45.きな粉揚げパンを作ろう
「はー……今日の夕食は美味しかったんだぞ」
「ノアが作る食事は魔法みたいに美味しかったですね」
石の家の中で枯草の上に寝転がりながら今日食べた夕食の話をする。二人とも満足したようで本当に良かった、私も美味しかったし満足だ。
「毎日今日と同じ食事でもいいんだぞ。あのソースが絶品だった」
「それだったら飽きちゃうでしょ?」
「それくらい美味しかったってことですよ。はー……ブルーベリーソースをつけて食べるパンは最高でした」
二人ともブルーベリーソースを気に入ったみたいだ。あの甘酸っぱさは癖になる味だよね、ソースの存在を思い出して本当に良かった。
「肉が今までよりもずっとずっと美味しくなったのは本当に驚いたぞ。あの感触がまだ口の中に残っていて、堪らないぞ~」
「私はブルーベリーソースとパンが絡み合ったあの味が忘れられません」
クレハは肉、イリスはパンをとても気に入ってくれたみたいだ。でも、肉は上手にできたけど、パンのインパクトが薄かったのが残念だ。全部ブルーベリーソースに良いところを奪われてしまっている。
もっと美味しくて甘いパンを、もっとインパクトあるパンを食べさせてあげたい。何か、今の状況で作れるパンはないかな。うーん……そうだ、揚げパンなら作れそうだ。
揚げるための油はオークから大量に取れるラードを使って、揚げたパンに砂糖をまぶして。んん? 砂糖だけじゃなくて、きな粉もどうにか出来るんじゃないのかな。きな粉の材料は大豆だし、作るんだったらきな粉揚げパンにしよう!
「二人とも、明日は本当に甘くて美味しいパンを作ってあげる」
「本当に甘くて美味しいパン、ですか?」
「ブルーベリーソースを漬けたパン以上に美味しいのか?」
「そのパンと同じくらい美味しいと思うよ」
「すごく楽しみです!」
美味しいパンと行ったらイリスの目が輝いた。クレハも嬉しそうな顔をして期待してくれている。
「明日はそのパンのために魔物討伐をとても頑張れそうな気がします」
「今日作った肉も焼いてくれよ! そしたら、ウチはもっともっと頑張れるんだぞ!」
「分かった! 明日は今日焼いた肉を焼いて、甘くておいしいパンを作るね」
明日を楽しみにしてくれる二人に約束をした。明日はきな粉揚げパンを作るぞ!
◇
小麦を納品した後にコルクさんから大豆の種を買い、肉屋でオークのお肉とラードを買い、雑貨屋ですりこぎと棒を買った。石の家に戻った私は、まずお肉をブライン液に漬け込んだ。
次にやるのはきな粉づくりだ。
「よし、この辺にしよう」
まずは大豆を植えて、育てる。ブドウとブルーベリーの木から少し離れたところの土を地魔法で耕して、大豆の種を植える。耕したところに手を置くと、魔力を解放する。
「植物魔法!」
植物魔法を発動させると、種から芽が出てそれがどんどん大きくなってくる。沢山の葉をつけ、花をつけ、実をつけた。あとはこの育った大豆に乾燥の魔法をかければ……大豆の完成だ。
必要な分だけ茎を風魔法で切ると、それをテーブルのところへ持っていく。テーブルに乗せて、石の棚から皿を持ってくると、さやを手でもぎ取って中に入っている大豆をとって皿に移し替える。
黙々とさやから大豆を取る作業を続ける。気が付いたら、さやの山と大豆の山が出来上がっていた。茎に残っている大豆はもうないみたい。じゃあ、茎とさやを焼却処分をして……灰を土に混ぜておいて。よし、これで処理が完了。
「次は大豆を炒ろう」
焚火の所に行き、焚火に火をつける。焚火台に鍋を乗せると、中に取り出した大豆を入れた。それから、ヘラでかき回しながら全体を良く炒る。少し色が変わってきたところで焚火台から鍋を下ろして、焚火の火を消す。
次に木のまな板の上に大豆を置き、包丁で出来るだけ細かく刻む。刻んだ大豆をすりこぎに入れて、棒で擦る。ゴリゴリといういい音とともに大豆がどんどん粉になっていく。
そんなに時間が掛からずに大豆を粉にすることが出来た、きな粉の完成だ。あ、しまった! ふるいとかあれば、滑らかなきな粉ができたのに、忘れてた。仕方がない、次回以降買うことにしよう。
