66.領地を広げよう(3)

 作業が開始すると、私はすぐに魔動力を発動させた。すぐに一本の木を抜くと、地面に横たわらせる。次に風魔法を使い、木の根と太い幹を切り落として木を丸太へと変えた。


 最後に魔動力で木の根っこを少し離れた位置に移動をさせて、風魔法で細切れにして木片に変える。木片になった木の根っこを火魔法で燃やせば、これで一つの木の処理が終わった。


 隣を見てみると、兄弟は切り落とした太い幹を切っている最中だった。やっぱり木を切るのは時間がかかる、でも私がやってしまったら樵の仕事はなくなってしまう。手伝いたい気持ちをぐっと堪えると、私は次の木に取り掛かった。


 私の仕事はひたすら木を抜いて、丸太に加工して、木の根っこを燃やすことだ。その作業を黙々とやっていくと、木を抜いた後に穴が沢山出来上がっていた。


 その穴を埋めるために地魔法を発動させて、地面をならす。これで邪魔な穴はなくなった、他のみんなも喜ぶだろう。


 私はどんどん作業を進めていった。すると、地面には何十本もの木が並び、燃える木の根っこの煙が上がっている。途中、昼休憩も挟みながら同じ作業を繰り返していった。


 一番高くなっていた日が傾き出すと、私の帰る時間になる。


「あの、そろそろ帰るね」

「あぁ、そういう時間か」

「それにしても、沢山の木を抜いたね」


 三人で見渡してみると辺りには何十本もの丸太が転がり、幾つもの煙が上がっている。これを全て自分がやったんだけど、改めて見ると凄い光景だ。


「あっはっはっ、大したお嬢ちゃんだ! 一人でこんなに木を抜いて切っちまうんだからよ!」

「本当に凄い魔法だよ。革命が起きちゃうかもね」

「お陰で俺たちの仕事は大分楽になった、礼をいうぞ」

「いえ、そんな。村のためですから、少しでも力になれたんなら嬉しいよ」


 確かにこの光景を見ていると革命が起きているみたいだ。普通ならこんなに木を抜くことなんて出来ないのにね、やっぱり魔法っていうのはすごいな。


「そうだ、いらない枝と葉っぱも一か所に集めておくから、次来た時に燃やしてくれるか?」

「うん、分かった」

「それで、次来るのはいつぐらいになるの?」

「明日は小麦の収穫があるから、明後日なら一日中何もない日だから来れるよ」

「よし! なら、明後日だな!」


 明後日もここに来て、木を抜く作業か。うーん、このまま進めていっても大丈夫なのかな?


「あの……私はこのまま自分の仕事をしているだけでいいの? 明らかに枝から薪を作る作業が遅いみたいだけど」

「あぁ、気にするな。この仕事は数年かけて行う仕事だからな。今のままでいいんだ」

「ノアちゃんは自分のペースで木を抜いていってもらってもいいよ。その後の仕事は僕らの仕事だからね」

「これでも元々の仕事よりも大分早く仕事が終わっていっているんだ。ノアは自分の仕事だけに集中してくれればいい」


 そうだよね、私が出しゃばって樵の仕事を奪っているみたいなものだから。樵の仕事も長期的に見て継続してある状態じゃないと、この兄弟は稼ぐところがなくなってしまう。折角来てくれた樵に仕事が無くなった、なんていうのはダメだろう。


