77.みんなで作る、パンとイチゴジャム(3)
「作るパンの形は好きなものにしてもいいよ。今日夜に食べる分と明日の昼に食べる分を作ってね」
「パンの形って丸じゃないのか?」
「パンの形は丸以外でもいいんだよ。ただ、丸の方が作りやすいからいつも丸にしているだけだよ」
「自分の自分だけのパンが作れるということなんですね!」
「そういうこと。自分だけのパンを作ってみようよ」
自分のパンを作る、その言葉に二人は嬉しそうな顔をした。二人からパンの生地を貰うと、一つの塊にする。それから包丁で三等分に切り、それぞれを二人に渡した。
「じゃあ、渡したパン生地を好きな形に成形してね。あ、成形した後も発酵させないといけないから、膨らむからね。それを考えつつ、パンを成形してみて」
「分かりました!」
「分かったぞ!」
良い返事が聞けた。どうせ作るなら、いつもの丸いパンじゃないほうが楽しいもんね。さて、私は何を作ろうかな。パン生地を二等分にして考える。食べ物の形がいいなー、うーん。そうだ、イチゴとブドウの形にしよう。
思いつくと、それぞれをその形に成形していく。イチゴの大きな輪郭を作って、ヘタの部分を作って、あとはポツポツをつけていけば完成だ。うん、イチゴの形に見えるね。
次はブドウだ。小さな丸を沢山作って、それを繋ぎ合わせる。あとは茎を作って、同じように繋ぎ合わせれば、ブドウの完成。うん、良い感じに出来たんじゃない?
今の内に石の板を棚から持ってくると、それをキッチンカウンターに置く。それから、その石の板の上に成形したパンを乗せた。あとは二人の完成を待つだけだ。
二人は一生懸命に成形をしている様子で、手元を見れば何かの形を作っていた。
「二人とも何を作っているの?」
「完成するまで秘密です」
「ウチもだぞ」
「えー、そんなー」
秘密か、残念だ。仕方がないので完成までボーッとして待ってみる。しばらくボーッとしていると、隣から声が上がった。
「完成しました!」
「ウチも出来たぞ!」
「本当、どれどれ」
まずクレハのパンを見てみる。歪んだ円のような形をしているんだけど、これはなんだろう?
「クレハ、これは何?」
「これはホーンラビットの肉とオークの肉だぞ」
「えーっと、こっちがホーンビット?」
「違うぞ、こっちがホーンラビットだ」
うーん、違いが分からない。まぁ、形のモデルを肉にしたことはクレハらしいよね。今度肉入りのパンを作ってみるのもいいかもね。
「イリスのは……ワンピースと靴だね」
「はい! 秋に作ってもらったワンピースと靴がとても良かったので、それを表現してみました」
「細かいところまで表現されているけれど、二次発酵で潰れちゃうかもしれないよ」
「そうなんですか!? こんなに頑張ったのに」
「まぁまぁ。上手く膨れることを祈ろうね。じゃあ、このパンをあの石の板の上に乗せてね」
二人は成形が終わったパンを石の板の上に置いた。私はその上から塗れた布を被せて、二次発酵を開始させる。
「さてと、パンの二次発酵が終わったらパンを焼くからね。それまでの間は夕食の準備をしようか。二人とも、何食べたい?」
「今日はスープ系が食べたいです」
「いいな、それ! ウチもスープがいい!」
「分かった、じゃあトマトスープを作ろうか。じゃあ、外に行ってトマトを収穫してこよう」
今日も美味しいトマトスープを作っていこう。
◇
夕方になり、辺りが暗くなってきた。家の中央に明かりを灯すと、家中が明るくなる。これだと手元が見えやすくていいね。
「それじゃあ、パンを焼いていくよ」
二次発酵が終わったパンを石窯に入れて、鉄扉を閉める。しばらく待っていると、小麦の焼けるいい匂いがしてきた。
「いい匂いです。これがパンの焼ける匂いですか」
「ノアはいつもこの匂いを嗅いでいるのか、なんだかズルいぞ」
「ふっふっふっ、製作者の特権です」
「この匂いを嗅ぐためなら毎日でもパンを焼きたくなりますね」
「そうなんだよね。この匂いはいつ嗅いでもいいし、病みつきになっちゃうよ」
