69.夏が終わる(1)

「あ、もう砂糖がなくなりそう」


 夕食の準備をしている時、砂糖の入っている瓶が残り少ないことに気が付いた。また、まとめて作らなくちゃいけない。


「んー……明日は木のお仕事か。なら、早めに仕事を切り上げて砂糖作りをしよう」


 森を切り開く仕事も終わりが見えてきた、少し仕事量を減らしても大丈夫だろう。ということで、明日は久しぶりに砂糖作りだ。沢山砂糖を作っておかないとね。


 ◇


 翌日、宿屋で朝食を取った私は作業現場にやってきた。樵の兄弟はすでに作業を進めていて、木の枝を薪に変えている。


「二人ともおはよう!」

「おう、おはよう」

「ノアちゃん、おはよう」


 挨拶をすると、軽い感じで返事をしてくれる。


「あの、相談があるんだけど」

「ん、どうしたんだい?」

「今日は家でやることがあるから早めに帰ってもいいかな?」

「いいと思うぜ。なんだったら、今日の仕事はやらなくてもいいぐらいだ」

「流石に何もせずに帰るのは気が引けるから、午前中だけの仕事で帰ることにしてもいい?」

「もちろんだよ」


 話を聞いてもらえてよかった。これで砂糖作りの時間は取れそうだね。


「しかし、珍しいな。何をやるんだ?」

「また、何かを作るの?」

「砂糖の在庫がなくなって、砂糖作りをしたいの」

「そういえば、この前村に砂糖が出回ったな。ノアのところで作ってたのか」

「うん、私のところで原材料のビートを作っているんだ」


 樵の兄弟も一時的に砂糖が出回ったことを知っているんだね。砂糖作りの仕事は冬になるから、まだまだ先の話だ。


「ノアはなんでもやっているんだな。こんなにちっさいのに大したもんだ」

「畑を作って農作物を収穫したり、家を作ったり。ノアちゃんは普通の子供じゃないよね」


 ジーッと探られるように見つめられる。そんなに見つめられても何もありませんよ。


「はいはい、見てないで仕事しよう。私はあの葉っぱと枝を燃やせばいい?」

「そうだな、二日分の奴がそこに溜まっているからよろしく頼む」

「さて、僕たちも薪づくりを続けようか」


 話を止めて早速お仕事の時間だ。樵の兄弟が薪を作る時に出たいらない葉っぱや枝がひとまとめになって集められている。そのまとまった山に火魔法で火を点けて、燃やしていく。


 これでしばらくしたら燃え尽きてくれるだろう。その間に私は自分の仕事をしていく。二人の作業場とは遠い場所まで歩いていき、まだ残っている木の前に立つ。それから魔動力を発動させて、木を地面から抜いた。


 抜いた木を地面の上に横たわらせると、木の根っこを風魔法で切り落とす。次に葉っぱがついている太い枝を風魔法で切り落として、丸太を作る。


 魔動力を使って木の根っこを離れたところに持っていくと、風魔法で木の根っこを細かい木片に変えた。細切れになった木片に火魔法で火を点けると、木片を燃やしつくす。


 この一連の作業を黙々と続けていく。急ぐこともない仕事なので、ゆっくりと確実に仕事をしていった。


 ◇


「それじゃあ、また」

「おう、お疲れ」

「お疲れ様。また、よろしくね」


 午前中の仕事が終わり、帰路についた。森と農地が広がる場所から村へ行き、そこから自分の家に帰っていった。


「ただいまー」


 誰もいない家の中に帰ってくると、背負い袋をダイニングテーブルに置く。中からお弁当とパンを包んだ布を取り出すと、ダイニングテーブルに置く。棚からコップを取り出して魔法を使って氷水をいれた。


 席につき、手を合わせる。


「いただきます」


 今日は一人の昼食だ。お弁当箱とパンをつづんだ布を開けると、早速食べ始める。今日は野菜のラタトゥイユ風とホーンラビットのハーブ塩焼き、それにパンだ。


 お弁当は冷めているけれど、とても美味しくできている。沢山動いたからお腹が減っていて、食べるごとに幸せでお腹が膨れていった。


「ふぅ、ごちそうさまでした」


 パン、と手を合わせて挨拶をした。その後、すぐに洗浄魔法をかけてお弁当箱の布を綺麗にする。お弁当箱を重ね、布を折りたたむと棚にしまっておく。


「よし、砂糖作り頑張ろう」


 お腹も膨れたし、砂糖作りを始めよう。部屋の隅に置いてある蓋つきのチェストを開けると、そこには野菜の種が入った袋が沢山入っていた。その中からビートの種を探し出すと、袋から数粒の種を取り出す。


 その種を持って外の畑へと行き、種を植える。その地面に手を置き、魔力を高めていく。


「植物魔法!」


 魔法を発動させると、種が一気に芽吹き、葉っぱが生えて実がなった。次に葉を掴んで引っこ抜き、地面に置く。全てを抜き終わると、洗浄魔法をかけて土汚れを取ると、両腕でビートを抱える。


 そのまま家の中に入り、キッチンカウンターにビートを並べた。キッチンカウンターの下にある棚からまな板、包丁、大きな木の器を取り出して上に並べる。


 ビートの葉取りと皮むきだ。まずはビートの葉を切り落とし、次にビートの皮を剥いていく。厚く剥くのが砂糖作りには重要で、勿体ない気持ちを抑えつつ皮むきをしていく。剥いた皮は大きな木の器に入れておいて、後で葉っぱと一緒に処分する。


 ビートの皮を剥き終えたら、今度はお湯づくりだ。薪に火を点けて、かまどのくぼみに入れる。それから棚から一番大きな鍋を取り出すと、火のついているかまどの上に置く。それから水魔法で水を出して、かまどの火でお湯を作る。


 お湯を作っている間に今度はビートを小さなさいの目に切っていく。力を入れてビートを横に切ったり、縦に切ったり、小さなさいの目を作っていく。


 キッチンカウンターの下の棚からもう一つ大きな木の器を取り出すと、その中に切ったビートを入れる。ひたすらビートを切る作業をしていると、全部のビートを切り終える頃には木の器が一杯になった。


 お湯はできたかな? かまどに近づいてみると、大きな鍋に入っていた水から湯気が立ち上っていた、頃合いだ。魔動力で鍋を火のついていないかまどの上に置く。それから鍋の中に切ったビートを全て入れて蓋をする。


 棚から厚手の布を取り出すと、魔動力で浮かせた鍋をその布で包み込む。こうやって保温をしつつ、ビートの糖分を水に溶かしていく。一時間くらいでこの作業が終わるだろう。


 その間に出たごみを処分する。火のついた薪を魔動力で浮かせて、木の器に入れておいたビートの皮と切り落とした葉っぱを持ち、外へと行く。外にあるいつもごみ処理をしている穴に行くと、その穴に出たゴミを全て投げ入れた。


 それから火魔法で火力強めにしてゴミを燃やしていく。炎の熱気が体に伝わった時、ふと感じたことがある。今、暑い時間帯なのに空気が軽く少し涼しいことを。


「そろそろ秋か」


 周囲を見渡してみると、木の葉っぱはまだ青々としている。だけど、流れてくる風はどことなく涼しく感じた。きっと秋が近いからだ、あんなに暑かった夏がもう過ぎ去ってしまうのか、と思うとちょっと寂しくなる。


 でも、これからしばらくは過ごしやすい気候になるだろう。だけど、今だけは過ぎ行く夏を思って、ちょっとだけ暑かった夏を思った。

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