「分かった、私は私の仕事をするね。明後日も今日と同じようなスピードで作業をするよ」

「おう、よろしく頼むな」

「期待しているよ」

「それじゃあ、また!」


 私は二人に別れを告げて、その場を後にした。さて、私は帰って夕食の準備を……あ! そろそろ、パジャマが出来上がっている頃だ。帰りに仕立屋に寄っていこう。


 ◇


 森と農地が広がる場所から村へ移動をした私は仕立屋にやってきた。


「こんにちはー」

「いらっしゃい。あら、待ってたわよー。夏のパジャマ、出来上がっているわ」

「本当!?」


 仕立屋に入ると、真っ先にクレアさんがパジャマのことを言ってくれた。待ちに待ったパジャマだ、楽しみだな。


 カウンターに近寄ると、クレアさんは棚からいくつかの物を取り出した。きっとそれがパジャマだ。


「これがイリスちゃんの、これがクレハちゃんので、これがノアちゃんのね」

「わぁ、これが私たちのパジャマ!」


 綺麗に折りたたまれたパジャマを一撫ですると、さらっとしてとても触り心地がいい。この生地だと寝る時に窮屈にならず、さらっとして寝心地が良さそうだ。


「着て寝るととても心地がいいわよ。楽しみにしていてね」

「うん、ありがとう!」


 私は清算をすると、パジャマを背負い袋に入れた。


「今、秋パジャマを作っているところだから。また数日したら来てね」

「うん、分かった。秋パジャマも期待しているからね」

「もちろん、任せてよ」


 まだ夏パジャマ見てないけど、秋パジャマも楽しみだな。私はクレアさんに手を振って、仕立屋を後にした。


 ◇


「「ごちそうさまでした」」

「はい、おそまつさまでした」


 夕食が終わった。今日もお残しはなく、綺麗に食事を食べてくれた。私はすぐに食器に洗浄魔法をかけると、食器を棚へと戻す。


「最近は暑さも和らいできているのか、大分動きやすくなったんだぞ」

「でも、動いていると暑いって文句をいうのは誰ですか。もう、ノア聞いてください。クレハったら暑いからって服を脱ごうとするんですよ」

「だって暑いんだもん」

「だからって服を脱ぐのはダメじゃないですか」

「でも、誰も見てないし」

「誰も見てなくてもです」


 夏の終わりが近づいてきているけれど、まだ暑さは残っている。魔物討伐はきっと動き回ってばかりだから、暑くなるのだろう。クレハの気持ちは分かるけど、ここはイリスの気持ちを尊重してあげたい。


「私はイリスの意見に賛成だよ。暑くて大変だと思うけど、流石に裸で戦うのはどうかと思うよ」

「うぅ、ノアはイリスの味方なのかぁ」

「ふふ、ありがとうございます」


 二人に責められたクレハは悔しそうに頭を抱えた。とにかく、これでクレハが裸で戦うことがなくなっと言える。誰も見てないからって流石に裸はどうかと思うよ。


 さて、そろそろあの話題を出しますか。


「二人とも、とうとう夏パジャマが出来上がったよ」

「本当ですか?」

「本当か!?」

「うん、ベッドに並べてあるから一緒に見てみよう」


 二人と一緒にベッドに近づくと、一つのベッドの上に三人分のパジャマが広げてある。私とクレハは上が半袖、下が半ズボン。イリスのは半袖のワンピースだ。


「わぁ、可愛いですね」

「なんだか動きやすそうなんだぞ」

「触り心地もいいんだよ。触ってみて」


 私が触るように促すと、二人はパジャマを撫でてみた。


「わっ、凄い肌触りがいいです」

「なんだこれ、気持ちいいんだぞ」

「凄いパジャマだよね」

「はい、こんなパジャマになるなんて思いもしませんでした」

「もっと、ざらざらしているパジャマだと思ったんだぞ」


 私もこんなに肌触りが良いパジャマになるなんて思ってもみなかった。これに袖を通したらどれだけ気持ちがいいんだろう。


「ねぇ、ちょっと早いけどパジャマに着替えない?」

「いいな!」

「そうしましょう!」


 早速パジャマに着替えることになった。履いている靴を脱いで、着ている服を脱いで、新しいパジャマに袖を通す。


 肌をするすると優しく撫でるパジャマの生地、それだけでも気持ちがいい。緩めの大きさでヒラヒラと裾が揺れると、肌が擦られてくすぐったい。肌への負荷は全くなくて、緩めの大きさも相まってとても居心地が良かった。


「すっごい、いいパジャマだね!」

「なんだこれ、気持ちがいいぞ!」

「こんなパジャマ初めてです!」


 三人とも意見があった、このパジャマ本当に気持ちがいい。


「そりゃ!」


 クレハがベッドにダイブする。そして、ベッドの上でゴロゴロと転がり始めた。


「こんなに動いているのに、すっごく楽なんだぞ! 二人ともやってみろ」


 クレハの勧めに私たち二人は顔を見合わせて頷いた。自分のベッドに行くと、クレハみたいにダイブをした。そして、ゴロゴロと転がる。


「本当に楽! 肌触りも最高だし、体を締め付けないし!」

「パジャマを着ているのに、着ていないように感じます。こんなに気持ちのいいパジャマがあるんですね!」


 どれだけ動いても体を締め付けないパジャマ、どれだけ動いても肌の擦り切れる感覚がないパジャマ。生地の材質と見事な裁縫技術があるからこそ、こんなに素晴らしいパジャマが出来たんだね。


 その日の夜はパジャマを堪能しつつ、気持ちよく寝入った。

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