63.新しい家の生活
今後の話をした後、男爵様は帰っていった。新しい仕事が舞い込んできて、秋以降の無職から逃れられそうで良かった。秋になると小麦が沢山取れるからね、私に出来る農業といえば足りない野菜をつくることくらいだ。
家造りもいつになるか分からないけれど、大きな仕事だ。多分、私たち用に建てた家の形じゃダメなんだろうなぁ。今度は部屋を作る構造になりそうだ。難しいけど、いつも通り慎重にやればきっと出来るよね。
そんなことを考えていると、夕食の用意の時間になった。今日から初めて家の中で作ることになる、気持ちがワクワクする。
キッチンカウンターに向かう、新品のキッチンカウンターはシミもなくとても綺麗だ。この上で料理を作るとなると本当に嬉しくなる。
まず、棚から買ったばっかりの大きな木の器を取り出す。次にキッチンカウンターに下部に備え付けられた棚の扉を開けると、小麦粉が入っている袋がある。あと、塩の入った瓶と砂糖の入った瓶もあった。
その三種類を外に出すと、木の器に適量の分量を入れる。入れ終わると三種類の粉を棚に戻し、今度は木の冷蔵庫に近づく。下部の扉を開けると中には天然酵母が入っていて、今度はそれを取り出す。
木の器に天然酵母を適量入れると、また天然酵母を木の冷蔵庫の中に戻す。それから、水魔法で水を出すと適量を木の器に入れた。それから捏ねる作業だ。
新しいキッチンカウンターの上で、新しい木の器を掴みながらパンを捏ねる。それだけなのになんだか嬉しくなって、捏ねながら笑ってしまった。
新しい台所で作る料理は楽しい! 目新しいものばかりで気分は上がっていて、何をしていても楽しく感じられた。
パンを捏ね終えて、丸い形に整える。棚を開けて、上段の棚に手を伸ばすとそこにはいつもの布巾が置いてあった。それを手に取って水魔法でちょっとだけ濡らすと、パンの入った木の器の上に被せて発酵させる。
次はお肉の下ごしらえだ、ブライン液を作っていく。棚を開けて、中段に入っている棚にあるまな板と包丁を取り出してキッチンカウンターの上に乗せる。下段の棚から中ぐらいの木の器も取り出していく。
今度は違う棚を開けて、塩の入った瓶と砂糖の入った瓶を取り出す。瓶を開けて木の器の中に適量入れると、両方の瓶を戻す。それから水魔法で水を出して木の器の中に入れた。軽く木の器の中を混ぜて塩と砂糖を溶かす。
次に木の冷蔵庫から買ってきたオーク肉を取り出す。オーク肉をまな板の上に置くと、包丁で一口大に切っていく。全てを切り終えると、先ほど作ったブライン液の中に浸して混ぜこんだ。
混ぜた手と使った道具に洗浄魔法をかけて綺麗にすると、その木の器を冷蔵庫に入れておけば肉の下ごしらえの完了だ。肉の準備が終わったら、野菜の準備をしよう。キッチンカウンターじゃないほうの棚に置いてある、ツタの籠を手に持つと家の外に出る。
敷地の一角に小さな畑を作っていて、毎日そこから野菜を収穫している。今日もその小さな畑に行って野菜を収穫するつもりだ。
「今日の野菜は何にしようかな?」
確か、家の中にカボチャが残っていたからそれを使って、他の野菜はどうしようかな。ピーマン、にんじん、とうもろこしにしよう。
植物魔法で実がなった直前で成長を止めておいた野菜。使う分だけ植物魔法で成長させて、収穫していく。籠一杯になると収穫の終わりだ、家の中に戻る。
野菜の下ごしらえをしよう。まずはとうもろこしを茹でる。棚に置いてある鍋を取り出して、水魔法で水を入れてから新しいかまどの上に乗せる。かまどの横に重ねていた薪を手に取ると、火魔法で火を点ける。
薪に火が付くと、今度はかまどのくぼみに薪を入れる。すると、上部に開いた穴から火が出る構造になっている。その火を使い、鍋の水を沸騰させていく。
