51.技術の習得(2)

「今日はありがとうございました!」

「おう、次は明後日だな。待っているからよ」

「うん!」


 夕方になり、私は木工所を後にした。今日木工所で学ぶ予定はなかったけど、折角の機会だったから学ばせてもらった。作物所に荷車を取りにいかないといけないし、夕食は作れなかったから宿屋で食べないといけないな。


 とりあえず、冒険者ギルドによって二人に会わなくちゃ。駆け足で冒険者ギルドに向かっていき、到着した。すると、丁度冒険者ギルドから出てくる二人に出会う。


「二人とも、お疲れー!」

「あれ、ノアじゃないか」

「珍しいですね、どうしてこんなところに?」

「今日、急遽木工所で技術を学べることになったんだ。だから、今まで学んでたの。だから、今日は夕食作れなかったんだ、ごめんね」


 手を合わせて謝ると、二人は笑って答えてくれる。


「なんだ、そんなことか。ウチは全然構わないぞ」

「そしたら今日は宿屋で食べていきましょうか」

「そのつもり。宿屋に行こうか」


 三人で並んで宿屋へと向かっていく。暑さの和らいだ夕方は歩きやすく、口も軽快になる。


「今日はどんなことをしたんですか?」

「今日はね、木の切り方について教わったよ。木目によって切り方が全然違ったりして、学びがいがあったなー」

「木を切るのに木目も見るのか? なんだか難しそうな話だぞ」

「適当に木を切るだけじゃダメらしいみたい。そんなこと知らなかったからさ、目からウロコだったよ」


 今日学んだことを楽し気に話すと、二人は興味深そうに聞いてくれた。今日あったことを話しながら進んでいくと、宿屋に到着する。宿屋の中に入り食堂に行くと、丁度ミリお姉さんがホールに出ていた。


「あら、珍しいお客さんね。今日はどうしたの?」

「今日は私に用事があったから夕食が作れなかったんだ」

「ノアちゃんの用事? また何か始めたんじゃないでしょうね」

「ふふっ、当たり」

「ふーん、なら後で話を聞かせて。とりあえず、料理を運ぶから席について待っててね」


 そう言ってミレお姉さんは調理場のほうへ歩いていった。私たちは言われた通りに席に座って待つ。しばらくすると、ミレお姉さんが料理を運んでくれた。今日はソースのかかった肉のソテーと焼き野菜、パン、水だ。


「それで、今度は何を始めたの?」

「新しい魔法を覚えたから、その魔法を使って家を建てようと思ったんだ」

「新しい魔法に家? 新しい魔法は歓迎するけど、家を建てるってどういうこと? 家を建てることが出来る魔法だったの?」

「ううん、見てて」


 私はコップに魔動力を発動させると、コップは宙に浮いた。


「まぁ、これが新しい魔法?」

「そう魔動力って言って、物を動かす魔法みたい」

「へー、便利な魔法ね。でも、これで家を建てるだなんて突拍子もないことを考えるのね。この魔法を使って家を建てるなんて想像がつかないわ」

「実はウチも上手く想像ができないんだぞ。どんな風に建てるんだ?」

「あれですよ、木材を宙に浮かせて組み立てていくんですよね?」

「そうそう、そういう感じかな。この魔法だったら重たいものを自由に動かせられるからね」


 家の組み立てを魔動力を使って行えば、一人でも作業ができるはずだ。あとは細かい作業、木材の加工を頑張るだけだ。木工所でしっかりと学んで、失敗がないようにしないと。なんてったって、三人で住む家なんだから。


「大変な作業だとは思うけど、頑張ってね」

「うん、三人で住む家だから頑張るよ!」


 ◇


 それから私は一日おきに木工所に通い始めた。まずは丸太から木材を切り出す作業だ、この作業は比較的簡単に進められた。一通りの形を一人で切り出すことが出来ると、次の作業に移った。


