62.新しい仕事
「とても立派な家が建ったな。正直言ってこれほどに立派な家が建つなんて思ってもみなかったから、驚いたよ」
一通り家を見終えた男爵様はそんな感想を残した。
「本当はな、今木工所で作ってもらっている家をお前たちに売ろうと思っていたんだ。ずっと石の家のままが可哀そうだと思ってな。でも、ノアは一人で家を作っちまった。賢者の卵は凄いんだな」
「そうだったんですね、気遣ってくれてありがとうございます。まぁ、出来そうだったからやったまでですが」
「そうだとしても、これは凄いぞ。こんな短期間で家が建つなんて、普通はないことだ」
「家の構造も簡単なものにしたので、そのお陰で早く建ったと思います」
男爵様は私たちのために家を作ってくれていたんだ、知らなかったな。その優しさに感謝だね。
「大したもんだよ。農業に建築に魔物討伐か、どれもこの村になくてはならないものだ。ノアたちがこの村に来て、良かったと思う」
「私もこの村に来れて良かったです。住む場所がなかったから、その場所を提供してくれただけでも本当に助かりました」
「まさか石の家を建てるなんて思ってもみなかったがな。でも、こうして生きてこれたということは、それだけの力があるということだ。ノアたちは凄いぞ」
真正面から褒められて照れ臭くなる。ただ生きるために一生懸命にやっていただけだから、褒められ慣れないな。
「そういえば、新しい魔動力っていう魔法はどういう魔法なんだ?」
「物を自由に動かせる力になります。例えばこんな風に」
魔動力のことを聞かれて、私は魔動力を披露する。ダイニングテーブルに狙いを定めると、魔動力でその場に浮かせて動かして見せた。
「おお、これが魔動力か。なるほど、こんな風に動かせることができるんだな」
「浮かせたり、動かしたり、回転させたり。自由に動かすことができます」
「この力で家を建てたなんて、なんだか想像がつかないな」
「建築は重たい木材を移動させたりしないといけないので、そのことに魔動力を使いました。だから、非力な自分でも家が建てられたんです」
興味深そうに回転するダイニングテーブルを見る男爵様。
「これって、どれくらいの重さを浮かせられるんだ?」
「多分、どれだけ重くても大丈夫なような気がします」
「例えば、一番重いものは何を浮かせた」
「一番重たいものは木ですね。地面に埋まった木を抜いて、浮かせたのが最高に重い瞬間だと思います。一瞬で抜けますよ」
「木を抜くことが……」
その話を聞いて男爵様は黙って考え込んでしまった。一体、何が気になったんだろう? 男爵様の考えが落ち着くまで待っていると、話しかけてきた。
「一日にどれだけの木を抜くことができる?」
「多分、魔力尽きるまで出来ると思います」
「具体的に何本くらいだ」
「えーっと、最高は三十本以上ですね。でも、それ以上抜けるような気がします」
「ふむ、そんなに木を抜けることができるんだな」
木を抜くことに興味があるみたいだ。かなり詳しく話を聞くと、少し考えるそぶりを見せて、また話しかけてくる。
「その魔動力は開拓に使えそうだ」
「開拓、ですか?」
「あぁ、領地を広げるのに適していると思う」
魔動力が領地を広げるのに役立つってこと?
「この場所は森に囲まれている。人が住む場所を確保するためには木を切らなきゃいけない。だが、木を切るのは結構な重労働で、中々進まない」
「確かにそうですね、一本の木を切るとなればかなりの時間を使います」
「だが、その魔動力とやらを使えば一瞬で抜ける。簡単に土地を切り開くことが出来るということだ。この力を使えば簡単にかつ早く土地を切り開けるということだ」
「ということは、私が木を抜いて領地を拡大させて欲しいということですか?」
「そうだ、領地を広げて農地を増やし、働き手を増やしていきたい。ノアにその手伝いを頼みたい、もちろんただとは言わない」
私が開拓のお手伝いをするってことだよね。領地を広げれば、農地が増える。農地が増えれば、働き手も増える。領地を広げればこの村にとっていい循環ができるということだ。
私たちを迎い入れてくれた村が発展するのはとてもいいことだ。少しでも恩返しが出来るように協力をしよう。
「はい、私でよければ協力させてください」
「そうか、助かった! ついでに家を建てることも協力してほしい」
「私が建てた家で大丈夫なんですか?」
「もちろんだ、建てた家を見たが上出来すぎるほどだよ。今すぐじゃなくてもいいから、時間がある時に家も建てて欲しい。金は出す」
領地を広げるだけじゃなくて、家を建てることもお願いされてしまった。でも、秋になるとしばらくは小麦作りは一旦お休みになるし、いい仕事が手に入ったと思う。
「はい、分かりました。自分の仕事の合間になってしまいますが、いいですか?」
「もちろんだ、あくまでノアたちの生活を優先してもらっても構わない」
「それなら大丈夫です。ちょうど、秋になってから仕事量が大幅に減少するのでこちらも助かりました」
「そう言ってくれるとありがたい。詳しい建築場所とかは決まってから伝えることになると思う」
新しい魔法が新しい仕事を呼び込んでくれた。まだまだ先の話になると思うけど、新しい仕事をゲットだね。これで魔物討伐で忙しい二人に顔向けできそうだ。
「とりあえず、先に領地を広げるところから始めよう。今、樵たちにお願いしている伐採所があるんだ。そこで作業をしてもらうことになると思う」
「そんな場所があったんですね。じゃあ、私はそこに行って出来る限り木を抜けばいいんですね」
「そういうことになる。樵たちと上手く仕事を分け合いながら、作業を進めて欲しい」
この村にも樵はいたんだね、まだ会ったことないなぁ。ということは、その人たちと協力し合って領地を広げていけばいいっていうことになるね。
「詳しい場所は後で執事に案内させる。そうだな……二日後なら今日みたいに一日何もない日だよな」
「はい、特に指示がなければ一日何もない日です」
「なら、二日後だな。俺の屋敷に来てくれれば、樵たちに引き合わせる」
「分かりました、二日後ですね」
結構早く仕事になったな、でもそのほうがやりがいがあっていい。よし、村のために領地拡大、頑張るぞ!
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