44.砂糖を使った料理

 辺りが夕暮れに染まる頃、砂糖入りのパンが焼けた。木の枝で石窯の中からパンを取り出してみると、小麦の匂いに甘い匂いが混じっているような気がした。


 ツタの籠にパンを入れて、粗熱を取っておく。その間に、おかずの用意を始めていく。鉄板の下にある焚火に火を点けると、まず先に野菜を並べておく。低温からじっくりと焼くつもりだ。


 野菜を焼いている間は鉄板の隣にある焚火でブルーベリーソース作りだ。鍋を焚火台の上に設置すると、そこにブルーベリーと砂糖を入れる。それから木のスプーンで少しだけブルーベリーを潰しながら混ぜ合わせる。


 すると、ブルーベリーの汁が滲み出てきて、鍋の底がグツグツと煮だってきた。その汁に砂糖を混ぜ合わせると、汁にトロミがついてくる。しばらくそのまま煮だたせて、ソースを仕上げていく。


 スプーンでソースをすくってみると、かなりトロミがついてきた、これで完成だ。鍋を焚火から下ろし、台のところに置いていく。


 野菜のほうを見てみると、良い感じに焼けてきている。木のトングでひっくり返すと、良い感じの焼き目がついていた。後はもう片面に焼き目を付ければ完成だ。


 あとは二人が帰ってくるのを待ってから肉を焼くんだけど……まだ帰ってこないのかなー。いつも二人が見える方向をじっと見ていると、遠くから二人がこちらに近づいてきているのが見えた。


 よし、肉を焼こう。石の冷蔵庫から肉が入った皿を取り出し、木のトングで肉を掴んで鉄板に並べていく。ジューッと美味しそうな音を出しながら、肉に火が通っていく。焦げ付かないように注意をしながら、肉を焼く。


「ノアー、ただいまー」

「ただいま帰りました」

「おかえり。そうだ、氷水だったね。ちょっと待っててね」


 立ち上がって急いで石の棚に行き、コップを手に取る。魔法で水を氷を出すと、二人に手渡した。すると、クレハは凄い勢いで飲み、イリスは大事そうに飲んでいく。


「プハー! 生き返るー!」

「はー、冷たくて美味しい」

「よーし、夕食を食べるぞ! 今日の夕食は……くんくん、なんだか甘い匂いがするぞ」

「……本当ですね、嗅いだことのない匂いがします」

「ふっふっふっ、二人とも席について待っててね。と、その前に洗浄っと」


 二人に洗浄をかけると、気持ちのいい顔をして大人しく席についた。私は皿をもって鉄板の前にすわり、肉をひっくり返し、焼けた野菜を皿に盛っていく。


「肉は……うん、焼けた」


 野菜を皿に盛り付け終わった頃、丁度肉も焼けた。肉を皿に盛り付けると、今度は台の上に置いておいたブルーベリーソースに近づく。スプーンでソースをすくうと、肉や野菜にソースをかけていく。


「よし、完成。二人ともお待たせ」


 席に座っている二人の前におかずが乗った皿とテーブルの真ん中にパンの入ったツタの籠を置く。それとフォークと氷水を置くと、夕食の完成だ。


「今日はね、作ったばかりの砂糖を使った料理をしてみたよ。パンに砂糖を練りこんでみたり、肉に漬け込んでみたり、ソースに使ってみたりしたよ」

「おお、これが砂糖を使った料理か。食べるのが楽しみなんだぞ」

「いつもとは違う匂いがします。どんな味が楽しみですね」

「それじゃあ」

「「「いただきます」」」


 三人で手を合わせて挨拶をした。まず食べるのは、ソースのかかった肉。フォークで肉を刺して、口へと運ぶ。一噛みすれば、柔らかくてジューシーな肉から溢れだす味わいある肉汁、それに絡み合う甘酸っぱいソース。


「「「美味しい!!」」」


 三人の声が重なった。


「なんだこのソース、甘酸っぱくて美味しいぞ! 今までこんなソース食べたことがないんだぞ!」

「お肉の味が上がっているような気がします。食感もすごく良くて……これってオーク肉ですよね」

「そうだよ、普通のオーク肉だよ。特別な液に漬けたから、こんなに美味しくなったんだ」

「そうだぞ、肉も今までと違ってすんごく美味しいんだぞ! 肉のうま味が強くなった感じがして、頬っぺたが落ちそうなんだぞー!」


 かつてないほどにクレハの尻尾がブンブン回って、耳もピンと立っている。美味しすぎて息が上がっているように見えるんだけど、大丈夫かな?


