65.領地を広げよう(2)

 執事さんの案内で私は小さな森の近くに来ていた。


「ここが、今の作業現場です」


 案内された場所は小さな森になっている場所だった。その森の端には見知らぬ人が二人待っている、あの人たちが樵なんだろうか?


 執事さんに案内されてその人たちに近づいていくと、その人たちもこちらに気づいて近づいてきた。


「執事さん、ご無沙汰しています」

「お久しぶりですね。今日は話をした方をお連れしました」

「おう、その子が例の子なんだな」


 大柄な男性が二人、こちらを見て来ていた。


「はい、その通りです。この子が魔法を使って木を抜くことが出来るノア様です」

「ノアです、よろしくお願いします」


 紹介されて、お辞儀をして挨拶をした。


「おう、よろしくな。俺たちは兄弟で樵をしているんだ」

「こっちが兄さん、僕が弟さ」


 兄弟の樵みたいだ、兄弟で樵をするなんて仲がいいんだな。


「それではノア様、詳しい話はこのご兄弟に聞いてください」

「はい、分かりました。ここまでありがとうございます」

「いえいえ、とんでもない。では、後のことは任せましたよ」


 執事さんはそう言い残すと、この場を去って行った。残されたのは樵の兄弟と私の三人だ。


「あの、今日はよろしくお願いします」

「堅苦しい言い方はやめな、もっと気楽に行こうぜ」

「えーっと、こんな感じでいいかな?」

「そうだ、それくらいなら気が楽そうだ」


 どうやら大らかな人たちみたいだ。まぁ、このほうが気楽でいいし、仕事もしやすいよね。


「僕たちは君が魔法を使って地面に埋まっている木を宙に浮かせることができる、と聞いているんだ」

「そんな魔法があったなんて全然知らなかったな。んで、それをお前ができるということでいいんだな」

「うん、魔法で木を抜けることができるよ」

「んならよ、早速ここにある一本の木を抜いてくれないか?」


 お兄さんが一本の木を指さした。私は頷いてその木と向かい合う。そして魔動力を使って、地面に埋まっている木を宙に浮かせた。


「おお!」

「すごいね!」


 二人は歓声を上げて驚いた。私は抜いた木を横にして地面に上に下ろす。


「こんな感じで木を抜くことが出来るよ」

「凄い魔法だね。地面に埋まっている木を抜くことが出来て、宙に浮かせることが出来るなんて。かなりの力がないと出来ないことなのに」

「あぁ、すげー魔法だ。この魔法があれば、ここの森の木を無くすこともすぐにできそうだ」


 二人は感心したように横たわった木を見て言った。そっか、この森を無くして農地にするんだね。ということはかなりの数の木を抜かないといけなくなる。


「俺たちの今の仕事はこの森を無くすことだ。期間はできるだけ早く、となっていてかなりおおざっぱだ。まぁ、俺たち二人しか樵がいないみたいだし、詳しい期間を設けることができなかったんだろうな」

「僕たちも出来るだけ早く仕事をしているんだけど、森を無くす作業はとても大変な仕事だ。そう簡単に作業は進まないのさ」

「確かに森を無くすのは大変だよね。こんなに沢山の木を切り倒して、切り株も抜かないといけないから」


 男爵様はこの二人の樵しか誘致出来なかったみたいだ。そんな二人だけの樵を使って森を切り開くのはかなり時間がかかるだろう。それを分かっているから詳しい期間を設けなかったんだな。


「それに俺たちの仕事はまだ他にもある。切り倒した木の加工だ。木を丸太に加工したり、薪を作ったりの仕事もしている」

「木を切り倒すだけだったらいいんだけど、話はそう簡単じゃない。木の加工にも時間を使っているから、作業があまり進まないんだ」

「そうだよね、木を切り倒すだけでも時間がかかるのに、丸太への加工や薪にするのも時間がかかる。それじゃあ、森を切り開くのにどれだけ時間があっても足らないよ」


 そうなんだよね、木を切り倒すだけならいいんだけど、それに不随して木の加工の仕事もある。木から丸太を作り、木の枝をそのまま捨てるのは勿体ないから薪も作る。そんなことをしていると、森を切り開くのが遅れる。


