25.野菜作り

 小麦作りをして一週間が経った。とても順調に進んでいて、今では小麦百キロも収穫できるようになった。量は増えたけれど、夕方前にはなんとか全ての作業が終わるくらいにはなっている。


 今日も収穫した小麦を作物所のコルクさんのところに持ち込んだ時だった。


「みんなのお陰で少量ではあるが、小麦粉の在庫ができあがった」


 今まで生産したらすぐに使い切っていた小麦粉の在庫ができたらしい。私たちが頑張って小麦を作ったお陰みたいだ。


「ということは、この村の小麦粉不足の問題は解消したってこと?」

「その問題はお前たちが小麦を作らなくなったら、すぐに問題として出てくるぞ。だから、以前として小麦粉不足の問題は解決していない」

「ウチらがずっと小麦を作らないと、問題が解決しないってことか?」

「他の農家さんとかどうなっているんでしょうか?」


 そうだ、私たちの他にも農家はいるはずだ。その人たちの状況はどうなっているんだろう?


「他の農家でも生産はしている。野菜もそうだし、小麦だって作っている。だけど、こちらの小麦は一年に一度しか収穫できない。去年の収穫量が満足なものじゃなかったから、今こうして小麦粉が不足しているんだ」

「去年の収穫が悪かったからなんだ。だったら、今年の収穫は?」

「収穫までには三か月かかるな。それまではお前たちに小麦の生産を頑張って欲しい」


 収穫まであと三か月か、まだ時間はあるね。その間は私たちがしっかりと小麦を作っておかないと。


「でだ、小麦の在庫が少しできたから、明日の一日は野菜を作って欲しい。野菜も不足していてな、店頭にも並んでいる野菜は少ない」


 店の見渡してみると、空になった箱がばかりでそこに入っている野菜は数えるほどしかない。この村は小麦も不足していれば、野菜も不足している状況だ。


「野菜も不作だったの?」

「野菜の収穫は普通だ。小麦が不作だったから、その分野菜の消費が増えてしまってな。今ではご覧の有様だ」

「小麦がなかったら野菜を食べるしかありませんしね」

「肉、肉があるぞ、肉が!」


 不足の連鎖になっていたのか。


「一応、完全に無くならない前に他の町から買い付けをするんだが、輸送費が高くてな。頻繁には行けないし、ギリギリの状態でやっているんだ。村のことはできるだけ村で完結させたいとは思っているしな」

「村に必要なものは村で作るのが一番良さそうだね。買い付けばかりしてたら、商品が高騰して村人が買えなくなるから」

「あー、確かにそうですね。そうすると、村が廃れる気がします」

「うーん、良く分からないけど、ここで作ったほうがみんなのためになるのかー」


 他の村や町から買い付けするのは余計なお金がかかる、ならこの村で作っておいた方がいいね。それに他の村や町に頼っていたら、いざ不作の時に食糧を回してくれない可能性もある。うん、自給力は強ければ強いほどいい。


「野菜の在庫も底がついてきている、だから小麦の在庫がある内に一度野菜を作ってもらいたい」

「私はいいよ。どんな野菜を作ればいいの?」

「作ってもらう野菜は男爵様と相談した上で決めていた。ジャガイモ、人参、カブ、玉ねぎ、キャベツ、かぼちゃ、とうもろこし、トマト、ナスの九種類だ。本当は他にも作ってもらいたい野菜があるんだが、今はこれだけでいい」

「結構な種類があるんだな」

「他にも作ってもらいたいものがあるっていっているから、本当はもっと多くの種類になるんですね」


 作る野菜はいっぱいあるけど、多分植物魔法で一発だから問題ない。


「依頼する野菜だから、種の料金は男爵様から頂いている」

「そうなの、やった!」

「これが種が入った袋だ。この袋の中に全部入っている」


 コルクさんから大きな袋を受け取った。中を開いて見てみると、袋の中にも沢山の袋が入っている。これを植えればいいんだね。


「じゃあ、明日は野菜を頼むぞ。収穫に必要な道具はこれから渡すな」

「任せて」

「ノアがやってくれるぞ!」

「収穫は任せてください」


 小麦作りは一旦置いておいて、明日は野菜作りだ!