「よし、次は重要な作業だ。家を建てるには木材と木材を繋ぎ合わさなきゃいけない。そのために繋ぎの部分を削ったり掘ったりして形を整える作業になる」

「この作業が建築の肝になりそうだよね。しっかりと形を整えないと、繋ぎの部分がはまらないんでしょ」

「そういうことだ、ここでも一通りの形を切り出してもらうぞ。まずは道具の使い方からなんだが」

「それなら大丈夫、魔法を使うから」

「魔法? そんなことができるのか?」

「うん、見てて」


 私は廃材を手にすると、台に置く。そして右手の人差指に意識を集中して、水魔法を発動させる。指先から水が出すと、それを勢いよく回転させた。その回転させた水を廃材に近づかせると、廃材は簡単に掘られていく。


「こんな風に水魔法の力で木を削っていくんだ」

「魔法っていうのはそういうこともできるのか、これは凄い。あっという間に掘っていくんだな」


 ヒートさんが感心したように私の手元を見つめる。私はそのまま廃材に四角い穴を掘っていき、その穴をヒートさんに見てもらった。


「こんな穴が掘れるよ。どう? この魔法は使えるかな?」

「ちょっと待ってろ、定規を使って確認するから」


 するとヒートさんは定規を持ってきて、穴に入れて角度を測る。


「すこし歪みがあるが、これは練習していけばなくなるだろうな。うん、歪みはあるが真っすぐだし、奥の角もまだまだだが直角になっている。これは道具の代わりに使えそうだぞ」

「本当? 良かったー」

「だが、水というのが難点だな。こうして木材が濡れてしまうのがダメだ」

「それだったら大丈夫。見てて、今から乾燥魔法を使うから」


 ヒートさんの目の前で乾燥魔法を使うと、木材は水に濡れたことがないようにカラカラになった。


「こんなに便利な魔法があったなんてなぁ」

「ちなみに木材本体の乾燥にも使えるよ。よく切りたての木材を乾燥させて薪に使っているからね」

「そんなことまでしているのか。うーん、一家に一人はノアが欲しくなるな」


 褒められて嬉しいけれど、私は一人しかいないから無理だね。


「よし、ノアは魔法を使って溝を掘ってくれ。もっと練習すれば上手く溝を掘れるだろうし、複雑な溝も掘れるようになるだろう」

「家を建てるために頑張るから、厳しく教えてね。私、頑張るから!」

「なんだか、弟子ができたみたいだよ。しっかりと厳しく教えるからついて来いよ!」


 こうして私は魔法を使って溝を掘ることが決定する。ヒートさんの指導の下で技術習得の日々が始まった。


 ◇


 技術習得の日々は集中力との戦いになった。とにかく正確な溝を掘るために集中力が必要だ。とにかく真っすぐに掘ることに神経を使う。真っすぐに掘った後に直角に掘るのも難しかった。


 その辺りは道具を使って掘ったほうが簡単だと思ったけれど、私には魔法しかない。道具を使って溝を掘ろうとすると力が足りないし、掘れないと思う。だから、魔法で極めるしかない。


 魔法の威力を調節してみたり、出す水の量を変えたり、速度を変えたり色んな試行錯誤を行った。そのお陰でだんだんと掘る作業が楽になっていったように思う。


 作業中、時々ダンさんが現れて私の掘った溝を確認してくれた。始めはダメ出しばかりだったけれど、回数をこなすうちにそれもだんだんと減っていく。


 ヒートさんとダンさんが丁寧にやり方を教えてくれるお陰で、私の技術は飛躍的に上達した。私が使っている魔法のことを考えて、掘り方を一緒に考えてくれたりもしてとても助かった。


 そして、全ての形の溝を掘り終える頃、最後の溝をダンさんに見てもらった。かなり複雑な溝を掘ったんだけど、自信作だ。


「ダンさん、どう?」

「……うむ、これだったら大丈夫だ。合格じゃ」

「それじゃあ、家を建てても大丈夫?」

「不安なところもあるが、やりたいなら好きになるといいだろう」

「やったぁ! ありがとう、ダンさん、ヒートさん!」

「良かったな、ノア!」


 やったぁ、ダンさんから合格が貰えたよ! これで晴れて家造りが始められる!


 こうして、私の技術習得が完了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る