「しかも仕事はそれだけじゃねぇ。薪に出来ない木の枝や葉っぱ、根っこなどの処分もしなくちゃならねぇ」

「それらを燃やすのも時間がかかる話なんだよね。僕たち二人でそれらをしないといけないから、全然作業が進まないんだ」


 いらないものを処分するにも時間がかかる。これらをしないといらないもので溢れてしまって、折角の領地がゴミだらけになってしまう。それは避けたいので、溜まる前に処分する必要がある。


「それで、お前はどんな作業ができるのか教えて欲しい」

「色々な魔法を使えるのは聞いているよ。その中で必要な力があったら、ぜひ貸してほしいんだ」


 私ができることか……とりあえず一通り言ってみよう。


「私は一人で加工までできるよ」

「どんな手順でやるんだ?」

「まず魔動力で木を抜く、次に風魔法で木のいらない部分を切る、それで丸太が出来るんだ。切った木の枝をさらに風魔法で切ることで薪だって作れる。いらなくなった木の枝や葉っぱ、根っこを焼却処分も出来るよ」

「ほとんど一人で出来るじゃないか、すごいね」

「なるほどな、お前一人いれば十分っていうことか」


 お兄さんはちょっと考え込んで、また口を開く。


「それなら、俺たちがやり辛いと思った作業をノアが引き受けるのはどうだ?」

「ちなみにどんな作業?」

「一番は木を抜く作業だ、これをノアが負担するだけでかなりの時間が短縮される」


 うん、その仕事は私がやったほうが良さそうだ。男爵様も木を抜く光景を見て、私に力を貸して欲しいと思ったんだから。ここは私の力の見せどころだ。


「あとは木を切る作業がどれくらいの速さなのか見せて欲しい。今抜いた木の根っこを切ってくれないか?」

「分かった、切ってみるね」

「魔法で切るっていってたけど、どんな風になるんだろう」

「うーん、想像はつかないな」


 私は抜いた木の根っこの前に立つと、魔力を解放する。魔力を風魔法に変換して発動すると、刃の風が木の根っこ部分を一瞬で切り落とした。


「こんな感じだけど、どう?」

「……たまげた、本当に一瞬なんだな」

「そんなに一瞬で切れるものなの? 信じられないけど、これが現実なんだね」


 二人とも一瞬で木の根っこが切れたことに驚いていた。


「普通に切るのに数時間はかかるのに、こんなに一瞬で切れるなんて……魔法って凄いんだね」

「あぁ、そうだな。あと余分な枝を切ることもできるか?」


 今度は枝か。太い幹に近づいて風魔法を発動させると、太い幹が簡単に切り落ちた。あとは木の上部、葉っぱが沢山ついている枝を切り落とすと、立派な丸太が出来上がる。


「枝を切って丸太にしてみたんだけど、どう?」

「あぁ、早くて驚いているところだ。こんなに簡単に木が切れるなんて思いもしなかったからな」

「切り口も綺麗な状態だし、いうことなしだよ」


 どうやら合格みたいだ。ということは、私のやることは木を丸太に加工するところまででいいのかな? あ、いらないものを燃やすところも見てもらおう。


「ちなみに木の根っこも処分できますよ」

「本当かい?」

「興味深いな、やってみてくれるか?」


 切り落とした木の根っこを魔動力で浮かせて、少し離れたところに置く。まずはその木の根っこを風魔法でずたずたに切り裂き、細切れの木片に変える。


 それから火魔法を発動させて、木片を燃やした。小さくなった木片は簡単に燃えて、炭化するまでそんなに時間がかからない。


「こんな風に木の根っこを炭化することができるよ」

「この強い火力だったら、あっという間に炭化になっちゃうね。これだったらゴミも時間がかからずに処分できそうだよ」

「なるほどな、これも使えるな」


 お兄さんは腕組をして考える。


「ノアの魔法は便利で、使い勝手もいい。だけど、利用すれば俺たちの仕事がなくなる。だから、ノアが手伝うのはこの辺りまでにしてほしい」

「じゃあ、私が丸太を作って出てきたゴミを焼却処分すればいいんだね」

「そういうことだ。残りの枝を薪に変えるところは俺たちがやろう。これもノアがやれば早く終わるのは分かるが、俺たちの仕事がなくなるのは困るからな」


 そうだよね、私は樵じゃないから樵の仕事を全部奪うのは話が違うと思う。出来ることはこの兄弟がやっていった方がいいと思う。


「それじゃあ、作業をしていくか。ノアはどんどん木を抜いて、丸太にしていってくれ。俺たちは枝から薪を作っていく」


 お兄さんの一声で作業は始まった。

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