49.木工所

 次の日、私は早速行動を開始した。小麦の納品を終えた私はコルクさんに質問をする。


「家を建てる店? それなら、村の端に木工所がある。そこで家を建ててたり、家具を作ったりしている」


 なるほど、木工所っていうんだね。まずはそこに行って、建築のことを相談してみよう。コルクさんのところに荷車を置いて、私は木工所を目指して歩いていった。


 歩いてしばらくすると、村の端までやってきた。そこには大きな建物があり、大量の木材が積み重なっている。大人の男の人が外で丸太の加工をしているところだ。


 よし、勇気を出して声をかけるぞ。深呼吸をして作業場に入っていった。


「すいません」

「ん? 子供がこんなところに何の用だ」

「ここは家を建てたり、家具を作ったりしているところですか?」

「あぁ、そうだが。何かの依頼か?」


 木材を加工していた男性に声をかけると、返事をしてくれた。見た目は怖そうだけど、話を聞いてくれるみたいで良かった。


「自分で家を建てたいので、家の設計図みたいなものがあったら貸してくれるか売ってくれないでしょうか?」

「な、なんだって? 自分で家を建てたいだって?」


 その男性は信じられないものを聞いたような顔をした。やっぱり、そういう反応をするよね。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。


「私が家を建てるつもりです」

「お前が家を? バカいってんじゃねぇよ。そんな小さな体で何が出来るっていうんだ。無理だから諦めな」

「私には魔法の力があります。見ててください」


 男性が今まで加工していた木材に魔動力を使う。すると、大人一人では持ち運べない木材が宙に浮いた。


「なんだ、これは!? どうなっているんだ!?」

「これが私の力です。この力を使って、家を建てたいと思います」

「この力があれば建築はぐっと楽になる。だが、これだけじゃ建築はできない。木材も加工しなくちゃいけないし、その手段がなければダメだ」

「木材の加工なら魔法でできます」


 男性は魔動力を見て驚いて態度を少し変えた。私の話を聞いた男性は考え事をして、何かを思いついたような顔をする。


「本当に魔法でできるんだったら、あそこにある丸太を角材にできるのか?」

「できます」

「じゃあ、さっきの魔法でここの台の上に丸太を置いてくれ」


 まず、台の上にあった加工中の木材を魔動力で地面に置く。それから離れた位置にあった丸太を魔動力で浮かせて移動させ、台の上に置いた。


「ちょっと待ってろ。今切るところに線を入れる」


 男性は丸太の切った表面に定規で線を書き始めた。書き終えるとそこにはいくつかの線が書かれているのが見える。


「この丸太では四つの角材が取れる。魔法とやらがなんでもできるんなら、これくらいの作業は出来ないとダメだぜ」

「やってみます」


 丸太の前に立ち、意識を集中させる。真っすぐな線に沿って風魔法を通す。そうすれば、難なく切れるはずだ。風魔法も強くなったし、こんなに大きな丸太も切れてくれるだろう。


 手を構えて、照準を合わせ、魔力を高めて風魔法を発動させる。


「風魔法!」


 シュバッと線に沿って風が通り抜けた。すると切れた部分がずれて、地面に落ちる。


「そんなまさか、こんな一瞬で木材が切れるなんて」


 その光景に男性は驚いていた。そうだよね、これだけの部分を人力で切るのは時間がかかることだ。やっぱり、魔法は凄い!


