36.トマトスープとパン

 辺りが夕暮れに染まる頃、二人は帰ってきた。


「ノア、ただいま!」

「ただいまかえりました」

「二人ともおかえり」


 魔物討伐を終えてクレハとイリスが帰ってきた。


「ノア~、暑くて暑くて堪らないから氷水出してくれ~」

「私もお願いします」

「分かった、ちょっと待っててね」


 石の棚からコップを二つ取って、氷魔法を発動させてコップの中に氷を入れる。その後、生活魔法で水を出せば、ひんやりと冷えた氷水の完成だ。


「はい、どうぞ」


 二人に手渡すとクレハは凄い勢いで飲み、イリスはゆっくりと飲んだ。


「プハー! ノアの魔法は本当に便利だな、暑い時に冷たいものを出せるなんて!」

「はー……暑かったから生き返ります」

「この氷水が魔物討伐中にも飲めるようになったらいいんだけどな~」

「それだと、やる気が満ちますね」


 疲れて火照った体に氷水は染み渡るだろう、二人の顔が蕩けて見える。


「あ、今日の肉は全部売ってきたからないぞ」

「クレハがオークの肉を食べたいって言ってきかなくて」

「そうなんだ、分かった。確かに最近、ホーンラビットとウサギの肉ばかりだったから、たまには他の肉を食べたいよね」

「今はオークを倒せませんが、その内倒せるようになったら持ってきますね」

「そのためにも毎日頑張って強くなっていくんだぞ!」


 いつもは二人がホーンラビットかウサギを狩ってきて、それを私が捌いている。でも、今日はないみたいで仕事が一つ減ってしまった。明日はクレハのリクエストのオークの肉を買ってこよう。


「じゃあ、二人とも並んで立って。洗浄の魔法をかけるね」

「おう」

「はい」


 汗や土埃で汚れた二人を生活魔法の洗浄で綺麗にしてあげる。一瞬で汚れが消えて、二人はさっぱりとした顔つきになった。


「ふー、この瞬間が気持ちよくて好きだぞ」

「さっぱりしますものね」

「今日の夕食は……くんくん、トマトの匂いと……パンの匂い?」

「パン、ですか?」


 鼻のいいクレハが先に気づいてしまった。折角見せて驚かせようとしたのに、残念だ。


「そう、今日はねパン作りに挑戦してみたんだ」

「えー、そうなんですか!?」

「ノアがパン作り、凄いんだぞ!」


 二人は驚いて声を上げた。ふふ、この反応は嬉しいな。


「さあ、座って。今から夕食の準備をするから」

「何が出てくるのか楽しみだぞ!」

「お言葉に甘えますね」


 二人を席に着かせると、私は夕食の準備をする。焚火の傍にいくと、火にかかっている鍋がある。その鍋の中にはじっくりコトコト煮込んだトマトスープがある。


 そのトマトスープをお玉ですくい、深皿に入れる。焚火の近くに作っておいた石の台の上に置いておき、三人分よそう。それをテーブルに座っている二人の前に差し出す。


「まずこれがトマトスープ。色んな野菜とお肉をトマトと一緒に煮込んだスープだよ」

「美味しそうな匂いだぞ」

「どんな味がするのか楽しみです」


 次に石の棚の近づくと、作っておいたツタの籠に入ったパンを持ってくる。


「はい、これが自家製パンだよ」

「おお、凄い!」

「これが、ノアが作ったパンなんですね!」


 丸く焼けたパンが数個入っているツタの籠を見て、二人は歓声を上げた。そんなに喜んでくれると嬉しいなぁ、思わず顔がにやけてくる。


「それじゃあ、食べようか。いただきます」

「「いただきます」」


 手を合わせて挨拶をする、まず真っ先に二人はパンを手に取った。手で千切ったパンを口の中に放り込み、食べる。


「うん、美味しいパンです!」

「宿屋で食べているパンと変わらないぞ!」

「良かったー」


 二人の口に合うパンが作れてよかった。私もパンを一口食べてみる。うん、宿屋で食べているパンと変わらないような気がする。けど、どちらかというと宿屋のほうが美味しいかな。