あとは出来上がったきな粉に二分の一の砂糖とちょっと塩を入れて、混ぜるようにする。これできな粉揚げパンのきな粉の完成だ。あとは揚げたパンにこの粉を振りかけるだけだ。
今日は丸パンじゃなくて、細長いパンを作ろう。
◇
夕方になり、二人が魔物討伐から帰ってきた。いつも通りに氷水を渡し、洗浄魔法をかけてから席へと促す。
「あれ……パンは?」
真っ先にテーブルにパンが乗っていないことに気づいたイリス。ふっふっふっ、今日はいつもとは違う趣向でいくのだよ。
「今日はね、食後のおやつとしてパンを出すの。だから、先にお肉と野菜を食べてね」
「食後の楽しみですか……」
「うぅ、勿体ぶってなんだか落ち着かないぞ」
「まぁまぁ、まずは食べちゃおう?」
三人で席に着くと、皿に乗ったお肉と野菜を食べていく。ブライン液につけた肉は柔らかくてジューシーに仕上がっていて、追加でかけた塩と合わさって食べ応えのある食事だった。
「ふー、食ったけど物足りないぞ」
「食後のパン、お願いします」
「任せておいて」
二人ともパンが気になったのか、あっという間に肉と野菜を食べ終えてしまった。それだけ期待してくれているということだ、受けてたとう。
焚火のところにいくと、焚火台に乗せられた石の器がある。その中にはオークのラードが大量に入っていて、熱すれば全て油になる。
焚火に火をつけて石の器を温めると、ラードが温められて溶けていく。全てが溶け終え、油が熱しられていく。油の上に手をかざして温度を測る……うん、これくらいでいいだろう。
台の上に置いてあったツタの籠に入ったパンを手に取り、木のトングでパンを掴んで油の中に入れる。油の中に入れて数十秒、両面をパリッと揚げたらきな粉が入った皿に乗せる。そして、きな粉をまぶしてあげれば完成だ、きな粉揚げパン。
それを全部で六個作り、皿に盛った。
「できたよー。きな粉揚げパン!」
「「きな粉揚げパン……」」
二人の目の前に差し出すと、二人はまじまじと見つめた。
「周りに何かかかってますね」
「それがきな粉ね」
「なんだかいい匂いがするぞー」
「さぁ、温かい内に食べて」
食べるように促すと、二人は恐る恐るパンを手にして、パンを一噛みした。
「「!?」」
瞬間、凄い驚いた顔になった。パンを噛みちぎり、口の中で咀嚼をする二人の顔が段々と笑顔になっていく。
「これがきな粉揚げパン……凄く美味しいです!」
「うんうん、なんだこれ! ウマイ!」
その一言を喋ると夢中で食べ進めていく。私もきな粉揚げパンを一噛みする、香ばしいきな粉と砂糖の甘味、隠し味の塩がベストマッチして何とも言えない幸福の味がした。それに加え油で揚げた高カロリーが持つうま味が美味しさを底上げする。
「うーん、美味しくできてる」
自分がゆっくり堪能している間に二人は揚げパンを食べきってしまった。しばらく呆然としていた二人だが、私と目が合うと堰を切ったように語り出す。
「初めての体験をした気分です! なんていうんでしょう、この幸福感!」
「甘いのと脂っこいのが合わさって、なんていうか、なんて言えばいいのか分からないけど……とんでもなく美味かったぞ!」
「パンと油と甘い粉、これが合わさるだけで未知の幸福感に包まれました。こんな美味しい食べ物があるなんて、信じられません!」
「喜んでもらえて何よりだよ。二つ揚げたから、遠慮なく食べてね」
皿にもう一つずつ残ったきな粉揚げパンを見ると、二人の顔が幸せそうに破顔した。そして、二人はいきなり抱き着いてきた。
「こんなに美味しいものを作ってくれてありがとうございます、ノア!」
「ノアは凄いんだぞ!」
「もうイリスとクレハったら。私こそ、いつも美味しく食べてくれてありがとね」
三人でギューッとして嬉しさを抱きしめ合った。きな粉揚げパンは、私たちに幸せを運んでくれました、とさ。
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