50.技術の習得(1)
夕方になり、二人が魔物討伐から帰ってきた。まずはいつも通り氷水を差し出し、洗浄魔法をかけてから席に座らせた。食事が終わった頃を見計らって、今日あったことを話す。
「今日ね木工所っていう家を建てるお店に行ってきたの」
「もう行ってきたんですか? 行動が早いですね」
「それでね、そこの人に家を建てるための木材の加工技術を教えてもらえることになったんだ」
「木材の加工技術? なんだか難しいことを始めるみたいだな」
「難しいとは思うけれど、家を建てるためだもん。私、頑張るよ!」
三人で住む家を建てるんだ、私はその使命に燃えていた。
「ノアが家をか~、建ったら凄いことだよな」
「農業の傍ら家を建てる人ですか。ふふっ、そしたらノアはどんな職業になるんでしょうね」
「農業者兼大工かな? 凄い名前だよね」
「もし、家を建てられたら、そっちの方でも頼られたりするかもしれませんね」
「それはありえそうだぞ! もう、ノアの職業は何でも屋っていうことにすればいいと思うぞ」
何でも屋か、それもありだね。自由な今だからこそ、自分のやりたいことをやれる、人生が楽しくて仕方がない。やれることはどんどんやって、やれないことは学んでからやって、どんどん出来る幅が広がっていくね。
「まずは技術習得頑張ってくるよ。しっかりと習得しないと、立派な家が建たないからね」
「嵐に強い家を建ててくださいね」
「ウチは住めればなんでもいいんだぞ、頑張ってなノア」
「うん、任せておいて!」
◇
翌日、いつものように小麦の収穫を終えて納品しに作物所までやってきた。売り上げの一割を農家の人に渡した後、コルクさんと農家の人たちにお話をする。
「実はお願いがあるんです」
「なんだ?」
「これから自分の家を建てようと考えているところです。昨日木工所に行ったら、必要な技術を教えて貰えるようになりました」
「ノアちゃんが家を建てる? 凄いことを考えるね」
「技術習得のために少しの間、農業を止めてもいいですか?」
農作物を収穫した後の時間はそれほど多くはない。その時間を使って技術習得をすれば時間がかかってしまう。そこで、丸一日を技術習得に使って技術習得ができれば早めに家が建てられるはずだ。
「なるほど、しばらく農作業を休みたいということだな。小麦の在庫は十分でないけれど、あるにはある。野菜も他の農家から入ってくるものもある」
「それじゃあ!」
「一日おきに休みを取る、ということを条件にできるんだったら、一日農作業をしなくても大丈夫だ」
「それでいいよ!」
「じゃあ、決まりだ。明日は休み、明後日は農作業だ」
「分かった!」
よし、これで一日を使って技術を学べるぞ。
「そういうことなら、他の農家の人にも伝えておくな」
「はい、よろしくお願いします」
「立派な家が出来るといいね」
「頑張るんだぞ」
農家の人たちも私が家を建てることを周知してくれるみたい。急に明日のお仕事が無くなっちゃったから、どうやって伝えようか悩んでいたけれど解決した。みんなの力を借りて、知らせてもらおう。
みんなの確認が取れると、農家の人たちは帰っていった。私はこのことを伝えに木工所まで走っていく。木工所に着くと外でヒートさんが木材の加工作業をしていた。
「ヒートさん、こんにちは!」
「あぁ、ノアか。良く来たな、親父に用があるのか?」
「うん、予定が決まったから伝えたくて来たの」
「分かった。ちょっと待ってろ」
ヒートさんが作業の手を止めてダンさんを呼びに行ってくれた。しばらく待っていると、ヒートさんがダンさんを連れてやってくる。
「やあ、ノア」
「ダンさん、こんにちは」
「予定が決まったらしいな。話を聞かせてくれるか?」
私はダンさんとヒートさんに仕事を一日ずつ休むことを伝え、その休んだ日にここにこれることを伝えた。
「うむ、それでいいだろう。では、明日からここに来るということだな」
