70.夏が終わる(2)
ゴミの処理を終えて家に帰ってきた。他に何かすることはないかな、と家の中を見回っていると薪が足りないことに気が付いた。砂糖を作りをするから、薪がないと作れないよね。
もう一度、家の外に出ると裏手へと回り込む。家の壁際には伐採の時に出た薪が沢山積まれてある。そこから十数本、魔動力で浮かせるとそのまま家の中へと戻っていった。
かまどから少し離れた場所に薪を積んでおく。よし、これでいいだろう。あとやることといえば、家の中の掃除かな。家の隅から順々に洗浄魔法をかけて掃除をしていく。
出来るだけ家を綺麗に保っておきたいから念入りに洗浄魔法をかける。床、壁、キッチンカウンター、ダイニングテーブル、イス。普段使っている場所、汚れそうな場所はもっと念入りに洗浄魔法をかけた。
「よし、掃除は完了」
洗浄魔法があるから掃除は簡単に終わる。前世では考えられない掃除方法だよね、異世界ならではの掃除方法はとても楽ちんで大好きだ。
そろそろ、ビートの糖分が湯に溶け切った時間だ。台所に行き、鍋を宙に浮かせて厚手の布を取る。鍋の蓋を取ると、トロミがついたお湯が出来上がっていた。
これからお湯を砂糖に変える。何本かの薪を取ると、火を点けた。それをかまどのくぼみに入れて、その上に鍋を乗せて煮込んでいく。
しばらくすると、ぐつぐつと煮えてきた。焦げないように時々かき回しておき、水分を蒸発させていく。
時間が経つとどんどん水分が無くなっていき、透明だった水が濁った色になってきた。その状態からさらに煮込んでいくと、だんだんと茶色になっていく。
さらに煮立たせていくと、お湯がドロドロに変化していった。かき回していくのが大変なくらいになっていくと、今度はドロドロとした液体が固形になっていく。
かき回していくと、液体から固形に変化する。でも、まだ水分が含まれているみたいだからカラカラになるまで熱していく。焦げ付かないように気を付けながら、かき混ぜていく。
すると、固まり始めた。砂糖の完成だ。魔動力で鍋を隣のかまどに移動させる。改めて出来上がった砂糖を匙で突いてみると、茶色い塊がボロボロと崩れていった。
そのまま匙で砂糖の塊を崩していく。ある程度崩して、粗熱を取る。粗熱が取れて冷めてきたら、今度は瓶に移し替えしていく。これで予備の砂糖の完成だ。
瓶の八割くらいの量ができたから、これでしばらくは安泰だろう。料理をするのに支障が出なさそうで良かった。
「そろそろパンを焼く時間か」
窓から差し込む日の光に角度が出来始めていた、もう夕食作りの時間だ。棚から大きな木の器、小麦粉、塩、出来立ての砂糖をキッチンカウンターの上に置き、パン作りを開始した。
◇
夕暮れになり、パンが焼き上がった。小麦の香ばしい匂いが家の中に広がって、美味しそうで堪らなくなる。すぐに食べたい欲求を我慢しつつ、焼きたてのパンをツタの籠に入れてダイニングテーブルの上に並べる。
次はメイン料理だ、今日のメイン料理はホーンラビットのブルーベリーソースがけと焼き野菜。まずは鉄板の上にオークから取れたラードを置いて、溶かして液状の油にして鉄板を上で伸ばす。それから野菜を並べて焼いていく。
両面がしっかりと焼き上がると、魔動力で鉄板を火の点いていないかまどの上に移す。それから火の点いているかまどにフライパンを置いて熱していく。
そのフライパンの中にブルーベリーと砂糖を入れると、ブルーベリーを潰しながら材料を熱していく。すると砂糖が熱で溶けだし、潰されたブルーベリーの果汁と合わさっていった。
しばらく煮立たせていくと、ソースにトロミがついてきた。これでブルーベリーソースの完成だ。棚から布を取り出すと、水魔法で少し水を湿らせた後に畳んでキッチンカウンターに置き、その上にフライパンを乗せておく。
棚からプレートを取り出すと鉄板の上に放置していた野菜を乗せていく。出来るだけ見栄え良くなるように、配置を考えながら丁寧に野菜を盛り付けていった。
まだかまどにはまだ火が点いているので、その上に再度鉄板を置いて熱していく。再びオークから取れたラードを鉄板の上に置き、溶かして油に変える。
