57.家の完成

 夕方になって二人が帰ってきた。待ちきれない私は二人に駆け寄る。


「二人ともおかえり! ねぇ、聞いて、とうとう家が完成したの!」

「何、本当か!?」

「本当に家が?」


 私の言葉に二人は驚いたように目を大きくした。


「とにかく、家の中に入ってみて!」

「おう、行こうぜ!」

「楽しみです!」


 二人の手を引いて、家の前までやってきた。三人で見上げる家はとても大きく感じられて、安心感がある。


「いつのまに立派な扉がついたんですね」

「これもノアが作ったのか? ノアはなんでも出来るな」

「とにかく、扉を開けてみて」

「それじゃ、開けますよ」


 イリスが扉のドアノブに手をかけると、扉を引いた。中を開くと丁度窓から西日が差し込んできて、部屋の中が良く見える。木の床が広がり、窓のある壁があり、上を見上げると屋根が見えた。


「これが……家、ですか」

「……」


 二人は呆けて家の中を見上げた。


「さぁ、中に入って!」


 二人の背を押すと、二人はゆっくりと家の中に入っていく。辺りを興味深そうに見渡しながら部屋の中央にまでやってきた。


 反応がないけどどうしたのかな? ちょっと不安に思っていると、二人が勢いよく振り向いてきた。


「これをノアが一人で作ったなんて、信じられない。でも、これは夢じゃないんだよな!」

「凄いです、ノア! こんなに立派な家を造っただなんて、信じられないけれど現実なんですよね!」

「どんな風に造ったかなんて全然分からなくて、ノアの手は魔法みたいだな!」

「魔法を使ったんでしょうが、ノアの使える魔法でこんなに立派な家が建つなんて想像できませんよ!」


 詰め寄った二人は凄い勢いで喋り出した。とにかく、私の力だけでこんな立派な家が建つなんて信じられないみたいだ。そうだよね、こんなに立派な家が建ったんだから、そう思うのは仕方がない。


 でも、建ったんだ!


「信じられないかもしれないけれど、家が建ったんだよ。三人で暮す家が欲しいっていう強い気持ちがあったから、最後まで頑張れたんだと思う。だから、この家が建ったのは二人がいてくれたお陰だよ、ありがとう!」

「そんなお礼だなんて……それはこっちが言いたいくらいです」

「そうだぞ、ノアが感謝するのは可笑しいぞ! ウチらが感謝をしないといけないんだぞ! ノアは大人しく、ウチらの感謝を受け取るんだぞ」

「そうだね、まずは二人から感謝を受け取るね」


 すると、二人は顔を見合わせて笑顔になると、私に抱き着いてきた。


「ありがとう、ノア!」

「ありがとうございます、ノア!」

「どういたしまして!」


 三人で抱き合って、嬉しさが高まって三人で何度もジャンプをして喜んだ。しばらくそうやって喜びを分かち合うと、自然と体が離れた。


「家ができたということは、今日からここで寝泊りするのか?」

「まだ、寝泊りはできないね。家具とかも何もないし」

「そうですね、木の板の上で寝るよりはまだ枯草の上で寝ていた方がいいと思います」

「そうか、残念だ」


 ということは、真っ先にベッドを作ったほうがいいってことだよね。ベッドの作り方は木工所にいけば設計図があると思うんだけど、敷布団と掛け布団は他でどうにかしないといけない。雑貨屋へ行って聞いてみようかな。


「この家で暮すのは、家具が一通り揃ってからだね。それまでは、今まで通りに暮していこう」

「分かったぞ」

「分かりました」

「さぁ、夕食を食べようか」


 二人の背を押して、家から出ていった。家で暮すのはもう少し先だ、そのためにも今度は家具作りを頑張っていこう。


 ◇


 翌日、丸一日仕事がない日だ。宿屋で朝食を食べ終えた私は二人と別れ、その足で荷車を持って木工所まで行った。木工所へ辿り着くと、丁度ヒートさんが外に出てきた時みたいだ。