「うん、よろしくお願いします!」
「分かった。明日から加工技術について教えよう」
やった、これで明日からここで加工技術のことを教えてもらえるようになった。
「良かったら、少しだけ作業を見てもいい?」
「ヒート、見せてやれ」
「分かったよ。ついでに何か協力してもらおうかな」
「もちろんだよ、任せて!」
話が終わると、ダンさんは家屋に戻っていった。その場に残されたヒートさんと私は早速作業に入る。
「じゃあ、まず丸太を加工してもらおうかな。あっちにある作業台に丸太を乗せて、角材を作っていく作業だ」
あっちの台の傍まで行くと、指示が飛んでくる。
「まず、ここにあそこにある丸太を置いてくれ」
「うん」
丸太が沢山積まれている場所を指さされた。魔力を高めて魔動力を発動させると、一番上にあった丸太を浮かせて目の前の台に乗せる。
「相変わらず羨ましい魔法だな。今、線を書くからちょっと待ってろ」
ヒートさんは定規とペンを持ち、丸太の表面に線を書いていく。今回の線は薄い板を作るみたいだ。
「よし、まずはこの線に沿って切ってくれ。幅が短いところがあるから、注意して切ろよ」
「分かった、やってみる」
「じゃあ、俺は向こうで作業しているから終わったら教えてくれ」
そう言ってヒートさんは台を離れていった。残された私は丸太と向かい合う。まずは丸太を木材にする技術から習得だ。基本中の基本だと思うから、しっかりと仕事をやりとげなきゃね。
まずは線を確認、全部で六枚の薄い板ができるようになっている。ここで気を付けなければいけないのは、線をはみ出さないことだ。真っすぐでいて、水平に魔法を放たなければいけない。
線に沿って重ねた二本の指を置く、縦に真っすぐ切るイメージでやる。深呼吸をして心を落ち着かせると、魔力を高めた。意識を集中させて風魔法を唱える。
「風魔法!」
二本の指を縦に切ると、風が通り抜けて丸太を切っていった。切られた丸太の外側が音を立てて地面に落ちる。切り口を確認しよう。表面はつるつるしていて良い感じだ、切り口も真っすぐなように思う。うん、このやり方で切っていこう。
残りの三面をさっきの要領で切り落とすと、角材に変わった。あとはこの角材を薄い板に加工するだけだ。意識を集中させて、線からはみ出さないように風魔法を発動させる。
まず一枚。続いて二枚。三枚。四枚。五枚。六枚。全部の板を切り終えた。切り終えた板を宙に浮かせて確認してみる。真っすぐに切れているかどうか、歪みがないかどうか。今のところなんでもなさそうだ。
ヒートさんに見てもらおう。
「ヒートさん、板に加工が終わったよ」
「えぇ、もうか? ちょっと確認させてくれ」
ヒートさんと今まで作業していた台にいくと、確認を始める。
「表面は……いいな。角は……よし、直角だ。歪みは……ないな。ノア、完璧じゃないか」
「本当!? 良かったー」
「うん、文句がない。この分ならこの加工は問題なく行えるな」
「やったー」
「でも、一通りの形を練習したほうがいいだろう。とにかく、色んな形に一度は挑戦してみるべきだ。次は違う形にするぞ。この板はあそこにおいて、新しく丸太を置いてくれ」
「分かった」
できたての板を指定の場所に置くと、新しい丸太を持ってきた。ヒートさんはすぐに丸太の表面に定規とペンを使って線を書き始めた。
「次は大きさがバラバラの角材を切ってもらう。ちょっと難しいから慎重に作業をしてくれ」
「うん、分かった」
「もし、困ったことがあったら遠慮なく声をかけてくれ」
そういったヒートさんは自分の作業場へと戻っていた。私は改めて丸太に書かれた線と向き合う。本当に大きさがバラバラな角材の線が書かれていた、これは難しそうだ。
でも、こんなことでへこたれてなんかいられない。色んな技術を学んで、立派な家を建てるんだ!
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