沸騰させている間にとうもろこしについた余分な皮を剥いで、薄皮を二枚残しておく。後は余分な茎を包丁で切り落とせば、準備完了だ。
鍋の水が沸騰した頃になると塩を入れる。塩が溶けるのを見守ると、今度はとうもろこしを入れて木の落し蓋を上に乗せる。茹で時間は十数分、その間に他の野菜を食べやすいサイズに切っていった。
時間が経って十数分後、隣の使っていないかまどに鍋を移して粗熱を取る。こうすることによって塩がとうもろこしに馴染み、とうもろこしの甘味が引き立つのだ。
これで下準備が完了した、次に台所の片づけをする。野菜を切った時に出たゴミを木の器に入れて手に持ち、火の点いている薪を魔動力で浮かせる。その二つを持って、私は外に出た。
家の傍に適当な穴を作り、その中に野菜のゴミと燃えている薪を入れた。そして、火魔法を使ってその両方を燃えカスにする。かなり強い火魔法を唱えると、ゴミと薪はあっという間に燃えカスになった、これでお片付け完了だ。
ゴミの焼却を終えて家の中に戻ってくると、そろそろパンの発酵が終わっている頃だ。キッチンカウンターに近づき布巾を外してみると、パンの生地がふっくらと膨らんでいた。
石の板を用意してから生地のガス抜きをして、小分けに丸めたものを石の板の上に乗せる。そして、また濡れた布巾を被せて二次発酵をさせる。
ここでパンの二次発酵が終わるまで一休憩だ。改めて新しくなった台所を見渡す。かまどは使い勝手のいい高さにしたし二個に増やした。広いキッチンカウンターで作る料理はとても快適だ。
そして、これから初めて使うことになるであろう、新しい石窯。前回よりもいい形で作れたと思うし、大きくなっている。使うことを考えると、やっぱりワクワクしてきた。
休憩がてらダイニングテーブルでボーッと座っていると、窓から差し込んでくる日の光が赤くなってくる、夕方だ。そろそろパンを焼く時間だね。
薪を数本手に取って石窯に近づき、薪に火を点けて石窯の中に入れる。それから鍛冶屋で作ってもらった火かき棒で石窯の奥に薪を押し込む。あとは扉を閉めて、石窯内の温度を上げておく。
石窯の温度が高まったら、石の板ごと石窯の中に入れて鉄扉を閉める。新しい石窯は上手に焼けるかな? 石窯の前でパンが焼けるのを待つ。
しばらくして小麦の香ばしい匂いがしてきた。石窯の横にぶら下げていた鍋掴みを両手にはめて、鉄扉を開ける。中を見てみるとパンがこんがり焼けていた、新しい石窯でのパン焼き成功だ。
石窯の横にぶら下げていた先が曲がった木の棒を持つと、パンを手前側に引く。棚にあったツタの籠の中に全て入れて、ダイニングテーブルの上に置いた。
ちょっと暗くなってきたので明かりをつけよう。部屋の中央に紐でぶら下げた小さな木の囲いに生活魔法の光源をその中に入れる。すると、光が部屋中に広がって明るくなった。
あとは二人が来てから料理をする。イスに座り、二人の帰りをまだかまだかと待つ。家の中で待つのもいいね、それだけでもワクワクしちゃう。
しばらく待っていると、扉が開いた。
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
「おかえり、二人とも!」
家に帰ってきたことが嬉しくて、二人に駆け寄った。すると、二人もニコニコと笑って嬉しい様子だ。
「家があるのっていいね!」
「はい、いいですね!」
「最高なんだぞ!」
待つ家がある、帰る家がある、それだけで嬉しくなる。私たちは念願だった家を手に入れて、普通の暮しが始まった。
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