52.家を作ろう!(1)
夕暮れに染まった村の道を走っていく。早く二人に伝えたい、その気持ちで宿屋へと向かっていた。宿屋が見えると、そこには二人が並んで待っていてくれている。
「クレハ! イリス! お疲れ様!」
「ノア!」
「ノアもお疲れ様です。どうしたんですか、そんなに急いで」
「とうとう技術習得が終わったんだよ。明日から家造りをしてもいいって!」
「本当か!? やったな、ノア!」
「そうだったんですね、おめでとうございます!」
二人に家造りのことを伝えると自分のことのように喜んでくれた。三人で抱き合ってジャンプして喜びを分かち合う。
「早速明日から家造りを始めるのか?」
「明日は下調べから始めようかなって思っているの。とりあえず、家の設計図を見せてもらって自分一人でも作れそうな家を見つけることからかな」
「無理して大きな家を作らなくてもいいですからね。ノアが作れそうな大きさの家でいいですからね」
「うん、無理はしないつもり。三人が寝泊りできる場所、食事をする場所を確保できる感じにしようかなって思ってる」
三人で話しながら宿屋の中に入り、食堂に入っていった。席に着くと、ミレお姉さんが水を持ってやってくる。
「いらっしゃい。今、作っているから待っててね」
「ありがとう。ねぇ、聞いてミレお姉さん。私、とうとう技術習得が終わって家を造れるようになったんだよ」
「そうなの、おめでとう! 意外と早かったわね」
「そりゃあ、頑張ったからね」
技術習得が早く終わるように頑張ったからね。
「そっかー、ノアちゃんがとうとう家造りをねぇ。もし、一人で家を作れるとなったら男爵様が目を付けるんじゃないかしら」
「どうして?」
「この村には圧倒的に家が足りないもの。移住者を呼ぶためにはまず家をどうにかしないといけないからね。家を作ってくれーって言われるかもしれないわよ」
「んー、確かにそんな展開になりそうな予感がする」
でもあの男爵様のためなら一肌脱いでもいいかな。まぁ、他にやることがないっていうのが前提条件だけどね。ミレお姉さんはそれをいうと調理場の方に行き、料理を持って戻ってきた。
「はい、今日の食事よ」
「ありがとう」
「今日も美味しそうだぞ」
「お腹が空きましたー」
ミレお姉さんが食事をテーブルに置くと、私たちの食事が始まった。今日も良く働いたからお腹が減ったね、味わって食べよう。
◇
翌日、小麦の収穫を終えて作物所にやってきた。いつも通りに小麦の納品をした後、雑談の時間になる。
「私、とうとう技術習得が終わって家造りが始まるの」
「おお、とうとう始まるのか」
「そこでね、今の状態を続けても大丈夫かな。一日作って一日休む、ていう仕事を続けてもいい?」
「あぁ、家造りに時間を取りたいということだな。野菜は充実しているし、小麦もなんとかなりそうだ。この状態を続けても大丈夫だぞ」
「やった、じゃあこのまま一日おきの納品を続けていくね」
コルクさんからの了解を得られた、これで心置きなく家造りができそうだよ。あとはどんな家にするかを決めないとね。
雑談をし終えた私は荷車を魔動力で動かしながら木工所へと行った。
「こんにちは、ヒートさん」
「おう、良く来たな。親父なら家屋の中で待っているぞ」
「ありがとう!」
木工所へ着くとヒートさんが作業中だった。ダンさんがいる場所を聞くと、荷車を置いて家屋の中に入っていく。家屋の中も作業場みたいになっていて、そこではダンさんが木材に溝を掘っているところだった。
「ダンさん、こんにちは」
「ノアか、良く来たな。今日はどんな家にするか決めるんだったな。あそこの本棚に家の設計図が入っている、好きなものを選ぶといい」
「ありがとう。見させてもらうね」
ダンさんの許しを貰い、私は本棚に近づいた。とても分厚い背表紙のない括っただけの本が幾つもならんでいる。その中から一つを選ぶと表紙を捲って中の絵を見る。すると、一番前のページに家の形が乗っていた。
この本に書かれてある家はL字型だ。もっとシンプルな形がいい、その本を戻してシンプルな形の家の設計図を探していく。幾つかの本を捲って探していくと、お目当ての本を見つけた。
一般的な四角い感じの家だ、こういう家でいいんだよ。今はとにかくみんなで寝て、食事を取れる場所が必要だから、余計なものは必要ない。これだったら三人で住めそうだし、無理なく造れそうだ。
今度はその本の中身を確認していく。家の中の絵には暖炉があり、かまどもある。これらは地魔法で作るとして、あとは窓か。確か材料は木工所にあるから、必要な分は買わないといけない。
あ、それに釘や他の器具も買っておかないとね。結構な出費になっちゃうけど、普通に家を造ってもらうよりは遥かに安いからこれくらいは仕方がないだろう。
よし、これに決めよう。
「ダンさん、この家を造りたいんだけど」
「どれどれ、見せてみろ」
ダンさんに家の設計図を見せると、中身をペラペラと捲って確認していく。
「ふむ、造りは大きいが単純な構造になっている家だな。これだったら、ノアでも造れるだろう」
「じゃあ、これにするね」
「あぁ、分かった。これから必要なものを用意する、荷車は持ってきたか?」
「うん、持ってきたよ」
「なら、その荷車の中に必要なものを入れるな」
そういったダンさんは設計図を持って家屋を出ていった。その後ろをついていくと、家屋の近くにあった倉庫に入っていく。倉庫の中には何段かの棚が出来ており、沢山の木箱が置いてあった。
「ここには道具、釘、器具などが保管されている。今から必要な道具を見繕うから、運ぶのを手伝ってくれ」
「分かった」
ダンさんが木箱を手に持って、早速必要な道具を見繕い始めた。木箱の中に必要な道具を入れて、中身が一杯になると私に渡してくる。私はそれを持って、外に出ると荷車の中に置いていく。
その繰り返しを続けていくと、荷車の中はいくつかの木箱が置かれた。
「こんなもんだろう。もし、途中で足りなくなった物が出てきたら遠慮なくここにくるといい」
「分かった、ありがとう」
「なら清算をするか。お金は持ってきたか?」
「全財産、持ってきたよ」
「そんなに持ってきたのか。まぁ、そこまではしないと思うがな」
ダンさんが持ってきた物の値段を計算して、請求額を提示してきた。その金額に合う料金を支払うと清算は終了した。
「思ったより、高くなかった」
「ふっ、ノアは金持ちなんだな。農業で結構稼いでいるんじゃないか?」
「農業もそうだけど、親友の二人の魔物討伐の報酬もあるからね」
「三人がそれぞれ稼いでいるということか、なら金に困ることはないな」
「最初は困った時期もあったけど、働く場所があるからなんとかなっていたよ」
今はお金に困らなくなったけど、最初の頃は困っていたな。あれから大分経って、状況も改善したから良かったな。なんとか生活できるのも三人で協力し合えているからだ。
「何か困ったことがあったら、木工所に来い。出来るだけ力になろう」
「ありがとう、ダンさん。その時は頼らせてもらうね」
「立派な家を建てるんだぞ」
「うん、ありがとう! ヒートさんもまたねー!」
「じゃあな、ノア!」
私は荷車を魔動力で動かして木工所を後にした。さぁ、家造りが始まるぞ!
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