68.トマトケチャップを食べよう
「よし、焼けたぞ」
今日も綺麗にパンが焼けた。石窯の中に先が曲がった木の棒を入れて、中に入っているパンを取り出して籠の中に入れる。うーん、この香ばしい匂いはいつ嗅いでもいいものだね。
出来立てのパンをダイニングテーブルの上に置いておく。窓の外を見てみると、夕暮れになっている、そろそろ二人が帰ってくる頃だ。夕食の準備を進めないとね。
かまどに薪で火を点けると、鍋を置く。その鍋に冷蔵庫で保存しておいたオークから取れたラードを入れて溶かしておく。鍋が段々と高温になりラードが溶け始めた。鍋の上に手を置く……うん、これくらいでいいだろう。
あらかじめくし切りしておいた芋を油の中に入れて揚げていく。しばらく揚げていくと、芋が浮かんできた、中に火が通ったみたいだ。箸で芋を掴んで、木の器に入れていく。
全てが入れ終わると、今度は玉ねぎの番だ。こちらもあらかじめ作っておいた、小麦粉、塩、水でといた液の中に輪切りにした玉ねぎをくぐらせて油の中に入れる。それを繰り返していくと、油の中は衣を纏った玉ねぎで一杯になった。
その玉ねぎをじっくりと揚げていき、両面をカリカリになるまで揚げると、木の器に盛り付ける。再度、先ほどの液にくぐらせた玉ねぎを油で揚げて、揚がったら木の器に盛り付ける。
今日の副菜はこの揚げ野菜たち、ケチャップをつけて食べてもらう。あと作るのはメイン料理、オーク肉のケチャップ炒めだ。
まずは鍋を使っていないかまどに魔動力で移動させ、火のついているかまどの上に鉄板を乗せる。その鉄板の上でラードとにんにくを入れて軽く炒めると、にんにくを別皿に取り分ける。
にんにくを炒めた油で一口大に切ったオーク肉を炒める。炒め終わったらケチャップ、砂糖、塩、乾燥したハーブを振りかけてさらに炒めていく。
「ただいまー」
「ただいまかえりました」
と、その時二人が帰ってきた。
「おかえりー。今、手が離せないからちょっと待っててねー」
私は手早くメイン料理を炒めていく。すると、二人が近寄ってきた。
「嗅いだことがある匂いなのに、初めて嗅ぐ匂いだぞ」
「今日の夕食はいつもとは違いますね」
「気づいた? 今日はね、新しい調味料を作ってみたんだ。その調味料を使って料理をしているの」
「「調味料?」」
調味料の言葉に聞き覚えがないのか、二人は不思議そうな顔をした。
「調味料っていうのはね、塩や砂糖みたいに材料に味付けするもののことをいうんだよ」
「へー、そうなのか」
「だったら、今日は新しい調味料で料理を作っている、ということになりますね」
「どんな味なんだろうな、気になるぞ」
「この匂いは……トマトでしょうか?」
「そうだよ、トマトを使って作った調味料なんだよ」
トマトと聞いて二人はまだ不思議そうな顔をしている。
「トマトにそんな味があったか?」
「どんな味になるのか想像もつきませんね」
「まぁ、トマト以外にも色々入っているからね。その味も入ることになるね」
「他にも入っているのか? ますます分からなくなったぞ」
「これは食べて確認するしかないですね」
喋っている間にケチャップ炒めが出来上がった。もう、かまどは使わない。燃えている薪を魔動力で宙に浮かせると、家の外に出る。その薪を穴に入れておいて、水魔法で水をかけておく。今日は燃やしつくす時間がないから、明日ゴミと一緒に燃やそう。
家の中に戻ってみると、二人が興味深そうに鉄板の上で焼いたケチャップ炒めを眺めていた。
「今、盛り付けるから待っててね。はい、洗浄魔法」
帰ってきた二人に洗浄魔法をかけると、二人は気持ちよさそうな顔をした。
「じゃあ、先に座っているな」
「お言葉に甘えますね」
クレハとイリスがダイニングテーブルに向かうと、私は出来上がった料理を盛り付ける。棚から手作りのプレートを出すと、その中にケチャップ炒め、オニオンリング、フライドポテト、ケチャップを入れる。
そのプレートを三人分用意して、コップに氷水を用意した。それからプレート、コップ、フォークをダイニングテーブルの上に並べて、準備完了だ。
私が席をつくと、三人の視線を合わせる。
「「「いただきます」」」
手を合わせて挨拶をした。早速オーク肉のケチャップ炒めから食べる。フォークで肉を刺して、口へと運ぶ。オーク肉のジューシーな油が出て、ケチャップの甘味と酸味も合わさってとても美味しく出来上がっている。