 魔動力で丸太を動かすと、また風魔法で丸太を立てに切る。残りの二面もスッパリと切ると、丸太が四角い角材になった。あとはこれを四分割するだけだ。


 意識を集中させ線に沿ってずれないように風魔法を放つ! 線に沿って角材は切られた、今度は切った角材の線に沿って風魔法を放つ。スッパリと切られて、物の数分で四つの角材が出来上がった。


「出来ました」

「お、驚いたな……本当にできたのか。しかも、こんなに早く……信じられない。ちょっと角材を確認するぞ」


 男性は信じられないものを見た顔をして、切られた角材を触っていく。


「表面は信じられないくらいにつるつるだ。俺たちでも出来ない芸当をやってのけるとは……恐れ入った」

「どうですか? 重たいものを自由に動かせますし、こうやって魔法で加工もできます。私でも家を建てられると思うんです、だから設計図をください」

「ここまでできたのは凄いと思う。だけど、これだけじゃなー」

「他にも何か必要な技術があれば、できるところを見せます。だからお願いします!」

「うーん」


 男性は腕組をして俯いて考える。どうか、お願いします! 心の中で願っていると、その男性が顔を上げて違う方を見た。


「俺じゃ判断がつかない。今、親父に聞いてきてやる。ちょっと待ってろ」


 男性はその場を離れて、家屋に入っていった。しばらく待っていると、男性が一人のおじさんを連れて戻ってくる。いかつい顔のおじさんで男性よりも怖い顔をしている。


「親父、この子が家を自分で建てたいってさ」

「ふむ、お前がな……」

「丸太を宙に浮かせたり、自由に動かすことができるんだ。それに見てくれよ、丸太を一瞬にして角材に変えたんだ」

「ほう……表面も角度もいいな」


 やってきた親父さんは角材を見て、ちょっと嬉しそうな顔をした。合格だったんだろうか? いかつい顔をしているから表情からあんまり感情が読み取れない。


 緊張しながら待っていると、親父さんと視線があった。


「今のままでは無理だ」

「えっ、どうしてですか?」

「木材に溝を作る技術もいるだろう」

「だったら、出来るかどうか見てください」

「そう簡単に出来る訳がないだろう」


 ダメだ、話を聞く気がないみたい。どうしたら、頷いてくれるんだろう? 考えるがいい案は思いつかない。


「だから、やり方を教えてやる」

「えっ?」

「ここに来たら、必要な技術を教えてやる」

「そ、それは……本当に?」

「あぁ、男に二言はねぇ」


 必要な技術を教えてくれるって、これって夢じゃないよね?


「その技術を習得したら、私でも家が建てられますか?」

「本人次第だ」

「だったら、頑張ります。なので、私に技術を教えてください」

「家を建てられるかはお前の頑張りにかかっている」


 私の頑張りで家が建てられるかかかっているか、ならここは頑張るしかないよね。ここで頑張って技術を教えてもらって、私たちの家を建てるんだ!


「親父がすんなりいうことを聞くとは思わなかった」

「何、簡単な話だ。この村で家を欲しがる奴はあいつらしかいないと思っただけ」

「あいつら?」

「この村に突然やってきた三人娘。その内の一人がお前なんだろう?」


 私たちのことは村人に広く知れ渡っているみたいだ。村の端にある木工所の人にも私たちのことを知っていたんだね。


「この村の食糧難を解決しただろ、それについて俺は感謝をしているんだ。食事がねぇとろくに働けなかったからな、まともな食事がとれてしっかりと働ける今の状況がどれだけ良いことか思い知らされたよ」

「親父……」

「しかも、食糧を作るだけで村の税収も上がった。男爵様はその税収で何を願ったと思う? 移住民を呼び寄せるために、家の建築を頼んだんだよ。食糧難の危機を救っただけでなく、資金不足で止まっていた家づくりが再開されたんだ」


 私たちが食糧を作ることで、そんなことになっていたなんて思いもしなかった。私たちがこの村に来たことで、村にとって良いことが増えたのなら嬉しい。


「今の俺たちが心置きなく作業できるのは、こいつらのお陰だ。だから、その恩は返さなきゃならねぇ。お前の名は?」

「ノアと言います」

「俺の名はダン、息子の名はヒートだ。これからよろしくな」

「はい、よろしくお願いします!」


 差し出された手を握りしめる。私は家づくりに向けて大きな一歩を踏み出した。

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