67.トマトケチャップを作ろう

 夏の終わり頃、私の仕事は小麦作りと領地拡大の二つを交互に行っていた。


 小麦はまだまだ不足しているし、一日おきの生産でなんとかもたせているところだ。領地拡大も少しずつ領地を拡大していって、大分森の木が減ってきたようだ。


 今は結構忙しいけど、秋になると一気に仕事がなくなる。秋になると農家の小麦が収穫可能になって、私の小麦作りはいったん終了となるからね。


 領地拡大だって、このまま行くと秋の始めくらいには終わってしまいそうだ。そう、もう少しで小さな森の木を全部抜くことができそうなのだ。今、あそこに一帯には沢山の丸太が横たわっている。


 実は丸太の運搬も私が引き受けることになった。丸太を数十本宙に浮かせて、木工所へと持っていくのだ。でも、丸太を作りすぎて全ての丸太を木工所に入れることが出来なかった。だから、あそこの一帯には沢山の丸太が転がっている。


 樵の兄弟は毎日木の枝から薪を作り、いらない木の枝や葉っぱを選別している。全て手作業なので、私に比べると作業はかなり遅い。それでも早く処理をしているみたいだ。


 私もその作業を手伝いたいけど、それだと樵の兄弟の仕事を奪ってしまうことになる。そうすると、二人の仕事がなくなりお金も稼げなくなってしまう。だから、私は与えられた仕事しかできない。


 仕事の進歩のことは樵の兄弟が執事さんを通して男爵様に伝えているらしい。だから、作業の速度とかは伝わっていると思う。特に新しいお願い事もないので、きっと今の速度でいいのだろう。


 その内、家造りの話も出てくるだろう。いつ、その話が来るのか分からないけど、私はいつも通りに過ごして待てばいいだけだよね。


 ◇


 今日も無事、小麦の納品が終わった。農家の人たちとコルクさんと別れて、家まで戻ってきた。さて、今日の夕食は何を作ろうかな? 自家用の畑に行って、野菜を見ながら考えよう。


 ツタの籠を持って自家用の畑へと行った。そこには多種多様の野菜が植えられていて、必要な時に必要な分だけ収穫できるようになっている。


「早めに使った方がいい野菜とか量が多い野菜はないかな?」


 一つずつ野菜をチェックしていくと、トマトの青い実が沢山生っていることに気づいた。結構な量があり、早めに食べておかないと熟してしまう。一斉に熟したら食べきれないかもしれない。


 トマトを使った料理をしようか。でも、この間トマト煮込みはしちゃったし、何か他の料理はないかな? 


 頭をひねって考えていると、ある調味料のことが思い浮かんだ。トマトで作られる、トマトケチャップだ。確か材料が揃っている筈だから、トマトケチャップが作れるんじゃないかな?


 トマトケチャップに必要なのはトマト、玉ねぎ、にんにく、ハーブ、酢、砂糖、塩だ。本当はコショウもあれば味が引き締まるんだけど、コショウはまだ入手したことがない。


 でも、これだけの材料が揃っているなら、作れるはずだ。よし、今日はトマトケチャップを作って料理につけて食べよう。そうと決まったらトマトを必要な分だけ植物魔法で熟させると、もいでツタの籠に入れていく。


 トマトを取ったら、次は玉ねぎだ。玉ねぎの葉を掴んで植物魔法で成長を促してから、土から引っこ抜く。にんにくも同様に植物魔法で育ててから、引っこ抜いた。


 あとは、畑の隅っこで育ててあるハーブを何枚か摘んで、ツタの籠に入れた。これでよし、家に戻ろう。


 家に戻った私はキッチンカウンターにツタの籠を置いた。さて、ケチャップづくりのはじまりだ。


 まず薪に火を点けて、かまどのくぼみに入れる。それからかまどの上に鍋を置き、鍋の中に水魔法で水を入れて沸騰させる。沸騰させている間に、トマトに十字の切り込みを入れておく。


