第二章 家づくりと領地を広げよう

35.石窯とパン

 最後の小麦の束を風魔法で刈り取る。鎌のように鋭利な形で飛ぶ風は、次々と小麦の束を刈り取った。


「ふぅ、これで終わり」


 背筋を伸ばして、額についた汗をタオルで拭う。季節は夏になり、気温がぐっと上がった。木々や草は青々と茂り、どこからともなくセミの音が聞こえてくる。


 新しく仕立てた夏服はとても涼しくて過ごしやすい。生地は丈夫なのに、通気性も良くて汗をかいてもすぐに乾かしてくれる。


 刈り取った小麦の束に乾燥魔法をかけると、腕に抱えて持ち上げる。それから、脱穀している農家の人たちのそばにもっていく。それを何往復かすると、最後の束になった。


「これが最後の束だよ」

「おう、ありがとよ」


 あれから農家の人たちは畑仕事を手伝いに来てくれる。自分たちの農作業をやり終えてから来てくれているらしい。


 今や脱穀機二台を置いて脱穀しているので作業はとても早い。しかも経験者とあれば、作業はスムーズに進み昼過ぎには全てが終わる。


 脱穀で私が手伝うこともないので、実を落としたばかりの穂を回収して畑に持っていく。その作業が終わる頃には、脱穀が終わっていた。


 畑全体を燃やし、小麦の痕跡を消し炭にする。この作業は夏の今ではきつい、いっきに周りの温度が上がって汗が滲み出る。


 頑張ってゴミを燃やし終えると、農家の人たちは小麦を荷車に乗せ始めた。どうやら作業が終わったみたいだ。


「今日もありがとうございました」


 お辞儀をしてお礼をいうと、農家の人たちは笑って答えてくれる。


「いや、いいんだよ」

「じゃあ、作物所のコルクさんのところに行こうか」

「うん!」


 農家の人たちは荷車を引いてくれて、私は後ろから荷車を押していく。


 ◇


「今日も農作業お疲れさん。これが今日の清算だ」


 コルクさんのところで小麦を納品すると、お金を受け取った。その中から一割のお金を抜き取ると、今日手伝ってくれた農家の人に渡す。


「ありがとうございました」

「おう、ありがとよ」

「こうしてお金をすぐに受け取れるのはいいわね。こちらもお陰で助かっているわ」

「じゃあな」


 農家の人たちはお金を受け取ると、自分たちの家へと戻っていった。


「コルクさん、明日は何を育てればいい?」

「そうだな、小麦粉の在庫ができそうだから、野菜をお願いできるか?」

「うん、分かった! 種類はどうする?」

「そうだな、あるだけの野菜を作ってくれないか?」

「了解! 明日は色んな野菜を作って持ってくるよ」

「おうよ、頼んだぞ」


 明日は野菜だ、頑張って収穫しよう。あと用事は……そうだ!


「コルクさん、私に小麦粉を売ってくれない?」

「小麦粉か、いいぞ。どれくらいいる?」

「二キロぐらい頂戴」

「分かった、ちょっと待ってろ」


 コルクさんが店の奥に行き、しばらく待った。すると、コルクさんは紙袋を持って現れる。


「ほら、二キロ分の小麦粉だ」

「ありがとう、これ代金」

「毎度あり」


 小麦粉を買った私は作物所を出た、すると眩しい日の光が差し込んでくる。うーん、夏だなぁ。


 荷車を引っ張って、石の家に続く道を進んでいく。セミの音を聞きながら進んでいくと、石の家が見えてきた。近くに荷車を置いて、石の棚に近づく。そこには朝に作ったお弁当が置かれていて、これから遅めの昼食だ。


 石のテーブルにお弁当を置き、石のイスに座る。


「いただきます」


 手を合わせて挨拶をする。それから蓋を開けると、朝に作った肉と野菜だけのお弁当だ。フォークで刺して、口に運んで食べる。冷めているけれど肉はジューシーで美味しいし、野菜は甘味があって美味しい。


 お腹が減っていたから、早く食べ進めるとあっという間に食べ終えてしまった。


「ごちそうさまでした」


 手を合わせて挨拶をする。その後、使い終わったお弁当箱とフォークに洗浄の魔法をかけると、綺麗になった。それらを石の棚にしまい、昼食の時間は終わった。


「よし、やりますか」


 今日はやりたいことがある。小麦粉が手に入るようになったから、自分でパンを作ってみたい。自分でパンが作れるようになると、昼食にパンを出すことができる。きっとイリスが喜んでくれるだろうなぁ。