三人でそわそわしながらパンが焼けるのを待つ。私がじっと待っていると、残りの二人はウロウロと辺りを歩き回る。まだかな、まだかな。そんな言葉を零しながら、ひたすらパンが焼けるのを待った。
「よし、もういいかな」
「出来ましたか!」
「早く開けてみてくれ!」
魔動力で鉄扉を開けると、熱気がこちらに流れてくる。その熱気に負けないように、木の棒を中に入れて慎重にパンを取り出す。今日はいつもの丸パンじゃないから、形が崩れないように気を付けないと。
一つずつ丁寧にパンを取っていくと、パンをツタの籠に入れていく。全てのパンが入れ終わると、二人が集まってきた。
「これが私たちの作ったパン!」
「上手に出来ているんだぞー!」
「うん、上手に焼けているね」
出来立てのパンをダイニングテーブルに置いて、じっくりと眺めてみる。ふんわりと焼き上がったパンは元の形より少し変形しているが、ちゃんと元の形が分かるようになっている。
「私のパン、予想以上に上手に出来てました。本当に良かった」
「そうだね、細かいところは潰れちゃったけど、大体は上手くいったね」
「ウチのも見てくれ! 色がついて肉らしくなったと思わないか!?」
「うん、肉っぽくなった」
みんなのパン、上手に出来たみたいで良かった。
「それじゃあ、夕食の準備をするね」
「手伝いますね」
「ウチも!」
「じゃあ、パンを乗せる皿とスプーン、盛り付けた料理をダイニングテーブルに並べてね」
私はかまどに行き、温かいトマトスープを皿に盛った。それを二人に渡すと、今度は棚からコップを出す。コップを持ってダイニングテーブルに行くとコップの中に水魔法で水を出し、氷魔法で氷を出した。
空いた皿に今日食べるパンを乗せれば、夕食の完成だ。三人で顔を見合わせると、手を合わせる。
「「「いただきます」」」
まず、手に取ったのは焼きたてのパンだ。
「なんだか食べるのがもったいないですね」
「そうか? 食べるのが楽しみなんだぞ!」
私はイチゴのパンを手に取って、手で千切って食べる。うん、いつも通りに美味しい。
「二人ともパンはどう?」
「美味しいんだぞ!」
「自分で作ったからか、いつもより美味しく感じます」
「じゃあ、次にイチゴジャムをつけて食べてみよう」
ダイニングテーブルの上に置いておいたジャムの蓋を開ける。瓶のてっぺんまでジャムが詰まっていて、食べ応えがありそうだ。そのジャムをスプーンですくってパンに塗る。そのジャムを三人で回して、順番にパンに塗りつけた。
「イチゴの甘い匂いがします」
「三人で一緒に食べるぞ」
「うん、いっせーのーで!」
合図をして三人一緒に食べた。イチゴの風味を強く感じた後に甘酸っぱい味が広がった。イチゴの果肉を感じられるジャムはとても美味しい。二人の様子を見てみると、驚いている顔をしていた。
「なんですか、これ……すごく甘くて美味しいです!」
「これがジャムか!甘くて、ちょっと酸っぱくてとっても美味しいんだぞ!」
「イチゴの味を濃縮したような味、砂糖の甘味。ジャムって凄く美味しいものなんですね」
「気に入ってもらえてよかったよ。果物を変えれば、また違うジャムも作れるよ」
「他にもジャムがあるんですか!」
「食べてみたいんだぞー」
イリスが凄く喜んでいるみたいで、クレハは幸せそうにジャム付きのパンを食べている。
「ジャムってパンに合うんですね。やっぱりパンって凄いです、他にも色々なパンを食べてみたいです」
「ノアは色んなものを知っていて凄いなー」
「そういうのに触れる機会があったからね。喜んでもらえて良かったよ」
「もっとジャムをつけて食べてもいいですか!?」
「もちろんいいよ」
「次はウチがつけるんだぞ」
イリスが作ったパンにジャムを沢山塗り、幸せそうにパンを頬張った。クレハもそれを追うようにジャムをパンに塗り、美味しそうに食べている。
私もクレハからジャムを受け取ると、パンに塗って食べた。ジャムが食べられるようになるなんて、ここに来てから生活が上向きで嬉しい。また美味しいものを作ってみんなで食べたいな。
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