33.買い物

 農家の人たちとの顔合わせが済み、私たちは気持ちよく小麦の収穫を続けることができた。小麦の脱穀をしながら、私たちは会話に花を咲かせる。


「農家の人たちの不安を解消できて本当に良かったよ」

「説明するノアがちょっとかっこよく見えたぞ」

「えぇ、かっこよかったですよ」

「そ、そうかな?」


 一生懸命で良く分からなかったけれど、二人の目にはそんな風に移っていたんだ。なんだか、照れちゃうな。


「でも、これで二人とも気兼ねなく魔物討伐に出ることができるね。そうだ、小麦の収穫が終わったら必要なものを買いに行かない?」

「必要なものって何があるんだ?」

「そうだなー……水筒にお弁当箱とかは? 水分補給は大切だし、昼食だって必要だよ」

「確かに、それは必要ですね」


 朝に出ていって、帰りは夕方になる。その間何も食べないで動くのは大変だろう。だから、持ち出す食糧が必要だ。


「それに、イリスを何も持たせないまま魔物討伐に向かわせるのは不安だよ。いざという時の盾くらいは持っておいた方がいいんじゃない? クレハが守ってくれるといっても、全てを守れる保障はないからさ」

「魔物が襲ってきたら防ぐ手段がないですからね。覚えている魔法も防御系はないみたいですし、あったほうがいいですね」

「武器とかはどうするんだ?」

「私でも扱える武器とかあるんでしょうか?」

「うーん、それは行ってみないと分からないな。何か見つかるといいね」


 何も持たないイリスのことが心配だ。魔法はあるけれど、それだけじゃ不十分なように感じた。


「クレハはショートソードだけでいいの?」

「ウチはそれだけでいいぞ」

「その内、お金が貯まったら良い武器を買おうか」

「それは嬉しいぞ! ウチも頑張ってお金を貯めるぞー」


 クレハには新しい剣を買ってあげたい。いつまでもショートソードじゃ強い敵も倒せないし、そのせいで危険になったら大変だ。欲しいものがありすぎて、お金が中々貯まらない。


「今日は鍛冶屋と雑貨屋に行ってみようか」

「よし、じゃあ早く仕事を終わらせるぞ!」

「買い物、楽しみです」


 予定が決まった。すると、二人の動きが機敏になり、さくさくと作業は進んでいった。


 ◇


 コルクさんの所に小麦を納品し、宿屋に荷車を置くと、鍛冶屋に直行した。村の中心に店がかたまっているので鍛冶屋の看板は見つけやすい。歩いて数分で鍛冶屋を見つけた。


 扉を開けて中に入ってみると、中には様々な武器や防具が並べられていた。


「ほへー、すごいな」

「色々ありますね」

「どれを買ったらいいのか迷うね」


 こんな小さな村に立派な鍛冶屋があるのが驚きだ。きっと男爵様がこの村を大きくするつもりで頑張って誘致したのだろう。


「いらっしゃい」


 奥から声が聞こえてきた。三人で顔を見合わせると、その奥へと行く。そこにはカウンターがあり、カウンターには一人の女性が座っていた。普通の人よりも小さな人だ……もしかしてドワーフ?


