64.領地を広げよう(1)

 朝、差し込んでくる日の光で目が覚めた。ゆっくりと体を起き上がらせると、体を上に伸ばす。それからベッドから下りて、靴を履いた。


「さて、お弁当を作ろうかな」


 起きたらいつもやることはお弁当作り。かまどに近づくと、先に薪に火を点けてくぼみの中に入れる。その上に鉄板を置いて、先に熱しておく。


 今度は冷蔵庫から昨日下ごしらえをした肉と野菜を取り出す。それを持って鉄板に近づくと、先にオークから取れたラードを木のトングで鉄板の上に置く。


 ジュワーッとラードが溶けて油が鉄板の上に広がるのを見てから、肉と野菜を置いて並べる。その上から軽く塩を振りかけて、片面が焼けたらひっくり返しまた軽く塩を振る。


 両面が焼けたら、鉄板を使っていないかまどの上に魔動力で移動させて粗熱を取る。次に燃えている薪を魔動力で中に浮かせると、それを浮かせながら外に出て穴に入れて燃やす。薪が灰になったのを確認してから家の中に戻る。


 その頃になると、先ほど焼いていたおかずの粗熱が取れている。お弁当箱に肉と野菜を別々に詰めて、蓋を閉じて紐で縛る。それに昨日作り置きしておいたパンを布で包んで、弁当箱と一緒に背負い袋に入れておいた。


