42.ビート作り
それから数日が経った日のこと、小麦の清算が終わるとコルクさんが話を切り出してきた。
「ノア、明日ビート作りをお願いできるか?」
とうとう、ビートを作る時がきたみたいだ。
「農家に砂糖の事は周知させたし、小麦粉と野菜の在庫もある。今が絶好の機会だ」
「分かった、それじゃあ明日はビートを作るね。出来たビートはどうすればいいの?」
「ノアが使う分と種分は残しておいて、残りは全部ここへ運んでくれ。そうしたら、俺が農家の所へ持っていって砂糖作りをしてもらう」
なるほど、そうやって農家の人に砂糖を作ってもらうのね。
「夏場だから、火を使う仕事は大変だと思う。だが、今の内に経験しておかないと後が大変だからな」
「秋は収穫の季節だからね、農家はみんな大忙しだからね」
「そういうことだ。秋はみんな忙しいからな、砂糖作りにかまけている暇がない。大変だが、今のうちに砂糖作りをするしかないんだ」
夏場は暑いので火を扱う砂糖作りは大変な思いをするだろう。でも収穫で忙しい秋にするよりはマシだと思う。農家のみんなには頑張って砂糖作りをしてもらおう。
「明日、ある分の種を使ってビート作って持ってきます」
「あぁ、よろしく頼んだ」
コルクさんとビートの約束をして、私は石の家へと戻っていった。
◇
三人で夕食を食べ、自由時間を過ごして就寝時間になった。三人で枯草の上に寝転がりながら、今日あった出来事を話すのが日課だ。
「なんだか、最近ショートソードの切れ味が悪くなったような気がするんだよなー」
「沢山使ったから、刃が潰れてきたんじゃない?」
「ということは、一度整備に出したほうがいいんでしょうか? そしたら、どこかで魔物討伐を休まないといけませんね」
「うーん、お金も貯まってきたし、剣を新調してもいいんじゃないかな?」
「本当か!? そうだったら嬉しいぞ」
買った時もいいショートソードを買って上げられなかったからな、買い換えてもいいだろう。
「今度早く帰ってきてね、そしたら鍛冶屋に行こう。私もそろそろお願いしたいものが出来てきたからね」
「へー、何をお願いするんだ?」
「パンを焼く時に使う火かき棒かな。木の枝じゃ扱い辛いし、燃えちゃうからね」
「それは必要なものです。絶対に買いましょう」
パンが絡むとイリスは前のめりになるな、そうだあの事を話そう。
「そうそう、明日はねビートっていう野菜を育てることになったんだ」
「ビート? 初めて聞く野菜だな」
「そのビートはね、煮詰めると砂糖になるんだよ」
「砂糖ってなんですか?」
「砂糖っていうのはね、甘い粉なんだよ」
二人ともしっくり来てないのか、不思議そうな顔をしている。そっか、高級すぎて今まで孤児院で暮していた二人には縁がなかったものなんだ。
「その砂糖があれば、料理がぐっと美味しくなる」
「本当か!?」
「パンも美味しくなる」
「本当ですか!?」
料理とパンの言葉に二人は食いついた、こういう風に身近なことで言えば伝わるのか。
「今度から砂糖作りを村でする予定なんだ、その準備に一度砂糖を作っておこうっていう話になったの」
「村全体で砂糖作りをするんですね、大事なお仕事を任されましたね」
「そうだね。この砂糖作りが成功するか失敗するかで、今後の村の行く末が決まるかもしれない」
「そんな大事なことをノアがやるのか。頑張れよ!」
「うん、頑張るよ」
応援されて俄然やる気が出てきた。明日はビートを作って、できれば砂糖も作ってみよう。そうしたら、明日の料理に砂糖が使えるはずだよね。
◇
翌日、宿屋で朝食を食べて二人と別れた私は石の家まで戻ってきた。まだ農家の人たちは来てないけど、先に作業を始めちゃおう。
「よし、まずは種植えからだね」
ビートの種が入っている袋を持ちながら、畑に種を植えていく。人差指で畑に穴を開け、その中に種を入れ、穴を埋めるように土を被せる。それから一定の間隔を開けて、また穴を開け、種を入れ、土を被せていく。
黙々と作業を続けていくと、人の気配がして顔を上げた。すると、農家の人たちが近づいてきているのが見える。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはよう」
「さて、まず種植えからか」
「植える種は?」
「ここにあります」
「よし、それじゃあ植えていきますか」