 それが終わる頃には水が沸騰した。その沸騰した鍋の中にトマトを入れて十数秒後に取り出す、それを数回繰り返しておく。すると、切り込みを入れたところの皮がペロンと捲れた。


 一度鍋を使っていないかまどの上に置き、今度はキッチンカウンターに近づく。まな板を置き、その上に先ほどのトマトを並べる。そのトマトの皮を全て剥き、皮は卓上のゴミ箱の中に溜めておく。


 全てのトマトの皮を剥くと、今度は包丁で出来る限り細かく刻んでいく。全てのトマトを細かく刻んだら、お湯が入ったままの鍋を手に持ってお湯を外に捨てにいく。


 空になった鍋をキッチンカウンターに置く。次に刻んだトマトをこしていく。こし器を先ほどの鍋の上に置き、こし器の中にトマトを入れる。そして、ヘラで潰すようにこしていく。


 こされたトマトは鍋の中に溜まり、小さな種やこしきれなかった果肉はこし器の中に溜まっていった。そうやってどんどんトマトをこしていくと、全てのトマトをこし終えた。見事に分離され、綺麗なトマトの果肉が鍋の中に溜まる。


 次に出来上がったこしたトマトの果肉を火にかけていく。かまどに置いておき、まずは温めていった。その間、玉ねぎとにんにくを処理する。


 一度使った調理器具に洗浄魔法をかけて綺麗にすると、玉ねぎとにんにくの皮を剥き、余分なところを切り落としてゴミ箱に入れておく。


 木の器とすり器を棚から出す、これから玉ねぎとにんにくをする。木の器にすり器をセットして、まずはにんにくをすっていく。すると同時に強烈なにんにくの匂いがしてきた。その匂いに我慢しながら、にんにくをすり終えた。


 次に玉ねぎだ。すり器にセットしてすっていくと、だんだんと目が辛くなってくる。玉ねぎの辛み成分が鼻を通り、目を刺激してきた。じんわりと涙が滲む中、なんとか玉ねぎをすりきることが出来た。


 でも、まだ目がしくしくしている。手を洗浄魔法で綺麗にしてから、涙を拭った。野菜が新鮮だと良いことばかりじゃない、こんなこともあるんだよね。


 さて、気を取り直してケチャップづくりだ。鍋のほうを見てみると、フツフツと煮立っている様子だ。木のスプーンでかき混ぜてみると、大分トロミが出てきて色も鮮やかな赤色になっている。


 この状態ですりおろした野菜、塩、砂糖、ハーブを入れてしばらく煮込んでいく。木のスプーンで混ぜながら、状態を確認していった。


 しばらく煮立たせていくと、ドロッとした状態になった。この状態になってから酢を垂らして一混ぜすると完成だ、自家製ケチャップ。


 木のスプーンで出来立てのケチャップをすくい、手のひらに乗せる。少し息で冷ましてから、舌で舐めとる。


「うん、美味しい!」


 上出来、これだったら二人も喜んでくれるはずだ。あとは大量に作ったケチャップを保存しないといけないんだけど、先に瓶を煮沸殺菌しておかないとね。


 トマトケチャップが入った鍋を隣のかまどに移して置いておくと、また違う鍋を火が出ているかまどの上に置いた。その鍋の中に水魔法で水を入れて、沸騰していく。


 沸騰し終えたら、いつも天然酵母を入れている瓶を煮沸殺菌していく。しばらく瓶を煮立たせると、魔動力で宙に浮かせて中のお湯を鍋の中に戻す。あとは乾燥魔法で中と外を乾かせばケチャップの器の完成だ。


 煮沸殺菌した瓶の中に粗熱が取れたケチャップを入れていく。ふふ、沢山出来ちゃった。しばらくはケチャップ生活になると思うから、楽しみだなぁ。


 コショウが手に入ったら、ソースも作ってみたい。他にも醤油とか作りたいけど、そう簡単には作れないしな。何かいい方法はないかなー。そう考えている内にケチャップの瓶詰が終わった。


 さて、それでは夕食の準備といきますか。まずは恒例のパン作りからだ!

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