 ◇


 翌日、宿屋で食事を取り終えた私たちは石の家まで戻ってきた。


「よし、早速野菜の種を植えよう。今回は一定の感覚を開けながら、種を撒いていこう」

「分かったぞ!」

「分かりました」

「それじゃあ、二人ともよろしくね」


 それぞれに種が入った袋を渡すと、早速作業開始だ。畑に散っていき、畑の角から野菜の種を撒いていく。土の上から一定の感覚を開けて種を撒き、それを続けていく。


 種は思ったよりも入っていなくて、一つの袋を撒き終わるのに、そんなに時間がかからなかった。今度は少し間隔を開けて新しい種を撒く。今度もしっかりと間隔を開けて種を撒いた。


 そうやって地道に種を撒いていくと、全ての種を撒き終えた。


「二人ともお疲れー」

「小麦とは違ったから、ちょっと大変だったぞ」

「一定の間隔を開けるのが大変でしたね」

「一定の間隔にしてくれる道具とかあればいいよね」

「そんな道具があるんだったら、使ってみたいぞ」

「ちょっと考えると作れそうな物ですね」


 そういう道具なかったかな、どうだったかな。便利な道具は作ったほうが良いと思うけど、材料と手段がないのが痛いな。まぁ、その内にできるようになればいいか。今はこれでやるしかないね。


 三人で畑から下りると、植物魔法の出番だ。


「今回はどんな風に野菜が育っていくんでしょうか?」

「どんな風になるか楽しみだぞ」

「育つのは一瞬だから、しっかし見ててね」


 畑の前でしゃがみ込み、畑に手を添える。一呼吸して気持ちを落ち着かせると、魔力を解放した。


「植物魔法!」


 小麦と同じように植物魔法を発動させる。畑に植物魔法の魔力が満ちると、種が芽吹いてくる。芽はどんどん成長し、形を成して、実をつけていった。畑は一瞬で色とりどりの野菜が生まれる。


「うわー、すげー! こんなの初めてみた!」

「こっちのほうが見ごたえがありました! なんていうか、綺麗な畑ですね!」

「うん、なんか凄かった」


 自分の目を疑うほどの光景が一瞬でできてしまった。少しだけ呆けて見るが、現実は変わらない。目の前には色とりどりの野菜がしっかりと生まれていた。


「見に行こーぜ!」

「近くで見てみましょう!」

「うん、行こう!」


 三人で駆け出すと、生えてきたばかりの野菜を見た。一番近くにあったトマトに近づくと、トマトは真っ赤に熟れておりとても美味しそうだ。


「トマト、食べてみようか」

「美味しいのか?」

「美味しいに決まってます」


 恐る恐るトマトをもぎ取ってみる。ずっしりと重く、触り心地もいい。


「食べるよ」

「うん」

「はい」

「せーの!」


 大きく口を開けて、トマトにかぶりつく。みずみずしい果肉が口いっぱいに広がって、トマトのうま味を強く感じた。


「んー、美味しい!」

「なんだこれ、美味しいぞ!」

「美味しい!」


 二人とも目を見開いてとても驚いている、私も同じ気持ちだ。青臭さのない、少しの甘味を感じる果肉は本当に美味しかった。


「こんな美味しい野菜、食べたことないぞ! 野菜ってこんなに美味しいものなのか!?」

「うん、うん! 孤児院で食べた野菜はどれも美味しくなかったけど、これが本当の野菜なんですか!?」

「こんなに瑞々しくて、うま味を感じられる野菜は初めてだよね」

「こんな野菜を作るノアはすごいんだぞ!」

「ノアの魔法は奇跡のような魔法ですね!」


 私の植物魔法は凄いな、二人をここまで感動させてくれるなんて。三人であっという間にトマトを食べ終えて、とても満ち足りた気持ちになった。


「他の野菜も食べてみたいぞ」

「そうですね。ねぇ、ノア。少しだけ、私たちの分として残しませんか?」

「うん、そうしよう。肉ばかりで健康にも良くないし、野菜も食べよう」

「やったぁ!」


 クレハが飛び上がって喜ぶと、イリスは手を叩いて喜んだ。こんなに喜んでくれるなら、もっと早くに作っておくんだった。


「じゃあ、みんなで収穫しよう!」

「おう!」

「はい!」


 楽しい収穫の始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る