76.みんなで作る、パンとイチゴジャム(2)
「上手にパンの生地が出来たね。そしたら、塗れた布を被せて、これからこのまま放置して発酵時間だよ」
イリスとクレハが作ってくれたパン生地が入った木の器に塗れた布を被せて、発酵時間だ。
「ふーん、いつもこんな感じに作っているんだな」
「パンって時間がかかるものなんですね」
「前に食べていたパンだったら発酵時間はなくてもいいんだけど、フワフワなパンを食べるにはこの行程は必須だよ。これがあるから、フワフワパンになるって言ってもいい」
二人は興味深そうに塗れた布を被された木の器を見た。二人の前で初めてパンを作ることになったから、全ての工程が物珍しいんだろう。
「早く食べたいなら、この発酵時間を無くして焼くことも出来るけど?」
「それはいけません。もう、フワフワのパン以外は食べられません」
「ウチもフワフワのパンが良いんだぞ」
「まぁ、そうだよね。あのパンには戻れなさそうだ」
天然酵母入りのパンを食べたら、以前のパンには戻れない。それは私だってそうだ、だから頑張って毎日パンを作って焼いているんだから。
「それじゃあ、パンが発酵している時間を使ってジャム作りをしようと思うよ」
「とうとうジャム作りですか、楽しみです」
「ジャムってどんな食べ物なんだ?」
「ブルーベリーソースよりも固くて、ちょっとドロッとしたものかな」
「話しに聞くとあんまり美味しそうには聞こえませんね」
「なんだか、美味しそうな想像が付かないんだぞ」
「まぁ、そうかもね。でも、食べてみたら意見は変わると思うよ」
ジャムを見たことのない二人の意見だ、分からなくもない。一見、美味しそうに見えないかもしれないが、一口食べたら絶対に病みつきになるに違いない。
「まずイチゴに洗浄魔法をかけてっと」
イチゴに洗浄魔法をかけて綺麗にすると、調理の準備は完了だ。キッチンカウンターにまな板と包丁を用意すると、私が見本を見せる。
「へたのところを切り落として、その後にイチゴを立てに半分に切る。これをやって欲しいの」
「分かりました」
「これは簡単なんだぞ」
「じゃあ、私は他の材料を用意するから」
イチゴ切りをお願いすると、二人は分かったように頷いた。早速包丁を使ってイチゴを切り始めると、私は自分のやることを始めた。
常備野菜を置いている棚からレモンを数個取り出し、あとは搾り器も取り出す。それを持ってキッチンカウンターのところへ行き、隣にいたイリスに頼みごとをする。
「ねぇ、イリス。このレモンを半分に切ってくれない?」
「いいですよ」
レモンをイリスに渡すと、包丁で半分に切ってくれた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
半分に切られたレモンを受け取ると、早速レモンを搾っていく。搾り器にセットすると、レモンを捩じりながら押し込んでいった。すると果肉が潰されて中から果汁が溢れだしていく。
ぐっぐっと搾り器の突起に押し付けて果肉を潰して果汁を出す。出した果汁が溜まったら木の器に入れておく。その繰り返しをしていると沢山の果汁が木の器に溜まった。
「こっちは終わったよ。そっちはどう?」
「もう少しで終わりそうです」
「もうちょっと待ってくれ」
私は切っている最中に大きな鍋を取ってきた。二人が集中をしてイチゴを切っていくと、全てのイチゴを切り終える事が出来た。
「終わったー」
「終わりました。結構な量になりましたね。これからどうするんですか」
「この大鍋にイチゴを入れて」
「分かったぞ」
切ったイチゴを大鍋の中に入れてもらった。
「次は砂糖だね」
キッチンカウンターの下にある棚から砂糖が入った瓶を取り出した。
「この日のために、大量に砂糖を作っておいたのさ」
「ジャムって砂糖をいっぱい使うんですね」
「甘い食べものなんだな」
作りためておいた砂糖を取り出して、瓶を傾かせて砂糖を大鍋の中に入れていく。ある程度入れたら、次はレモンの搾り汁を入れる。