農家の人たちに種を配ると、畑に入って種を植え始めた。沢山あった種が数人で分けることで一人で植える数が減り、作業が精神的にも楽になる。
数人で種植えを黙々と続けていくと、一時間くらいで種植えが終了した。やっぱり農作業は一人じゃできないね。
「種植え終えたわよー」
「後はノアちゃんがよろしく頼む」
「任せてください」
みんなが畑から出るのを待って、私は畑に両手を置いた。そして、魔力を高めると一気に放出する。
「植物魔法!」
植物魔法を発動させると、魔力が畑全体に行き渡る。そして、種だったビートが芽になり、どんどん成長していく。完全に成長する頃には大根の葉みたいなものが生えてきた。
「いつみても、この光景はすごいなぁ」
「この魔法のお陰で、食糧不足が解決したんだから凄いよねぇ」
「さて、ビートを抜いていこうか。そうだ、ノアちゃんどこまで抜けばいいんだ?」
「種用と自分用にこの列だけ残しておいてもらってもいいですか?」
「ん、分かった。よしみんな、ビートを抜いていくぞ」
ぞろぞろとみんなで畑に入ると、ビートを抜いていく。大根みたいな葉を掴んで抜くと、ビートが姿を現す。カブを少し長くした感じの見た目だ、これがビートか。
こんなのが砂糖になるんだから、驚きだ。私は次々にビートを抜いていった。他の農家のみんなも黙々と作業を続けて、時間はかかったが予定していたビートを全て抜き終える。
「この葉っぱも切り落としていきます?」
「そうだな、砂糖に使うのはこの白い根の部分だって言ってたからな」
「そしたら葉はない方がいいね。ここで切り落としていって、ノアちゃんに焼いて貰いましょう」
次にビートの葉を切り落とす作業に入った。農家の人たちは鉈を持って、勢いよく葉を切り落としていく。私は風魔法を使って、次々に葉を切り落としていった。
黙々と作業を続けていくと、あっというまに葉っぱの山が出来上がってしまった。荷車の中はビートの根がゴロゴロと転がっており、数えきれないほどある。
次々に葉を切り落とし、次々に根を荷車の中に入れる。すると昼過ぎには作業を終えることができた。単純作業ばかりだったから、いつもより作業が早く終わった。
「んー、終わったな。簡単な作業ばっかりだったから、ちょっと眠たくなってきたぞ」
「ちょっとあんた、危ない作業だったじゃないさ」
「あー、すまんすまん」
「それじゃあ、作物所まで行くか」
作業が終わり、荷車を引いて作物所まで移動した。
◇
「ほう、これがビートという奴か」
作物所に持っていくと、コルクさんが物珍しそうにビートを持って観察していた。
「これが本当に高級品の砂糖になるのか分からん」
「実際に作ってみないと分からないよねぇ」
「なんだか高級品っていう感じはしないがな」
農家の人たちは半信半疑だ。これが庶民には中々手に入らない砂糖に化けるんだから、信じられない。
「まぁ、砂糖作りが冬の手仕事になって、少しでもお金が入ってくるんだったらありがいことだが」
「男爵様は色々と考えていらっしゃって、助かるわぁ」
「夏場にやる作業としてはキツイが、これが成功すると俺たちも小金持ちになるんじゃねぇか」
農家としてはやはり冬の手仕事が増えるのは歓迎しているみたいだ。この砂糖作りで一体どれくらいのお金になるんだろう、気になるところだ。
「よし、清算するな」
ビートを木箱に移し替え、重量を計ったコルクさんからお金が渡される。……金貨が一杯だ!
「えぇ、こんなに貰っていいの!?」
「とりあえずは、これくらいだな。砂糖は高級品だから、もっと支払っても大丈夫だ。だが、今回は試験の意味合いを含めているから、これでも元の値段よりは低くなっているぞ」
試験にしたって、これは貰いすぎなんじゃ。金額を覗いてくる農家の人たちも驚いている様子だ。この中から一割の金額を取り出して、農家の人に手渡すと、みんな一様に喜んでいた。
「今日は当たりの作業日だったみたいだな」
「あのカブみたいなビートがこんな金額に変わるなんて、驚きだよ」
「もし成功して、この作業日に当たれば金貨が……」
みんな夢心地みたいだ、私も同じ気分だ。農家の人たちがフラフラと作物所を後にすると、私もフラフラと荷車に手をかけて引っ張っていく。
砂糖ってこんなに高いんだ、これは成功したら本当に小金持ちになるかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます