26.野菜の納品

 作物所から借りてきた木箱を持って、トマトのところへ行く。木箱を地面に下ろし、借りてきたハサミを片手に持つと、トマトの収穫を始める。


 本来なら畑に刺した木の棒に茎が絡まり、背丈の高いトマトができるはずだが、今回のトマトは植物魔法で一気に育てたから茎が折れて地面の上に広がってしまっている。


 今後のことを考えると、支えを作ったほうがいいかもしれない。そうすると、野菜が見栄え良く成長してくれる。地面に広がったままの野菜はちょっとだけ抵抗があるから、今度は支えを使ってみよう。


 地面に広がったトマトを片手で持つと、茎の部分をハサミで切る。これで一つの収穫が完了した、これをずっと繰り返していく。収穫は楽しくて、一つ一つ手に取るととても楽しくなってくる。


 手早く収穫していくと、あることに気が付いた。そういえば、種を作らなきゃいけないんだった。だったら、種用に残す野菜も取っておかないといけない。


 私は一度収穫の手を止めると、二人のところに行った。


「二人とも聞いて」

「なんだ?」

「なんですか?」

「次の野菜用に種を作らないといけないんだけど、収穫しないで少し残しおいて欲しいの」

「実から種を取るんですね。分かりました、全部は収穫しないでおきますね」

「この実の中に種があるんだな、分かった! 少し残しておくよー」

「ありがとう、よろしくね」


 これで次の分の野菜が作れる。私は元の位置に戻りトマトの収穫を再開する。


 ◇


 野菜の半分が収穫を終える頃、昼食の時間になった。私は一旦手を止めて、昼食の準備をする。石の家まで戻り、用意しておいた焚火台に火をつけると鉄板を熱する。


 鉄板が温かくなるまで、次の準備だ。石の台の上で収穫した玉ねぎの上と下を切り、薄皮を外す。それから輪切りにすれば、完了だ。これを肉の焼けば玉ねぎステーキの完成になる。


 買ってきたオーク肉に塩を振ると、熱くなった鉄板の上に置く。そのオーク肉の周りに輪切りにした玉ねぎを置き、上から塩を振る。あとは火を弱めにして、じっくりとやけば完成だ。


 焼いている間は収穫の続きをして、途中で鉄板に戻り裏返したりした。そうやって有意義に時間を使っていると、昼食が完成する。


「二人ともー、昼食ができたよー!」


 大声で呼ぶと、二人が返事をしてこちらに向かってきた。その間に焼けたオーク肉と玉ねぎを皿によそい、コップに生活魔法で水を入れて上げれば準備はオッケー。


「はー、お腹空いたー。とってもいい匂いだぞー」

「あら、野菜も焼いたんですね」

「そうだよ、あんなに収穫したんだし少しくらい収入が減っても大丈夫だよね」

「食べるものが増えるのは歓迎するぞ!」

「玉ねぎですか、どんな味がするんですかね」


 二人とも石のイスに座り、手を合わせて挨拶をした。それから皿を手に取って、フォークでオーク肉を刺す。油が滴っていてとても美味しそうだ。一口サイズに切っているから、そのまま口の中に放り込む。


「んー、肉汁がすごいね!」

「美味いぞ、美味いぞ!」

「こってりした味ですね」


 隣にいるクレハがガツガツとオーク肉を食べると、イリスと私は一口ずつ味わって食べる。オーク肉は油が多くてこってりしている、きっと焼いた玉ねぎがいい箸休めになってくれるに違いない。


「玉ねぎ食べてみようか」

「そうですね」

「いいぞー」


 肉を堪能した後、玉ねぎを食べてみる。フォークで刺すと、かなり柔らかくなっているみたいだ。崩れないように慎重に持ち上げて、焼きたての玉ねぎを一噛みした。


 すると、玉ねぎの汁が溢れて、野菜の甘味を強く感じた。


「うん、美味しい!」

「びっくりした、玉ねぎってこんなに甘いんですね」

「お菓子みたいに甘いぞ、どうなっているんだ!」


 じっくりと焼いた玉ねぎはとても甘くなっていて、とても美味しい。これだったらいくらでも食べられちゃう。肉を食べて、その後に玉ねぎを食べる。こってりとあっさりを無限に繰り返したくなってきた。


「これ、いくらでも食べられますね」

「野菜がこんなに美味しいなんてビックリだぞ!」

「もっと焼けば良かったねー」


 二人とも玉ねぎのステーキが気に入ってくれたようで良かった。それから、夢中になってオーク肉と玉ねぎのステーキを食べた。


 ◇


 昼食を食べ終わった後は収穫の続きをした。色とりどりな野菜を収穫するのは楽しくて、三人で収穫した野菜を見せ合いながら作業は続いていく。


「こんなにつやつやなナスがいっぱい取れました!」

「ウチなんてこんなに大きなかぼちゃがゴロンゴロン取れたぞ!」

「私のも見て、こんなに膨れた粒がびっしり生えたとうもろこし!」


 それぞれが持ち寄る野菜はどれも立派なもので、どれも美味しそうに見える。食べるのがもったいないって思うくらいには立派な野菜たちだ。


 そうやって収穫をしていると、最後の収穫になった。


「そういえば、種を作ると言ってましたね。最後の収穫は私たちに任せて、種を作ってください」

「ウチらに任せろ!」

「分かった、ありがとう。私は種を作っているね」


 二人の言葉に甘えさせてもらい、私は種づくりをすることにした。まず、残しておいたトマトのところへと向かう。地面に広がった茎についたトマト、ここから種をとろう。


 茎を触り、植物魔法を発動させる。すると、実がどんどん熟していき、最後には崩れ落ちてしまった。その崩れ落ちてしまった実の中から種を選別する。


 成長した種はしっかりとした形を保っていて、始めに撒いた種を遜色ない感じだ。それなら、次もしっかりと芽吹いてくれるだろう。種は貰っておいた種袋の中に入れた。


 そうやって、次々と実を熟していき種を選別していく。地道な作業だけど、実を取る作業は地味でいて楽しい。子供心をくすぐられるような楽しさだ。


 そうやって夢中になって種を取っていると、全ての種を取り終えた。よし、これで次も種代を払わなくても野菜を作れる!


「こっちは終わったよー。二人とも、どう?」

「こっちも終わってますよ」

「早く、コルクのおじさんに見せに行こうぜ! きっと驚くぜ!」

「そうだね、こんなに沢山の野菜がとれたんだから」

「それにしても、沢山とれましたねー」


 荷車の荷台を見てみると、野菜がぎっちりに詰まった木箱でいっぱいだ。


「これは、運ぶのが大変そうだね」

「みんなで協力して運びましょう」

「ウチの全力見せてやるぜー!」


 力持ちのクレハには頑張ってもらって、私たちもそのお手伝いを頑張ろう。やる気十分なクレハが取っ手を掴んでゆっくりと引っ張り始めた。私たちは後ろから荷台を押して、作物所まで進んでいく。


 ◇


 作物所へ到着する頃には、私たちはヘロヘロになっていた。小麦の時と比べれば量が多くて、とても大変だった。


「ふー、なんとか到着したね」

「こんなに収穫したんだから、疲れて当然ですね」

「ウチ、頑張ったぞ……」


 みんなで一息つくと、作物所の中に入っていく。


「コルクさーん、納品に来ましたー」


 店の中で大声で呼ぶと、店の奥からコルクさんが現れる。


「待っていたぞ。さぁ、野菜を店の中に運んでくれ」


 その言葉を合図に私たちは荷車から野菜が入った木箱を店の中に入れていく。


「なんだこれは、凄いいい野菜じゃないか! こんなのが作れるのか、凄いな!」


 野菜を見たコルクさんは驚いて、野菜を掴んだ。


「色、形……どれをとってもいい。久しぶりにこんなに良い野菜を見れたよ、作ってくれてありがとうな」


 プロの目から見ても上出来すぎる野菜だったらしい、褒められた私たちは少し照れくさそうに顔を見合わせた。


「ちょっと食べてみたら、本当に美味しかったぞ」

「とっても美味しい野菜でした」

「そうかそうか、それは食べるのが楽しみだな」


 沢山の野菜を納品されたコルクさんは嬉しそうにニコニコと笑っている。コルクさんは野菜の個数を数え、一箱ずつ検品していく。


「うん、問題ないな。じゃあ、清算だ」


 コルクさんからお金をもらうと、いつもよりも多い金額をもらった。


「こんなにいいんですか?」

「あぁ、良い野菜を作ってくれたしな、それくらいの価値はある」

「やったな、ノア!」

「やりましたね、ノア!」

「うん!」


 沢山お金が入ってきて嬉しい。これで買えるものがまた増える! お金を貯めていって、少しずつ必要なものを買え揃えるんだ。三人で不自由ない生活を送るのが目標だからね!

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