 使い終わった調理器具にまとめて洗浄魔法をかけてから、片づけをする。これでお弁当の準備は終わり、あとは二人を起こすだけだ。


 ベッドに近づき、二人を揺すって起こす。


「クレハ、イリス、起きてー。朝だよー」


 声をかけて揺するとすぐにイリスが起きてくれる。


「ふぁ……おはようございます」

「うん、おはよう。ほら、クレハも起きてー」

「あと、もうちょっと……」

「こらー、クレハー」


 クレハは中々起きてくれない。ベッドの上で丸まって幸せそうに寝る姿を見て、そっとしておきたい気持ちはある。だけど、起こさなきゃだめだ。心を鬼にしてクレハを起こす。


 ベッドに乗ると、クレハの耳に手を伸ばす。そして、全力でくすぐった。


「クーレーハー」

「うわわっ! やめ、止めてくれー!」

「起きろー」

「起きる、起きるから! それは止めてー!」


 耳をくすぐると、クレハは飛び起きた。よし、これで任務の完了だ。


「朝からそれをやられると、ぞわぞわするんだぞ」

「早く起きればいいんですよ」

「でも、このベッドが気持ちよすぎて中々起きれないんだぞ」

「まぁ、気持ちは分かりますが」


 確かにね、このベッドになってから起き上がるのが大変になってきた。快適な睡眠を取れているけれど、気持ちよすぎて起き上がれない弊害があるのは大変だな。


「じゃあ、宿屋の食堂に行こうか」

「はい」

「お腹が空いたんだぞー」


 起きた私たちはいつものように宿屋の食堂へと向かっていった。


 ◇


「じゃあ、二人とも。魔物討伐頑張ってね」

「おう、ノアも男爵様の仕事頑張れよ」

「ノアも頑張ってくださいね」


 宿屋で朝食を取り終えた私たちはその場で別れた。二人はいつも通り魔物討伐に行き、私は男爵様のお仕事を受けに屋敷まで行く。


 慣れた道を歩いていき、男爵様の屋敷に辿り着いた。扉を強くノックをしてしばらく待っていると、扉が開いた。現れたのは執事の人だ。


「ノア様でしたか、ようこそ」

「男爵様はいますか?」

「えぇ、ちょうど朝食が終わったところです。案内しますね」


 執事さんに屋敷の中に招かれると、屋敷の中を歩く。しばらく歩いていると、扉の前に連れてこられた。


「男爵様、連れてきました」

「分かった」


 執事さんが扉を開けると、ダイニングテーブルに座って紅茶を飲んでいる男爵様がいた。


「男爵様、おはようございます」

「おはよう。いつも朝早いな、感心するな」

「男爵様も朝が早いと思います」

「はっはっはっ、そうか」


 軽く言葉をかわすと、これだけで場が和んだ。


「さて、今日からノアには木を抜いて領地を拡大する手伝いをしてもらうことになる」

「はい」

「とりあえず、どこまで広げるかは樵には伝えてある。具体的な仕事内容については現地で詳しく聞いてくれ」

「分かりました」


 どうやら、私の仕事は樵さんに一任されているみたいだ。どれだけの仕事量をすればいいのか分からないのは不安だけど、現地に行けば分かるってことだよね。


「一つ注意して欲しいことがある、この仕事はあくまでも樵の仕事だということだ。全ての仕事をノアがやる必要はない、あくまでノアは手伝いという位置だ。その辺りの調整をしっかりとしてくれ」

「ということは、私は樵の仕事がなくならない程度までのお手伝いということですか」

「まぁ、そういうことだ。樵がやり辛い仕事をノアが手伝って、樵は自分のできる範囲の仕事をする感じだな」


 中々に難しい話だ。それぞれの仕事がなくならないように調整をしないといけないのか。これは樵の人としっかりと話し合って、誰がどの仕事をするのか話し合わないとね。


「難しく考えるな。ようは魔動力を生かせる部分をノアが補って、人の手で出来る作業は樵に任せればいい」

「それだったら分かりやすいです。魔動力を生かせる場面、頑張ります」

「あぁ、よろしく頼むよ。道案内は執事に任せてある」

「では、私が案内させていただきます」


 私は執事さんの案内で現場へと行くことになった。


 ◇


 いつもとは違う道を執事さんの案内で進んでいく。その間、執事さんが色々な話を聞かせてくれた。


「今、向かうところはいずれ農地にしようと考えている土地です」

「農地にする場所だから、早く領地を広げたいんですよね」

「はい、そうです。ここら辺は小さな森が沢山ありますから、本来であれば農地にはむかない土地なんですよ」

「そんな土地で開拓するのは大変ですね」

「はい、男爵様は大変なお役目を背負われています」


 周囲を見渡すとあちこちに小さな森が点在していた。農地に必要な平地が少なく、農地を作ったとしても小さな農地しかできないようになっている。まるで私の家の周辺と環境が似ている。


 男爵様が貰った領地はそんな森が点在する、農地にし辛い土地柄だ。でも、農地を作らなければ人は生きていけないし、税収だってない、開拓村が生き残るためにはどうしても農地が必要だ。


 そんな中で森を切り開き、農地へと転換させるのはこの開拓村で一番大切な事なのだろう。そうじゃないとこの村は発展していかない。


「男爵様はノア様たちが来たことをとても歓迎していらっしゃいます。この村で必要な魔物討伐をしてくれるだけじゃなく、農作物の収穫をしてくださって、男爵様はとても助かっていますよ」

「何もない私たちを受け入れてくれて、その恩返しが出来ているのであれば嬉しいです」

「えぇ、とんでもない恩返しをしていると思いますよ。でも、まさか自分で家を建てられるようになるとは、男爵様も驚いていらっしゃいました」

「よりよい生活をするには魔法が必要で、それを会得するには魔物討伐を頑張っている二人の協力も必要不可欠なんです。だから、二人のお陰でもあります」


 本当に二人には感謝をしなくちゃいけないね。二人が魔物討伐をしてレベルアップをしてくれるから、私の称号もレベルアップしてくれて新しい魔法を覚えることができる。


 その新しい魔法のお陰で色々なことができるようになったし、こうやって男爵様のお仕事を手伝わせてもらうことになっている。農作業の仕事がなくなりそうだった今、新しい仕事を得られて本当に良かったよ。


「今回のことも本当に助かりました。樵の数が少なくて、領地拡大が思った以上に進まないので困っていたところなんです。これで領土が拡大すると、色々なことができるようになります」


 生活向上のために新しい魔法を求めていたけれど、それ以外にも活用方法はあったみたい。私の魔法の力がこの村のためになるみたいで、とても嬉しい。どんどん活用していって、村も豊かにしよう!

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