「ヒートさん、おはよう!」

「おお、ノアか、おはよう。今日はどうしたんだ?」

「実は家が完成したの!」

「そうなのか!? 随分と早く仕上がったじゃないか、魔法のお陰か?」

「魔法があったから凄く早く建ったと思うよ」

「そうか、ノアがとうとう家を建てたのか」


 ヒートさんは感慨深く頷いた。


「なんだか、弟子が家を建てたーみたいな感覚になったな」

「まぁ、弟子みたいなものだったからね」

「まぁな。良くやったじゃないか!」


 頭をグリグリと撫でられて、髪の毛がぐちゃぐちゃになった。でも、褒められて嬉しい。


「親父に報告していくか? 親父なら、家屋の中で作業中だぞ」

「うん、ちょっと行ってくるね」

「おう」


 一旦ヒートさんと別れて、私は家屋の中に入っていった。すると、ダンさんがちょうど道具を持っているところに出くわす。


「ダンさん、おはよう!」

「おはよう。どうした、何か困ったことがあったのか?」

「ううん、違うの。とうとう家が出来たんだよ」

「ほう……かなり早く家が建ったんだな、驚いた」


 家が出来た報告をするとダンさんは驚いた顔をした。ダンさんでも驚くくらいに早く家が建てられたらしい、頑張ったかいがあったよ。


「魔法を使うと随分と早く終わるんだな」

「丸太から木材に変える時にそんなに時間が掛からないからね。魔法で一発だよ」

「ふっ、そうか。羨ましい限りだな。その魔法とやらがあれば、俺たちの作業も大分楽になるだろうよ」


 ダンさんたちは全て手作業で丸太から木材に加工している。木を切り出す作業が一番時間が掛かる工程で、魔法なら一瞬で終わるので時間が掛からない。


「魔動力とやらは役に立ったのか?」

「もちろん、重たいものを軽々と浮かせられるし、自分だって浮かせられるんだから。だから、高所の作業は難なくできたよ」

「そんな使い方があったとはな、恐れ入ったよ。そんな力があるなら、俺も欲しいな」


 建築で重要だった重たいものを自由に動かせられる魔法の魔動力。この魔法のお陰で、子供の自分でも建築ができたといっても過言じゃないだろう。この魔法のお陰でやれることが各段に増えた。


「そうだ、設計図を返しに来たんだった。ちょっと待ってて、今持ってくるから」


 はっ、と思い出すと一度家屋を出て荷車に近寄った。その中に入っていた設計図を持つと、もう一度家屋の中に戻る。


「はい、設計図を貸してくれてありがとう!」

「どういたしまして。役に立ったんなら良かった」

「これがなかったら家を建てられなかったよ。本当に助かったよ」


 笑顔で設計図を返すと、ダンさんはちょっと笑いながら受け取ってくれた。


「それでね、家具も自作したいんだけど、また設計図を借りれないかな?」

「家具も作るのか、凄いな。家具ならあそこの本棚にあるものだ、好きに持っていけ」

「ありがとう!」


 やった、家具の設計図も借りれるみたい。ダンさんにお礼をいうと、早速本棚に近づいて本を探す。まずはベッドの作り方が書いてある設計図はっと……あった、これだ。


 ふむふむ、何種類かのベッドの作り方が載っているみたい。この中から、好きな形を選んで作ってみよう。次はダイニングテーブルとイスの設計図は……これだね。うん、これも何種類かあるから後で選んで決めよう。


 後は棚とクローゼットは……あった、これだね。あと急ぎで欲しいものは……そうだ! 台所のカウンターが欲しいな。えーっと、カウンターはどれかな……これだね。うん、種類もいくつかあるから後で決めよう。


 まだ欲しい家具はあるけれど、急ぎで欲しいのはこれくらいかな。こんなに沢山の家具、作れるかな? ううん、私が作るんだ!


「ダンさん、これくらい借りたいんだけどいいかな?」

「どれ、貸してみろ」


 本棚から取った本をダンさんに見せると、ダンさんは一つずつ中身を確かめていく。


「確かにこの辺の家具はすぐに欲しくなるな。もし、良ければどれか作ってやろうか?」

「ううん、ダンさんたちは男爵様の依頼が忙しそうだからいいよ。私一人で作ってみる。何か困ったことがあったら相談に乗って欲しいけど、それでどうかな?」

「大丈夫だ、問題ない。無理はしないで、頼れる時は頼って欲しい」


 ダンさんの優しさに感謝の気持ちが溢れてきた。本当に木工所の人たちにはお世話になってばかりだ、嬉しさで気持ちが顔に出る。


「本当にありがとう」

「気にするな。こっちは恩を返しているだけだ」


 笑顔で感謝を伝えると、ダンさんはちょっと照れ臭そうにソッポを向いた。

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