「えーっと、場所はどこに作ろうかな」


 やっぱり食べる場所が近いところがいい。石の家から数メートル離れた位置に決めると、地面に手を当てて魔力を高めて地魔法を発動させる。


 まずは長方形の石を一メートル生やす。次に石窯のドームを生やした石の上に作るんだけどできるかな。間違えないようにしっかりとイメージしよう。


 丸いドームの形をしていて、出入口があり、四角い煙突がある。このイメージをしっかりと持って、長方形の石に手を置いて魔法を発動させる。


「地魔法!」


 魔力が流れ出して地魔法が発動した。長方形の石の上でさらに石が盛り上がって形を成していく。その形は私がイメージしたまんまになった、成功だ。


「やった、石窯ができた!」


 まさか、成功するなんて。地魔法すごい! できたての石窯をペタペタと触る。しっかりと丸みを帯びた形をしていて、出入口もあるし、四角い煙突もある。これでパンが焼ける!


 いいや、パンだけじゃない、他の料理にだって使えるはずだ。あとは材料さえ手に入れば……チーズとか欲しいな。そしたらピザが焼ける、パイとかも、スポンジケーキだって焼けるかもしれない。


「むむ、やっぱり材料がないと作れない」


 卵やチーズが手に入ればいいんだけど、どこにいけば手に入るのかな? 今度コルクさんに聞いてみよう。


「さて、早速パンを焼いてみようかな」


 まず先に、石窯に火を入れる。石の棚の近くに積み重なった薪を手にして、火を点けると石窯の中に入れていく。火かき棒がないから、細い枝を使って薪を石窯の奥に入れ込んでいく。


 薪をいくつか入れ終わると、あとは出入口を塞ぐだけだ。扉があればいいんだけど、ないのは仕方がない、これも石で代用しよう。地魔法を発動させて、出入口を塞ぐ。これで石窯の中は熱くなってくれるはずだ。


 次に石のテーブルに行くと、まずは表面を洗浄の魔法で綺麗にする。綺麗にしたら紙袋の中に入っている小麦粉をテーブルの上に乗せた。次に小麦粉にくぼみを作り、適量の水と塩を入れる。


 それから、小麦粉と水と塩を混ぜて捏ねていく。最初はバラバラだった材料が捏ねることで混ざあわさっていき、パンの種ができあがった。発酵の素を入れていないから、後は丸めて終わりだ。


 地魔法で薄い石の板を作ると、その上にパンを乗せていく。全てを乗せ終わると、それを持って石窯の所へ行った。出入口を塞いでいた石を地魔法で解除すると、石窯の中が見えた。近づくだけで分かる、中は薪の熱によって熱しられている。


 そこに石の板ごとパンを中に入れる。中に入れ終わったら、再度地魔法で出入口を石で塞いで完了だ。あとはパンが焼けるのを待つだけ。


 その間にもう一つやることがある、冷蔵庫作りだ。上の棚に氷を置いて、下に置いたものが冷えるような構造にする。棚付きの家具を想像しながら地魔法を発動させる。すると、想像していた通りの棚ができた。


「あとはここに氷を作って……」


 棚の上段に手を構えると氷魔法を発動させる。すると、棚の上段は氷で埋め尽くされた。最後に棚を塞ぐように石の壁を生やせば完成だ、石の冷蔵庫。あとは内部の隙間から冷気が下りていって食材を冷やしてくれるだろう。


 夏場は食材が傷むからね、出来るだけこの中に食材を入れておこう。取り出しに魔法を使わないといけないのが大変だけど、今は仕方がない。


「ん、いい匂い。パンが焼けたのかな?」


 その時、鼻をかすめる香ばしいいい匂いがしてきた。石窯に近寄ってみると、香ばしい匂いが強くなる。もうそろそろ焼ける時間だったから、パンが完成したのかな?


 出入口を塞いでいた石を魔法で解除して中身を確認する。すると、茶色く焼けたパンの姿が見えた。木の枝でパンを一個寄せてみて、手で掴む。


「あちちっ」


 手の中を何度もキャッチボールみたいに往復させて、熱を冷ます。しばらくキャッチボールをしていると熱が冷めたみたいだ。改めてパンを両手で割いてみる。


 ふんわりとしたパン生地だ、仲間で火が通っているみたい、成功だ。割いたパンを一口食べてみる、いつも食べているパンだ。成功してくれたみたいで良かったよ、失敗してたらどうしようかと思っちゃった。


 二人とも帰ってきたら驚くだろうなぁ、楽しみだ。

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