二人の様子を見てみると、驚いた顔をしてオーク肉のケチャップ炒めを食べていた。存分に咀嚼した後に飲み込み、二人の視線が私に集まる。
「これ、本当にトマトから出来たんですか!?」
「トマトだけどトマトじゃないぞ!」
「驚いた? これはトマトに色んな物を入れて煮込んだ調味料、ケチャップで作ったものだよ」
「これがケチャップ……」
「ケチャップ……」
二人ともこれが本当にあのトマトから出来ているなんて信じられないといった顔をしていた。そこで調味料の名前を言うと、真剣な表情で肉を眺める。
「何と言いますか、トマトの濃厚な味に色んな味が混ざっていて、とても美味しいんです」
「なんだか複雑な味だけど、美味い! こんな調味料があったなんて知らなかった!」
「そうでしょ、ケチャップ美味しいでしょ?」
「はい、とっても美味しいです!」
「これならいくらでも食べられるんだぞ!」
二人は嬉しそうな顔をしてオーク肉のケチャップ炒めを食べ進めた。ケチャップを気に入ってくれたみたいで、本当に良かった。これで料理の幅が広がるね。
「これもケチャップなのか?」
「そう、それが本当のケチャップ。肉と一緒に入れたケチャップは他の味もついているから、味が濃くなっているんだよね」
「じゃあ、これが本来のケチャップということなんですね。これはこの揚げ物をつけて食べるんですね」
「そうそう、丸いのがオニオンリングで尖っているのがフライドポテトね」
「また新しい料理なんだぞ。ノアはウチらが知らない料理ばかり知っていて凄いな」
まぁ、こことは違う世界で生きていた、なんていうことを言える訳もない。でも、その前世の記憶が今役に立って本当に良かった。お陰で美味しいものが食べられるんだから。
「その二つもケチャップにつけて食べてみて」
私が食べるように促すと、二人は躊躇せずに揚げ物をケチャップにつけて食べた。
「わっ、こっちも違う味がします。しかも、この揚げ物がとても美味しいです!」
「肉の時とは違うけど、こっちも美味しいんだぞ! 揚げ物も美味しいなぁ!」
「そうでしょ、そうでしょ。ただ揚げただけでもこんなに美味しくなるのに、ケチャップまでついてくると格別でしょ」
「はい!サクサクした衣の中に入っている玉ねぎがジューシーで、ケチャップと絡むとよりおいしさが際立ちます!」
「このフライドポテトもホクホクしていて、ケチャップと良く合うんだぞ!」
揚げ物にケチャップは合うよね、私も食べてみるとやっぱり美味しい。食べる手が止まらなくなりそうだ。
私は普通に食べている間に、二人は物凄い勢いで食事を進めていった。私が残り半分近くなのに対し、二人はもう残りが三分の一にまで減っている。
と、そこで二人の表情がまた真剣な顔になった。
「この美味しさは革命です。今までの食事の味がガラッと変わりました。もう、やみつきです」
「ケチャップ、毎日でも食べたいんだぞ。また作ってくれないか?」
「流石に毎日は飽きそうだから無理だけど、残りを早めに消費しないといけないから頻繁には出すつもりだよ」
「残り?」
「残りもあるのか?」
「うん、ちょっと待ってね」
私は席から立ち上がると、冷蔵庫へと近づいて。そして冷蔵庫の中からケチャップが大量に入った瓶を二人に見せた。
「ほら、こんなに沢山作ってあるんだよ」
「おおー!! ケチャップがそんなにあるなんて!!」
「なんてことでしょう、ケチャップが他にもあるんですね!」
二人は驚いて席を立った。この料理だけの調味料だと思っていたみたい、二人はとても嬉しそうにしてくれた。
「まだケチャップはあるから、ケチャップ料理はまだまだ出来るよ」
「なら、明日も頼む!」
「お弁当にも入れて欲しいです!」
「明日も? うーん、分かった! 明日もケチャップ料理を作るね!」
「ありがとうございます、ノア!」
「ありがとうなんだぞ、ノア!」
二人は私に抱き着いてきて、嬉しそうに飛び跳ねた。そんなに喜んでくれるとは思ってもみなかったから驚きだ。そんなにケチャップが気に入ってくれたんだね、作ってよかったな。
私たちは残りの料理を楽しく食べていった。
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