58.ベッド
木工所を後にした私は荷車を引いて雑貨屋に向かった。雑貨屋の扉は開いていて、中へと入っていく。
「いらっしゃい」
すると、おばさんからすぐに声が掛かった。
「おはよう!」
「はい、おはよう。今日は何か物入りなのかい?」
「うん、ベッドをこれから作るんだけど、敷布団と掛け布団がないか聞きに来たの」
「あぁ、なるほどね。残念だけどここには置いてないんだよ。必要なら隣町から取り寄せになるね」
「そうなんだ、取り寄せかぁ」
うーん、どうしようかな。材料があれば自分で作ろかな、と思うんだけど材料はなさそうだし。
「もし、急いで必要なら作物所のコルクさんに話せばいいよ。あそこは野菜を売るために、頻繁に隣町まで行っているからね」
「そうか、それもそうだね。ちょっと、コルクさんにお願いしてくるよ。教えてくれてありがとう!」
「どういたしまして、いいベッドができるといいね」
いい情報が手に入った。私はおばさんに別れを告げて、外へと飛び出した。今度は荷車を引いて作物所へと向かっていく。そんなに時間もかからずに作物所へと辿り着いた。
「コルクさん、いるー?」
扉を開けて大声で呼ぶと、店の奥から物音が聞こえた。しばらく待ってみると、奥からコルクさんがやってくる。
「おう、ノアじゃないか。どうしたんだ、今日は納品の日じゃないよな?」
「コルクさんにお願いがあってきたの?」
「お願い? 珍しいな、なんだ?」
「ベッドを作ろうと思うんだけど、敷布団と掛け布団がないんだよね。コルクさんのところで隣町に行く用事があるって聞いたから、隣町で買ってきて欲しいんだけど、いいかな?」
「ベッドか、確かにこの村にはそれらはないな。よし、明日野菜を売りに行く時に隣町でそれらを買ってくるな」
「ありがとう!」
よし、これで敷布団と掛け布団をゲットできる。あと、何か必要なものがあるような……あっ!
「そうだ、枕もお願いできる?」
「枕もだな、分かった。三人分でいいんだよな?」
「そうそう、三人分で」
思い出してよかったー、枕がないとベッドの中で気持ちよく寝れないもんね。
「どれくらいの金額のものを買ってくる?」
「そうだなぁ……いいものが欲しいかな」
「分かった。お前らが無理なく買えそうなくらいのいいものを買ってくるな」
「うん!」
ちょっと贅沢しても大丈夫だよね。いい生活をするには、いい睡眠からってね。魔物討伐で二人も疲れているはずだし、ゆっくりと休んでもらいたい。
「そういえば、ベッドを作るってことになっているが、家のほうはどうなったんだ?」
「そうだ! とうとう家が完成したの!」
「おぉ、凄く早く出来たじゃないか!」
「うん、木工所の人たちも驚くくらいに早く出来たみたい」
「なるほどなぁ、魔法があるとそんなに早く建てられるのか」
家が建ったことを伝えると、コルクさんも驚いていた。魔法のお陰で早く家を建てられて本当に良かったよ。
「男爵様に俺から伝えてもいいか?」
「うん、大丈夫だよ」
「そうか、嬉しい報告が出来そうでなりよりだ」
「じゃあ、私は行くね。布団、よろしくお願いします」
「おう、任せておけ!」
そっか、男爵様に伝えないといけないんだね。コルクさんに後のことは頼んで、私は家へと戻っていった。
◇
戻ってきた私はベッドの設計図を見る。どのベッドがいいかな……えーっと、これなんてどうかな。設計図を一通り見て、作るベッドを決めた。
次に材料の切り出しだ。丸太を適当な長さに切ってから、丸太に定規とペンを使って線と番号を書いていく。全ての丸太に線を書き終えると、今度は風魔法を使って丸太を切り出す。
全ての木材を切り出したら、今度は木材と木材をくっつけるための溝掘りをする。家の建築資材を作る時に何度も行った作業だからか、スイスイと手が進む。やり辛いといえば、掘る溝が小さくなったことくらいだ。
集中して作業をすれば、思ったよりも早く溝を掘り終えることができた。後は組み立ての釘の固定なんだけど、その前に夕食の準備をする。パンを捏ねて発酵させ、肉を下ごしらえをして野菜を切る。
パンが発酵している間に、ベッドの部品を家の中に持っていき組み立てを開始する。設計図を見ながら木材の溝と溝とを合わせて、まずはベッドの枠組みが完成した。
そのベッドの枠組みのくっつけた溝の部分に固定をするために釘を押し込む。ここで一旦作業は止めて、外の台所へと行く。発酵が終わったパンを小分けにして丸めると、二次発酵をさせる。
パンの二次発酵中、作業に戻ってきた。枠組みが終わった後は横になる部分を作る。板をベッドの枠に合わせて、その上から釘を押し込んでいく。その作業を繰り返していくと、ベッドが完成した。
この家で初めての家具ができた。完成したベッドを触ると実感が沸いてくる。まだ一つ目の家具だけど、これからもっと増やしていくんだ。そして、この家を住みやすい場所に変える。
「まだ一つ目だけど、これからもっと家具を作って充実させるぞ」
充足感に満ちた後はやる気を漲らせた。
◇
それから数日間で残りのベッド、棚、クローゼット、ハンガー、ダイニングテーブル、イス、キッチンカウンターを作った。何もなかった部屋に一つずつ家具が増えていく光景はとてもいいものだ。
そして、今一番楽しみにしている布団がついに来た。
「ノア、注文していた布団と枕が届いたぞ」
「本当!?」
「外にある馬車の中にある。ちょっと来い」
コルクさんが店の外に出ると、私もその後をついていく。店の周りをぐるっと回り込み、店の後ろに行くと数台の馬車が止まっていた。
「この馬車の中にある」
その馬車の二台を覗き込むと、白くて大きな物体が入っていた。
「これが、布団? 触ってもいい?」
「あぁ、もちろんだ」
馬車の外から布団を触ってみると、とてもフカフカしていた。触っているだけで気持ちよくなってしまう。
「金額はこれくらいした。後日、持ってきてくれ」
請求金額が書かれた紙を見せられて確認した。うっ、結構高い。でも、これだけフカフカなら仕方がないよね。これは仕方のない出費だ、快く払おう。
「じゃあ、この布団は持っていってもいい?」
「あぁ、もちろんだ。今日持っていてくれると助かる」
「なら、持っていくね」
魔動力を発動させて布団と枕を浮かせると、荷車がある場所に移動した。荷車の中に布団と枕を入れると準備完了。三人分だから量が凄いことになっている。
「魔動力っていうのは興味深い魔法だな。使えたら荷を積む時や荷下ろしの時に便利だよなぁ」
「突然覚えた魔法だから、どう教えていいか分からないんだ。どうやったら、この魔法を習得できるんだろうね」
「もし、その方法とやらが分かったらぜひ教えて欲しい。一番で習得してみせる」
この魔法がみんなで使えればいいのにね、私も一応賢者の卵なんだから魔法の研究とかしたほうがいいのかな? でも、知識もないのにできるか不安だ。
それはともかくとして、今は布団のことだ。これで今日からベッドで寝れるってことだよね。ベッドで寝れるなんて本当に楽しみだ。召使いの時はベッドでは寝れなかったから、実家の時以来だなぁ。
「じゃあ、コルクさんありがとう。お金はこの次持ってくるよ」
「おう、頼んだぞ」
荷車を魔動力で動かして、私は家へと帰っていく。家に帰って、布団をベッドの上に敷こう!
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