくな」

「どこにいけばいいの?」

「今、連れてってやる。こっちだ」


 店の外へと出ると、店の裏側に行った。そこには大きな倉庫があり、もう一つ大きな建物がある。


「ここが製粉所だ」

「へー、ここがそうなんだ。大きなところなんだね」


 もう一つ大きな建物が製粉所だった。


「ここは製粉時期にしか使わないところなんだが、ノアが小麦を作ってくれたからずっと稼働しっぱなしだ」


 そうだよね、普通小麦は秋にしか取れないから、秋以降にしか使わないよね。それが私が季節関係なく小麦を作るから、常時稼働になった訳だ。


「どんな風に製粉するの?」

「中を案内しよう」


 そういってコルクさんに連れられて二階建ての建物の中に入っていく。扉を開けると、部屋の中央に大きな石臼が鎮座していた。石臼の上には大きな穴が開いている、なんのために空いているんだろう?


「この大きな石臼で小麦粉を作るんだ。まず二階に昇り、あそこに空いている穴から小麦を石臼の中に入れて、石臼を回すんだ。すると小麦が潰されて、粉になって出てくるんだ」


 なるほど、あの穴は小麦を入れるための穴だったんだ。こんなに大きいと小麦を入れるのも一苦労だから、建物に二階を作ってそこから入れるようになっていたんだね。


「石臼を回すのは家畜だったり人力だったりする」

「今日は私がその役目になるんだね」

「おう、よろしく頼む」


 この大きな石臼を回すのはかなりの力を使いそうだ。そういえば、小麦粉不足の時に冒険者が手伝うって言ってたことって、ここで製粉の手伝いをしていたんだろうな。冒険者の力を使えば製粉も楽だっただろう。


「それでな、ここに小麦粉が溜まる仕組みになっているんだ。そこから出来た小麦粉をふるいにかけて、殻を取り除いて紙袋に入れるんだ」


 石臼を囲うように大きな桶があり、どうやらその桶の中に小麦粉が溜まる仕組みになっているみたい。そこからさらに小麦粉をふるいにかけて、殻を取り除く作業もあるんだね。


 仕組みは分かった、後は作業をするだけだ。すると、建物の扉を開けて二名の男性が入ってきた。


「コルクさん、来ました」

「おう、今日もよろしく頼むな。こいつらがここの作業員だ」

「よろしくお願いします」

「よろしくな。この子が例の子なんだな」

「そうだ。今まで小麦を作ってくれていた子だ」

「よろしく」


 今日一緒にお仕事をする人だ、お辞儀をして挨拶をすると作業員の男性も返してくれた。


「じゃあ、早速作業を開始するな」

「俺たちは二階に行って小麦を入れる作業をするから、石臼のことは任せるよ」

「そうそう、小麦粉でいっぱいになったら俺たちを呼んでくれ。違う作業をするからな」

「うん、分かった!」


 そういった男性二人は二階へと上って行った。しばらく待っていると、天井に空いた穴から小麦を石臼の中に入っていくのが見える。


「もう作業開始していいぞー」


 二階の穴からそんな声が聞こえてきた。


「よし、ノア頼むぞ」

「うん」


 私は石臼に手を向けると魔動力を発動させた。すると石臼がゆっくりと動き出して回り始める。しばらく回していると、石の間から白い粉が出始めてきた、これが小麦粉か。


「うん、大丈夫そうだな。じゃあ、俺は自分の仕事に戻るから、後は頼んだ」

「任せて」


 コルクさんは建物から出ていき、一階には私だけとなった。仕事に集中して石臼を回していく。少しずつ速度を上げていくと、出てくる小麦粉の量が増えていった。なるほど、早くするとそれだけ早く小麦粉が出来るんだ。


 私は石臼を回す速度を上げた。でも、あんまり速度を上げすぎてもダメなので人が走る程度の速度にとどめておく。


「おお、すげー! めちゃくちゃ早く小麦が消費されていってるぜ!」

「ノアちゃん、無理してない?」

「大丈夫! このままこの速度で続けちゃうね!」

「よし、どんどん小麦を入れていくから、頼んだぞ!」

「小麦粉がいっぱいになったら止めてね」

「うん、分かった!」


 二階から作業員の声が聞こえてきて、それに返答する。どうやら、凄い速さで小麦が小麦粉に変わっていっているみたいだ。いつもはこれよりも遅い速度で製粉していたんだろうな。


 私は気合を入れて、石臼を回し続けた。石の間からはどんどん小麦粉が溢れてきて、桶の中に溜まっていく。しばらく石臼が回る音が続いた。


 ふと気づいて桶の中を見てみると、桶の七分目くらいまで小麦が溜まっているのが見える。そろそろ、良いかな?


「あのー、桶の中に七割くらいの小麦粉が溜まったよ」

「そうか、なら今すっている小麦が終わったら停止させてくれ」

「分かった」


 集中して石臼を回していると、大量に出てきた小麦粉が段々と少なくなり、しまいには出なくなった。


「終わったよー」

「今、そっちに行くね」


 合図を出すと、二階にいた作業員が一階に下りてきた。作業員は桶の中を見ると、驚いた顔をする。


「本当に出来てるぜ。魔法ってこんなに便利なものなんだな」

「石臼も尋常じゃないくらい早く回ってたし、凄い魔法だよね」

「魔法が役立って良かったよ。次はどうするの?」

「次はこの出来立ての小麦をふるいにかける作業だ。ノアも手伝ってくれるか?」

「もちろん」


 次はふるいの作業か、よし頑張ろう!

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