油に変わったら、キッチンカウンターの上に置いておいたホーンラビットの肉に塩と乾燥したハーブを振りかけて、鉄板の上でじっくりと焼き上げていく。
じっくりと片面が焼き上がり、裏返しにした時に家の扉が開いた。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「二人ともおかえりー」
魔物討伐から二人が帰ってきた、私は二人に近寄る。
「洗浄魔法かけるよー」
すぐに二人を洗浄魔法で綺麗にする。すると、衣服に空いていた土埃や返り血などが綺麗になくなった。
「ふー、さっぱりした」
「この綺麗になる瞬間はいつ受けてもいいものですね」
「汗も少しかいたからな、肌がさっぱりするのがいいぞ」
二人とも気持ちよさそうな顔をしてそんなことを言った。
「暑かった夏に比べたら、そんなに汗も出てませんけどね」
「ウチは動き回るのが仕事だから、汗はかくんだぞ。まぁ、暑い時に比べたらそんなにかいてないかもしれないけど」
「さっぱりしたなら席に着いて。もう少しで夕食が出来るから」
「「はーい」」
二人を席に着くように促して、私は台所に立った。ホーンラビットをじっくりと焼き上げる。トングで肉を掴み裏面を見てみると、いい焦げ目が出来ていた、完成したみたいだ。
すぐに鉄板を隣のかまどの上に魔動力で移動させて、火から鉄板を遠ざける。それからプレートの上に焼けた肉を乗せて、ブルーベリーソースをかけた。うん、美味しそう。
「はーい、出来たよー」
完成したプレートをダイニングテーブルの上に置いた。次にフォークを並べ、氷水の入ったコップを置く。これで夕食の完成だ。私が席に着くと、それを待っていたかのように手を合わせた。
「「「いただきます」」」
挨拶をして食べ始める。
「今日はブルーベリーソースなんですね。美味しそうです」
「ソースはまだ残っているか?」
「少しなら残っているよ。パンにつけて食べるんでしょ?」
「うん、そうだぞ」
「私もそうやって食べたいです」
「今、フライパンを持ってくるね」
席を立ち上がり、キッチンカウンターに乗せてあったフライパンをテーブルの上に置いた。
「そのままのパンも美味しいですが、こうやって食べるパンも美味しいんですよね」
「そうそう。味があって美味しく感じるんだぞ」
「そうなんだね。そうしたら今度パンに塗るジャムとか作ったほうがいいかな」
「ジャムってなんだ?」
「甘いソースみたいなものだよ。果物と砂糖があれば作れるから、今度砂糖を大量に作った時に作るね」
「パンに塗るジャムですか……美味しそうです」
そうだった、まだジャムを作っていなかったんだ。今度また時間があった時に砂糖を作って、ジャム作りにも挑戦してみようかな。ビートの種も消費するし、種づくりもやらないといけないね。
あと、何か必要なものはなかったかなー……そうだ!
「二人とも、そろそろ秋用の服を仕立てにいかない?」
「そうですね。最近涼しくなってきましたし、次の服も必要ですね」
「ウチはまだ半袖でも大丈夫だけど、寒くなってから服を作ったんじゃ間に合わないもんな」
秋になる前に準備はしておかないとね。他にも必要そうなものがあったら、作ってもらわないと。
「次はどんな服になるのか楽しみです」
「ウチは動きやすかったら、なんでもいいんだぞ」
「動きさすさ重視で良い服を作ってもらおうか」
三人でわいわいと喋りながら楽しい食事の時間は過ぎていった。秋の訪れを感じた日、次の季節のことを考えながら過ごす夜は楽しい時間になった。
秋はもうすぐそこに。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
次章から二日に一度の更新となります。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
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