47.新しい魔法の活用法

「みなさんどうぞ、氷水です」


 小麦の収穫が終わって、いつも通りに農家の人に氷水入りのコップを渡す。みんなそれを受け取り美味しそうに飲み干してくれた。


「ふー、最高の一杯だね」

「最近さらに暑くなってないか?」

「夏本番っていう感じだな」

「そっちの小麦の状態はどうだ?」

「順調に育ってきているよ。そっちはどうだ」


 仕事終わりに農家の人たちが雑談を始めた。農作物の状態の話とか、取り留めのない日常の話とか、そんなのばかりだ。田舎だから話に華やかさはないけれど、これはこれで楽しい。


 十分に体を休めると、ようやく小麦入りの袋を荷車に積んで作物所へと行く。


 作物所へ行くと、コルクさんが待っていた。


「よう、来たな。ノア、悪いんだがこのコップに氷水を入れてくれないか」


 どうやら暑さで参っているみたいだ、夏本番だからね誰だってそうだよね。なのでコップに氷と水を出してあげると、コルクさんは一気に飲み干した。


「はー、生き返る。ノアが来ないか、今か今かと待ってたんだ。一家に一人は欲しいくらいだ」

「残念、私は一人しかいないよ」

「はっはっはっ、そうだな。ノアが複数人に増える魔法とかあればいいんだけどな」


 あー、そういう魔法もありだね。そしたら色んな事ができて楽しくなりそうだ。


「さて、今日の小麦を測量するな」

「そう思って持ってきたよ」

「カウンターに置いておいたぜ」

「おう、すまねぇな」


 農家の人が運び入れた小麦をコルクさんが測る。全てを測り終えると、清算をしてお金を受け取った。


「今回もお疲れさん」

「そうだ、ノアちゃん。最後に氷を作ってくれないかい」

「どれくらいの氷を作りますか?」

「俺の頭くらいの大きさの氷をお願いできるかい? 家に持って帰って家族にあげたいんだ」

「それなら、私もよろしく頼むよ」

「俺もだ。きっと喜んでくれる」

「分かりました。いきますよ」


 農家の人たちのお願いに私は魔力を高めて、氷魔法を発動させた。それぞれの手の上に氷の塊を作り出す。


「冷てぇ。ありがとよ、ノアちゃん」

「みんなが喜ぶわ、ありがとね」

「じゃあな、またよろしく頼むよ」

「お疲れさまでしたー」


 農家の人たちは氷を持って家に帰っていった。さて、私も帰るかな……と、思ったらコルクさんも手を差し出してきた。


「悪ぃな、俺も氷を貰えるか?」

「もちろん。いくよー」


 カウンターの上に大きな氷を作ってあげる。そしたら、コルクさんは満面の笑みを浮かべた。


「ありがとよ。じゃあ、帰りは暑いけど気を付けて帰れよ」

「うん。じゃあ、また明日」


 コルクさんに別れを告げると、外にある荷車に近づいた。そして、取っ手を持ち上げると、荷車を引いて石の家まで帰っていく。


 時刻は丁度日が高い位置にある時、容赦なく太陽が照りつけてくる。


「暑いー、重いー」


 日の光が容赦なく肌をジリジリと焼いてくる。それに引く荷車も重い。よいこらしょ、と押していくと汗が滲み始めた。夏場の力仕事はとても疲れる。何かいい方法はないだろうか?


 そうだ、魔動力を使ってみよう。魔動力を使って、車輪を動かせば自動で動いてくれるんじゃないかな? そうと決まれば、前輪に意識を集中させて、魔力を高めて、魔動力を発動させる。


 車輪を前に動くように意識をすると、ゆっくりと荷車が動き始めた。


「お、お、おー! 良い感じ、軽くなっている!」


 荷車は引かずとも動き出し、取っ手には手を添えるだけになっていた。自動で動いていく荷車、仕事が楽になって良かったな。ん? 待てよ……荷車に私が乗ったらどうなるんだろう?


 一度魔動力を切り、私は荷車の中に乗った。そして、前輪に意識を集中させて魔動力を発動させる。ゴトゴトとゆっくりと動き出し、魔動力を強めるとガタゴトと人が走るスピードまで速くなった。


「これは楽でいいね。いけいけー!」


 自動で動く荷車に乗り、私は石の家まで帰っていった。


 ◇


「ふー、帰りが楽ちんだったなぁ」


 石の家に帰ってきた私は氷水を飲んだ。魔動力には物を動かす力があると説明されていたけれど、使い方によって化ける可能性のある魔法だと思った。


 もっと、他の使い方を見つけてみよう。私は石の棚の前に立ち、棚に入っている食器や道具たちを見た。自動で動かすことができたし、物を浮かせることもできた。


 食器に魔動力を発動させると、食器たちは浮き、私の周りをぐるぐると回り出す。例えば食器を浮かせながら、料理を入れたりすることもできる。そしたら両手が空くから、その間になんでもできちゃうかもしれない。


 でも、もっと違う使い方もあると思うんだよなー。うーん、なんだろう。浮かしておいた食器を棚に戻すと、私は考えた。動かす、回す、浮かせる……あとできることは。


 腕組をして考えるけれど、簡単には思い浮かばない。それどころか、他にどんな動かし方があるのか見当もつかなかった。この中で何か凄いことができそうなやり方はないかな?


 景色を眺めながら私は考える。魔動力の使い方、使う物……使う物が凄かったら、凄いんじゃない? 何か凄いものはないかな?


 深く考える私の目に入ってくるのは畑と木。畑で魔動力を使っても仕方ないし、木に使っても……木? 木に魔動力を使えたら凄いことじゃない?


 私は駆け足で森の一本の木に近づいた。もし、この木を動かせることができれば、とても凄いことだと思う。よし、早速やってみよう。


 木から数歩下がった私は、目の前の気に魔動力を発動させる。しっかりと木を魔動力の魔力で包み込むと、頭の中でイメージをした。木が浮くイメージを。


 メキッメキメキッ


 地面にどっしりと生えていた木の根本が音を立てて盛り上がってくる。地面の中に張り巡らされていた木の根が掘り起こされ、そのまま宙に浮いた。簡単に木を地面から抜くことができた。


「嘘、本当に出来ちゃった」


 信じられない気持ちで木を見上げた。だけど、どれだけ見ても木が地面から抜かれて宙に浮いていることは変わらない。これって凄いことじゃない? 体を使わずに木を簡単に抜くことができたんだから。


 抜いた木をゆっくりと下ろし、地面の上に横向きに置く。改めて見る木は大きくて、普通ならありえない光景が今目の前に広がっている。私が魔力を使って木を抜いた……魔法ってすごい、なんでもできちゃう!


 こんなに凄いことができたんなら、何かに活用しないと損だよ。木を抜くことでできることってなんだろう? 木を薪にするとか、木材にするとかかな?


 あとは、えーっと……木を抜く? そういえば、男爵様が言ってたな。領地を広げることができたなら、その領地をやる……とかなんとか。


 だったら、この辺りの木を抜いて自分の土地を広げていこう! そしたら、畑を広げることができるから収入を上げることができる。あとは、えーっとえーっと……今は思いつかないけれど、きっと何かの役に立つはずだ。


 とりあえず木を抜いて、土地を広げて、土地をならしていこう。さぁ、忙しくなるぞ。

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