34.それぞれの仕事へ

 宿屋で夕食を食べた私たちは夕暮れに染まる道を歩いていた。


「冒険者のおじさんたち、色々と教えてくれて良かったね」

「はい、色々と不安だったんですが、話を聞けてその不安が和らぎました」

「これで明日から魔物討伐を頑張ることができるな」


 宿屋の食堂で一緒になった冒険者たちに魔物討伐について色々と聞くと、おじさんたちは色々と教えてくれた。初心者が入っても大丈夫な森の場所、現れる魔物の種類、魔物の倒し方。本当に色々と聞くことができて、本当に良かった。


「イリスでも倒せそうな魔物もいるみたいだし、一緒に頑張ってみようぜ!」

「まだちょっと怖いけど、私頑張ってみます!」

「その意気だよ、頑張ってね」


 話を聞いたところ、初心者のイリスでも倒せる魔物がいるらしい。むしろどんどん低級の魔物を狩ってくれ、とお願いされるくらいだ。どうやら低級の魔物が溢れていて、大変な状況らしい。


 他の冒険者が相手にしているのは、それよりも強い魔物なので、戦闘中に低級の魔物が横入りしてくるのに迷惑しているらしい。だから、初心者を歓迎していて魔物討伐の知識も教えてくれた。


「いよいよ、明日だね。二人とも怪我しないでよ」

「怪我してもイリスが治してくれるから大丈夫だぜ」

「もう、わざと怪我したら治してあげないんですからね」

「なんだよ、それー」


 クレハは久しぶりの魔物討伐、イリスは初めての魔物討伐。何かがあっては遅いから、十分に注意して欲しい。


「とりあず、明日は無理をしないこと。クレハも久しぶりの討伐なんだから、注意深くやってね」

「そうですよ、クレハはすぐに調子に乗るからダメですよ」

「なんでウチだけ厳しいんだ?」


 私とイリスが注意をすると、クレハは不貞腐れたように頬を膨らました。心なしかクレハの耳がしょんぼりしているような気がする。


「ウチらのこともそうだけど、ノアのほうは大丈夫なのか? 明日から農家の人と一緒に収穫するんだよな」

「特に問題はないと思うよ。農家の人たちといい関係が結べたと思うし、同業者だからって意地悪はしてこないと思う」

「農家に関わらず、村の人たちとは良い関係を築きたいですね。これからもこの村で生活していくんですから」


 そう、私たちはこれからもこの村で生活をしていく。村で生活をするのであれば、村人とも良い関係を築いておきたい。いがみ合うんじゃなくて、協力し合えるようなそんな関係に。


「孤児院を出て、町に移動して、町から追い出されて……ここに辿り着きました。まさか、こんな状況になるとは思いもしなかったです」

「そうだよなー。ウチも孤児院を出て、魔物討伐をするとは思わなかったぞ。でも、それがなんだか楽しいから文句はないぞ」


 魔物の氾濫があり、孤児院を飛び出してきた二人。町に行き、なんとか生活をしていたのに、犯罪者扱いにされてこの村まで飛ばされてきた。まさか、こんな状況になるとは当時だったら思いつかなかっただろう。


 それは私もそうだ。魔物の氾濫で奴隷のような召使いから解放されて、この村まで辿り着いた。召使いをしていた時はずっとこの生活が続いていくとばかりに思っていたが、突然に自由を手に入れた。


 自由を手に入れてからは目まぐるしく変わっていく環境に翻弄されながらも、懸命に生きた。その結果が今のような穏やかな生活を手に入れるまでとなる、こんなに嬉しいことはない。


 ようやく、手に入れた平穏は一人だけじゃない、出会った二人をも合わせて三人いる。一人じゃないという心強さのお陰で、なんとか生活ができているだろう。


 二人に出会っていなければ、一体どうなっていたか。もしかしたら、あの町で避難民としてくすぶり続けていたのかもしれない。そう思うと、この二人に出会って良かったと心から言える。


「私はね、自由になって何でもできるって思ってたんだ。でも、一人の力じゃたかが知れていて、一人だと何にもできなかったと思う。だけど、二人に出会って、みんなで協力し合えたから今の生活があると思う」


 断言できる、この生活があるのは二人と出会ったからだ。二人が私のことを見つけてくれなかったら、今頃どうしていたんだろう。そのことを考えると自然と感謝の気持ちが溢れてくる。