「この状態で匙を使ってかき回して」
「分かったぞ」
クレハが大きな匙を手にすると、ぐるぐるとかき回す。イチゴと砂糖とレモン汁が合わさり、ジャリジャリと合わさった。
「この状態でしばらく置いておく。砂糖が溶け切ったら、次の作業に移るからね」
「また置くのか。料理って時間がかかるんだな」
「すぐには出来ないみたいですね、残念です」
「パンよりは時間がかからないと思うから、ちょっとだけの辛抱だよ」
◇
あれから数十分が経ち、大鍋の中に入っていた砂糖が溶けだしてきた。
「よし、これで次の段階に移れるよ」
「次は何をするんだ?」
「次はこれを煮詰めていく」
「へー、煮ていくんですね」
早速かまどを用意する。薪に火を点けて、かまどのくぼみに入れる。それからかまどの上に大鍋を置いて、煮詰めていく。
「じゃあ、このヘラを使ってかき混ぜて」
「私がやりますね」
「煮詰まってきたら、アクを匙ですくう」
「アクってなんだ?」
「食材のいらないものかな。煮詰まってくると、小さな泡みたいなものが出てくるから、それをすくう作業になるよ」
「それはウチがやるぞ!」
役割分担が決まったところで、イリスが鍋の中身をヘラでかき混ぜだした。ぐつぐつと煮立ってくると、アクも出てきた。そのアクをクレハが取り、とったアクを水入りの木の器に入れていく。
しばらく煮込んでいくと、アクもなくなり粘度が出てきた。これくらいでいいだろう。
「よし、もういいよ。鍋を隣に移動させるね」
魔動力で大鍋を浮かせると、火の点いていないかまどに移動させた。
「イチゴも溶けちゃうんですね。果肉が凄く縮んでいます」
「ブルーベリーソースみたいな感じだぞ」
「これが冷めたら固まってくるから、もうちょっと固形になるよ。じゃあ、この小瓶に熱いままのジャムを入れて」
二人に煮沸消毒しておいた小瓶と匙を渡すと、二人は受け取ってジャムを入れる。
「甘い匂いですね、これをパンにつけて食べる時が待ち遠しいです」
「甘い味なのは確定だな。甘い以外にもどんな味になっているか楽しみなんだぞ」
「味はね甘酸っぱい味だよ。ブルーベーソースとは違う感じの味になるね。あ、瓶いっぱいに詰めてね」
二人が瓶いっぱいにジャムを詰めると、蓋をした。そのジャムを受け取ると、逆さにしてキッチンカウンターの上に置く。
「どうして、逆さにするんですか?」
「ジャムの熱で悪い小さな菌を退治しているんだよ」
「ふーん、そんなのがいるんだなー」
使った調理器具に洗浄魔法をかけて定位置に戻した。これでジャム作りは終わりだ、そろそろパンの発酵が終わった頃だろう。
「じゃあ、パンの様子を見てみようか」
キッチンカウンターに置いておいたパン生地が入った木の器を手元に寄せる。塗れた布を取ると、そこには二倍に膨れ上がったパン生地があった。
「わ、膨らんでいますね」
「大きくなっているぞ!」
「これが発酵の力だよ。パン生地の中にガスが溜まっている状態なんだ。指先で突いてみて」
二人は恐る恐る指先でパン生地を突いてみた。
「すっごい柔らかいです」
「なんだこれ、気持ちがいいぞ」
「これがパンをフワフワにするんだよ。じゃあ、ガス抜きをしようか」
「私やってみたいです!」
「ウチもやってみたいぞ」
「じゃあ、半分にして渡すから、パン生地を押して捏ねてみて」
まな板の上に二つに割ったパン生地を置く。その前に二人が立って、パン生地を潰し始めた。
「すっごく気持ちがいいんだぞ! パンを捏ねてた時以上の気持ちよさなんだぞ!」
「なんだか楽しいですね。このパンだったら、あのフワフワパンになるのも頷けます」
二人は楽ししそうにパン生地のガスを抜き、パンを捏ねた。もっと楽しいことをしたいけど、どうしようかな。そうだ、自分の好きなパンを作ってもらうことにしよう。
「よし、次はパンの成形に移ろう」
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