 次にスプーンを手にして、トマトスープを食べてみる。一口頬張ると、トマトのうま味と酸味を感じた。だけど、すぐに他の野菜と肉のうま味が絶妙に引き出されて、強いうま味を感じることができる。


「ん、美味しいです!」

「なんだこれ、美味しいぞ!」


 二人が驚いた顔をしてこちらを向く。そうでしょ、そうでしょ、美味しいでしょ。


「上手に作ることができたみたい。二人の口に合って本当に良かったよ」

「ノアの作るスープはみんなとっても美味しいんだぞ」

「他にも色んな料理を作りたいけど、道具も食材も調理器具も不足しているから作れないんだよね」

「まだ美味しいものが作れるんですか? 食べてみたいですー」


 今、作れる料理はただ焼くだけの料理、煮たり煮込んだりする料理くらいだ。調味料とかあれば、もっと違う料理も作れるんだけど今は贅沢は言えないな。今あるもので美味しいものを作る、それしかない。


「もっと美味しい料理が食べたいぞ! ウチらも頑張って魔物討伐をしてお金を貯めていくぞ!」

「そうですね、まだまだ美味しい料理が食べてみたいです。クレハ、頑張りましょう」


 期待してくれるのは嬉しいな。足りないものは沢山あるから、少しずつ集めていかなくちゃいけない。食べ物のこともそうだけど、家もどうにかしなくちゃいけないのに。


「食べ物も必要だけど、家もどうにかしないとね」

「ずっと石の家のままっていうのも、あれですしね」

「ノアが新しい魔法を覚えて、その魔法で家を作ればいいんだぞ!」

「そんな魔法あるかなー?」

「あったら素敵ですねー。どんな家にしましょうか」


 三人で住む家のことを話しながら食事を進めた。とにかく広い家がいい、とか。二階建てがいい、とか。住みたい家の想像が止まらなかった。楽しいひと時が過ぎ、食事が終わる。


「ごちそうさまだぞ」

「ごちそうさまでした」

「おそまつさま。今日の料理はどうだった?」

「すんごく美味しかったんだぞ! 毎日でもいいから、食べたいぞー」

「スープとパンを一緒に食べると本当に美味しかったです。また、作ってくださいね」

「二人ともありがとう」


 今日の料理が二人の口に合ってよかった。食べ終えると、使った食器に洗浄の魔法をかけると、石の棚に食器などを片づける。あとは寝る時間まで自由時間だ。


 クレハは剣の練習をして、イリスは魔法の練習をしている。二人とも少しでも強くなるように努力を重ねているみたいだ。そんな二人に私は気づいたことを助言してあげる。


 すると、クレハは動きが良くなり、イリスの魔法は効率よく発動するようになった。少しでも二人の成長に繋がったらいいな、そんな思いで二人を見守っていた。


 辺りがすっかり暗くなり、月明りが辺りを照らし出す。そろそろ、寝る時間だ。クレハに洗浄の魔法をかけると、三人一緒に石の家の中に入る。毛布に包まり、枯草のベッドに横たわった。


「今日はパンを作ってくれてありがとうございました。家でパンを食べられるなんて夢のようです」

「そう言ってくれて、頑張ったかいがあったよ。明日の昼食にもパンを持たせてあげられるから、期待しててね」

「昼にパンが食べられるのか~、それはすっごく嬉しいぞ」


 パンを食べられるようになったのはいい、だけど自分が食べたいパンではない。やっぱり前世に食べたフワフワのパンが食べたいと思うのは仕方のないことだよね。どうにかして、あのフワフワのパンを食べたい、食べさせてあげたい。


「二人にはもっと美味しいパンを食べてもらえるように頑張るね」

「あれより美味しいパンがあるのかー、それは楽しみだ!」

「ノアだったらなんでも出来ちゃいそうな気がします」


 明日はフワフワパンをつくるために行動を開始しよう! そうと決まれば、早く寝てしまおう。


「二人ともお休み」

「おやすみー」

「おやすみなさい」

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