「随分と可愛らしい冒険者だね。今日はなんの用できたんだい?」

「この子の盾と、合いそうな武器を探しに来ました」

「見たところ初心者に見えるんだが、そうなのかい?」

「はい、魔物討伐は初めてです」


 人懐っこいおばさんは順番に質問していった。


「なら、魔物はどうやって攻撃するんだい?」

「魔法が使えるので、魔法で攻撃します」

「なるほどねー。それで危ない時に防ぐ盾といざという時の武器が欲しいってことかい」

「そうです。良く分かりましたね」

「なんとなく分かるもんさ。どれ、見繕ってあげるからちょっと待ってな」


 おばさんがカウンターの中から店側に来ると、並べられた盾を見ていく。一つ一つ手に取って具合を確かめてから、ある一つの盾を差し出してきた。


「持ってみな。これくらいなら持てるはずだよ」

「はい……あ、持てます! そんなに重たくないです」

「主な材質は木でできているんだが、盾の表面には薄い鉄板を張り付けてある。薄い鉄板を付けることによって防御面を強化して、軽量化もできている盾さ」


 これだったらイリスでも扱えそうかな。大きさも丁度いいし、重さもそんなにない。何よりもプロからのオススメ品だから、間違いないと思う。


 イリスは盾を持って様々な立ち位置を試した。


「とても扱いやすいです。これにします」

「気に入ってくれて良かったよ。じゃあ、次は武器だね」


 今後は武器のコーナーに行くと、イリスに合う武器を見繕う。見ているのは杖みたいだけど、色んな杖があるなー。その中の一つを選んで、イリスに渡してきた。


「この杖なんてどうだい?」


 その杖は柄の部分が木でできていて、先端が鉄でできていて、小さな宝石がはめ込まれていた。先端の鉄には棘が生えていて、これでつつかれたら結構いたそうだ。


「この杖は先端の棘で魔物を攻撃することができるし、叩いても攻撃することができる。先端についているのは宝玉で魔法との親和性が高い、この杖を魔法を発動させる道具としても使えるよ」

「沢山の機能がついているんですね」


 棘の先端で攻撃、鉄製だから打撲の攻撃もできる。しかも魔法補助付きの杖、中々いい武器なんじゃないかな。


 イリスは杖を手に持ってみると、軽く振ったり感覚を確かめていた。よそから見てもしっかりと杖を振れているし、体の軸もぶれていないから振りやすそうだ。


「気に入りました、これにします」

「毎度あり。じゃあ、清算をしていっておくれ」


 買う物が決まった、おばさんがカウンターに行くと今回の料金を教えてくれる。初心者用の武器防具だったからか、思ったよりも値段は高くなかった。まぁ、それでも今の私たちにはとても高い値段なのには変わらない。


 料金を支払うと、財布が大分軽くなった。必要経費だけど、お金が無くなるのは痛いね。また、一生懸命働かなくっちゃ。


 ◇


 鍛冶屋を出ると、次に雑貨屋に寄った。


「おばさん、お久しぶり」

「あら、いらっしゃい。今日は何を買いにきたの?」

「水筒とお弁当箱ってあります?」

「あるわよー、ちょっと待ってね」


 店の中に入って声をかけると、おばさんがすぐに反応してくれた。おばさんはカウンターから店側に来ると、すぐに商品を見つけてくれる。


「水筒とお弁当箱って、ピクニックでも行くの?」

「クレハとイリスが魔物討伐に行くの」

「こんな可愛い子たちが魔物討伐? 大丈夫なのかい?」

「まだ初心者だから、危ないところへはいかないよ。そうだよね?」

「ウチは初心者じゃないぞ。でも、イリスが慣れるまでは弱い敵と戦うつもりだぞ」

「そうしてくれると嬉しいです。始めから弱い敵から始めたいです」


 イリスは初めての魔物討伐だけど、何度も魔物討伐をしてきたクレハと一緒なら大丈夫だよね。


「なら、水筒とお弁当箱は二人用のものなんだね」

「いや、お弁当箱だけ三人用でお願い。私の用も作る予定だから」

「はいはい、なるほどね。お昼はみんなでお弁当で食べるんだね。それだったら、これがいいんじゃないかい」


 差し出されたのは、二つの入れ物が一緒になったお弁当箱だった。


「二つに分かれているから、別々の料理が入れられるよ。一つのお弁当箱に全部入れるよりも、こっちのほうが使い勝手がいいよ」

「なら、そのお弁当箱を三つ頂戴」

「はいよ。で、水筒は普通のものでいいね。これだけど、いいかい?」

「これにする」


 お弁当箱と水筒が決まった。他に何か欲しいものあったかなー……そうだ、鍋が欲しかったんだ。


「あと、鍋も頂戴」

「はいはい、普通の鍋なら……これでどうだい? 片手で持てる取っ手がついているよ」

「うん、これにする」

「なら、こっちにきて清算だ」


 そろそろ野菜を茹でたり、スープを作ったりしたいと思ってたんだよね。あ、ちょっと待って、スープとか作るんだったら専用の皿が必要じゃないかな。


「あの、スープを入れる皿とかもあるかな?」

「もちろん、あるよ。えーっと、これだね。これでいいかい?」

「うん」

「なら、これも含めての値段は……これくらいかな」


 値段はそこそこした。でも払えない金額じゃないので、支払っていく。うーん、今日は買い物しすぎてお金が結構なくなっちゃったよ。前に稼いでいたお金があったとはいえ、死活問題だ。


「はい、毎度あり。また来てね」


 買った物を背負い袋に入れて、私たちは雑貨屋を後にした。

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