48.そうだ、家を作ろう!

 魔動力を使い、木を抜く。抜いた木を横にして置くと、今度は余分なところを切っていく。まずは木の根を風魔法で切断する。レベルが上がった風魔法は強くて、簡単に切断することができた。


 次に木についた葉を細い枝ごと切り落とす。これが結構な作業量になって時間がかかってしまう。細い枝は数えきれないほどあるから、集中して終わらせておく。


 細い枝を切り終えて、切り落としたものを魔動力で一か所に集めておく。こういう時、手作業で行わなくてもいいから、あっという間に一か所に集めることができた。魔動力って凄い。


 後は木に残った太い枝を切り落とす、これは薪にするつもりだ。最後に木のてっぺんを切り落とせば、立派な丸太の完成だ。これを加工すれば木材になる、何かを作る時に役立ちそうだ。


 あー、木の根はどうしようかな。乾燥させれば薪に使えるかもしれないけれど、根がうねってて使い辛いんだよね。仕方がない、木の根は葉っぱと一緒に燃やしてしまおう。


 丸太、薪、ゴミに分けることができた。よし、この調子でどんどん木を抜いて、分別して丸太を作っていこう。あっ、そうだそろそろパンを作る時間だ。先にパンを捏ねてきて、発酵中にまた作業を続けよう。


 いけない、夢中でやる前に気づいて良かった。一旦作業場を離れて、パンを作ってこよう。


 ◇


 パンを作り終えて発酵中に木の作業。発酵が終わると、二回目の発酵後にまた木の作業をする。パンを焼いている時はスープを作った。そうしていると、あっという間に夕方になり二人が帰ってくる時間になった。


 今日の成果は丸太が三本、乾燥魔法をかけた薪が沢山出来上がった。魔動力を使っていても、木を抜いて使えるようにするまで時間がかかる。これを考えると、開拓って大変な仕事なんだなぁ。


 木のことを考えながら夕食の準備をしていると、二人が帰ってきた。二人は畑の傍にある丸太を見てちょっと驚いた顔をしている。


「ただいま。あれって木だよな」

「おかえり。うん、そうだよ」

「誰かが置いていった、ってことじゃないですよね?」

「あれは魔動力で木を抜いて、私があそこまで加工をしたんだよ。はい、氷水」

「ゴクッ、プハー! ……魔動力でそんなことができるのか、なんだか凄い力だな」

「木を抜ける力があるってことですよね。かなり重いものでも動かすことができるんですね」


 二人に魔動力の話をすると感心したように聞いてくれた。あの力が木を地面から抜けるほどの力があるなんて思いもしなかったらしい。私も実際にやるまでそう思わなかった。


「重たいものを簡単に運べそうですね。どれくらいの重さなら大丈夫なんでしょう」

「どれくらいかは分からないなー。今度木より重たいもので試してみようか」

「あの生えている木より重たいものってあるかー? 岩とか?」


 んー、確かに地面に生えた木を抜けるほどの力だ、それ以上重たいものはそう簡単にはない。今時点ではどれくらい重たいものが持てるのか分からないけれど、地面に生えた木までは楽々に持ち上げられるようだ。


「そういえば、荷車の車輪も自由に動かせたよ。荷車に乗りながら、車輪を動かしてここまで帰ってきちゃった」

「なんだそれ、楽しそうだな。引かなくても、押さなくても動く荷車を見てみたいんだぞ」

「そんなこともできるんですね。なんか楽しそうな魔法ですね」

「結構楽しかったよ。あ、洗浄魔法かけるね」


 二人に洗浄魔法をかけると、席につかせた。食事の入った皿をテーブルに出し、フォークを出し、パンを出した。


「「「いただきます」」」


 手を合わせて挨拶をすると、夕食を食べ始めた。


 ◇


 夕食を食べ終えて自由時間を満喫して、就寝時間になった。石の家に入り、枯草の上に寝転がる。


「魔動力を使って、他にも色々できると思うんだ。何か思いつくことない?」

「思いつくことですか……荷車を自由に動かすことが出来るなら、他にも動力に変われることがあるんじゃないんですかね」

「ウチはー……あんまり思いつかないぞ。重たいものを移動させるくらいしか考えつかないぞ」

「そっかー。何か良い使用方法ないかな」


 寝転がりながら三人でうーんと考える。


「何か身近に必要なものってありましたっけ」

「必要なものかー。うーん、肉、力」

「それはクレハにとって必要なものです。三人で必要なものですよ」

「三人で必要なものー? うー、難しいぞー」


 三人で必要なものか、何かあったかな。ボーッと石の天井を見上げる。必要なもの……ここに来て何も良くなっていないもの。食べ物は大丈夫だし、服だって必要なだけ作ってもらった。ということは、家?


 今は石の家でなんとかなっているけれど、これが冬になったらどうだろう。絶対に暮していけないと思うし、寒さで凍え死んでしまうかもしれない。だから、冬までに家をどうにかしないといけないんだ。


 ということは、三人で一番必要なのは家ということ。そうだ、魔動力は重たいものを浮かせられるし、自由自在に動かすことが出来る。私が魔動力を使って家を立てればいいんじゃないかな。


 木を木材にして、木材を魔法で加工して、加工した木材を組み上げていく。このやり方だったら、私にも家が作れるんじゃない!?


「二人とも、家だよ!」

「家?」

「家がどうしたんですか?」

「魔動力で出来ること、家を作ることだよ!」


 二人はキョトンとして話が伝わっていない風だった。


「重たいものを自由に動かしたり浮かせたりすることが出来るんなら、家を作ることだって出来るはずだよ。木を丸太にして、丸太を魔法で加工して、加工した木材を魔動力を使って組み上げていく。そしたら、ほら! 家が出来るよ!」

「おぉ、なんだか凄い話だな」

「そう簡単にいくでしょうか?」

「難しいかもしれないけれど、挑戦してみる価値はあると思う」


 家を作るのに足りないのは、家の設計図だ。こればっかりは私はプロじゃないので分からない。だから、設計図を借りれないか専門の所に行って聞いてこよう。


 設計図にきっと木の加工の仕方も書いている筈だし、組み上げ方も書いていると思う。その通りにやれば、素人の私でもできるんじゃないかな。不安なのは加工の技術は未熟だっていうこと、加工を慎重に正確に終わらす必要がある。


 こんな素人が家を建てるなんて無謀かもしれない。でも、家を建てないとこの先の生活は散々な目にあってしまう。家を建てるお金がない今、私ができる最大のことだ。


「私、頑張ってみる。しっかりとした家を建てて、みんなが暮す場所を作ってみせる」

「ノア……」

「固い決意なんですね。だったら、私からいうことは何もありません。でも、無理はしないでくださいね」

「うん、家が出来なさそうだったら、その時は諦める。だけど、少しでも可能性があるのならやってみたいの」

「ノアが大きなことに挑戦しようっていうのは分かるぞ。頑張れ、ノア!」

「ありがとう!」


 二人に宣言をすれば、決意が固まってくる。三人が暮せる家を建てる、大きな目標ができてやる気が満ちてきた。自分がどこまでできるか分からないけれど、全力で取り組みたい。


 三人が暮らす家のために。

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