「二人とも、私と出会ってくれてありがとう。これから三人で楽しく暮していこうね」


 この村に来たのも何かの縁、ここで三人で楽しく暮らしていけたら素敵だと思う。二人に笑顔を向けると、二人も笑顔を返してくれる。


「それは私も同じです。ノアと出会っていなかったら、前向きに生きていくことができなかったでしょう」

「そうだぞ、ノアが色々と教えてくれなかったら、路頭に迷っていたのはウチらのほうだったかもしれない」

「だから、出会ってくれてありがとう。これからもよろしくお願いします」

「ウチからもありがとう! これからもよろしくな!」


 三人で手を繋いで、笑い合う。それだけで心が温かくなって、安心感が広がっていく。


「家に帰って、寝ましょうか」

「寝たら、明日だぞ!」

「明日になったら、それぞれでまた頑張っていこうね」


 手をつなぎながら夕暮れに染まった道を進んでいく。これから始まっていく生活はきっと楽しいものに違いない。そんな期待で胸が膨らんでいた。


 ◇


 日の光が差し込んできて、目が覚める。ゆっくりと体を起こすと、大きく背伸びをした。それから、毛布から這い出ると石の家の外に出る。


「うーん!」


 もう一回、大きく背伸びをした。空には雲が点々としていて、その奥には青空が広がっている。今日もいい天気だ。


 昨日、臨時で作った石の家の隣にある石の棚に近づく。そこに置いていた料理道具、昨日買っておいた肉、野菜を持つ。それから鉄板の傍に座ると、焚火に火をつける。


 鉄板を温めている内、ナイフで肉と野菜を一口大に切る。切り終わると鉄板が温まった、その上に切った肉と野菜を並べて焼いていく。おっと、塩を忘れていた、上から塩を振りかけた。


 今はこれくらいしか味付けできないけど、その内ソースや調味料を自作してみたい。少しずつ生活を豊かにしていきたいな。


 肉と野菜を両面焼き終えると、焚火の火を消す。石の棚に行き、お弁当箱を手に取ると鉄板の場所に戻る。そして、木のトングを使ってお弁当に焼いた肉や野菜を詰めていく。


「おはよう、ノア」

「おはようございます、ノア」


 お弁当におかずを詰め終わる頃、クレハとイリスが起きてきた。二人とも目をこすり、こちらに近づいてくる。


「おはよう。はい、水」


 生活魔法で水を出すと、二人のくっつけた両手の中に水を入れた。それで二人が顔を洗い、目を覚ます。ついでに私も水を出して、顔を洗った。


「ふー、さっぱりしたー」

「タオルは……あった」


 石の棚に置いてあったタオルで顔を拭く。うん、さっぱりして気持ちがいい。


 おかずを詰めたお弁当箱を確認してみると、粗熱が取れたみたい。蓋をして、フォークと一緒に紐で括って止めた。一つのお弁当は石の棚に置き、残りの二つは二人の背負い袋に入れておく。


「お弁当作ったから、お昼に食べてね」

「楽しみだぞ!」

「ありがとうございます」


 二人は背負い袋を背負った、その内しっかりとしたリュックを買いたいね。


「それじゃ、朝食を食べに行こうか」

「はい」

「行こうぜ!」


 準備が終わると私たちは宿屋へと向かった。


 ◇


「今日も美味しかったな!」

「バランスよく、色々と食べられましたね」


 宿屋での食事が終わり、外に出てきた。今日もお腹いっぱい食べて満足だ、私もあれくらいの料理を作らないとな。


「それじゃあ、ここでお別れだね。二人とも、魔物討伐頑張ってね」

「ノアも畑仕事頑張ってください」

「イリスのことはウチが守るから、安心してくれ!」


 そう、ここで二人とはお別れだ。私は畑に、二人は魔物討伐に行く。いつもとは違う行動に慣れないな。二人は背を向けて歩き出し、私は違う方向に向かって歩き出した。


 一人で家に戻ってきた。畑仕事の前に、使い終わった鉄板と木のトングに洗浄をかけて綺麗にする。それから木のトングを棚に戻して、後片付けの終了だ。


 これでようやく畑仕事に移ることができる。石の棚の横に置いておいた小麦の種が入った袋を持ち上げると、畑に移動する。小麦の袋を地面に置き、畑を見る。


「よし、始めようか!」


 新しい生活の始まりだ。

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