「なんだこれ、ノアはどんな魔法を使ったんだ?」

「砂糖っていう魔法だよ」

「砂糖があるだけで、料理ってこんなに美味しくなるんですね……ビックリです」

「美味いんだぞ、美味いんだぞー! 砂糖ってすげー!」


 二人とも気に入ってくれたみたいで良かった。


「砂糖って食べたの初めて?」

「砂糖は初めてです。甘いものなら、野イチゴとか山ブドウとかなら食べたことあります」

「孤児院で食べれる甘いものって言ったらそれだよな。でも、これはそんなのよりもずっとずっと甘くて美味しいんだぞ!」


 砂糖を初めて食べたんなら、その反応は頷ける。ビックリするくらいに美味しく感じちゃうよね、強い甘味ってそれだけ人を惹きつけるんだ。


 クレハは勢いよく肉や野菜を食べ、イリスはじっくりと味わうように食べている。私もそんな二人に釣られて、いつもよりもハイペースで食べていく。


「そういえば、パンを食べてみてよ。パンにも砂糖が入っているんだ」

「そうなんですね、いただきます」

「ウチも食べるんだぞー」


 三人でパンを手に取って、手で割いて食べてみる。ふんわりとした食感に小麦の香ばしさの中に甘味が広がった。


「ん、少し甘いです。パンが以前よりも美味しく感じられます」

「うん、いつもよりも少し甘くて美味しんだぞ。今度からこのパンが食べてみたいぞ」


 甘味が薄かったからか二人の反応は控えめだ、それでも美味しく感じて貰えるのは嬉しい。でもソースみたいなインパクトある甘さじゃないから……そうだ!


 私は席を立ち、台に乗せてあった鍋を手に取ると自分の席に戻ってくる。


「このソースをパンにつけて食べてみて。絶対に美味しいから」

「肉や野菜にかけていたソースだよな? パンにも合うのか?」

「試してみましょう」


 割いたパンにスプーンですくったソースをかける。みんなのパンにソースがかかると、目を合わせて頷いた。そして、一口で口の中に放り込んで食べる。一噛みすると柔らかいパンに甘酸っぱいソースが絡み、何とも言えない美味しい菓子パンになっていた。


「美味しいです!」

「なんだこれ、パンにもこのソースが合うぞ!」

「うん、思った通りだ美味しい」


 二人は目を輝かせてパンを食べた。肉にも合うし、野菜にも合うし、パンにも合う。万能ソースを作ってしまった、ふふふ。


「もっと食べたいです!」


 イリスの食いつきが凄い。ソースをスプーンですくうが、もう全然ないのかソースはすくえなかった。


「そ、そんな……」


 がっかりと肩を落とすイリス。こういう時は……


「イリス、見てて」

「なんですか?」


 パンを一口大に千切ると、鍋の取っ手を持ってパンを鍋の内側にこすりつける。すると、内側にわずかに残っていたソースがパンに絡んだ。それをパクリと食べて見せる。


「うん、美味しい。ほら、やってみて」

「はい!」

「次、次はウチな!」


 イリスも私の真似をしてパンを千切り、鍋の内側をパンで擦ってソースを絡めとり、一口で食べる。


「んー、美味しいです!」

「ウチにも貸して!」


 イリスが持っている鍋をクレハが奪うと、同じようにパンを鍋の内側に擦って一口で食べる。


「うーん、やっぱり美味しい!」

「みんなで交代で食べましょう!」

「そうだね、じゃあ次は私」


 鍋を回しながら、順番にブルーベリーソースが絡んだパンを食べていった。美味しい食事は楽しく時間が過ぎていく。

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