22.昼食は肉焼き
翌朝、身支度を済ませた私たちは宿屋に朝食を食べに出かけた。
「ふんふんふーん、今日の昼食はお肉ー」
出かけている最中、クレハは上機嫌だ。この村に来てから取ってなかった昼食を食べられる、しかも好物の肉とあって機嫌がすこぶるいい。
「クレハったらスキップしちゃってます」
「相当嬉しいんだろうね」
スキップしながら前を行くクレハを見ていると和む。尻尾もふさふさと嬉しそうに左右に揺れていて、可愛い。そんな調子で宿屋につき、食堂の中に入った。
すると、パンの焼けたいい匂いがしてくる。
「今日も焼きたてのパンがあるみたいですね」
「イリスも嬉しそうだね」
「はい!」
イリスはパンが好きなのかな? 二人とも好きなものが食べられるから良かったね、なんだか私も嬉しくなる。
席につくと、ミレお姉さんが近寄ってきた。すでに手には料理が乗っていた
「いらっしゃい。はい、いつものね」
「凄く早くてびっくりしちゃった」
「ふふっ、宿屋に入った瞬間から用意を始めていたのよ」
「それは本当なのか、ミレはすごいな!」
「私たちが入ってきたのが分かったんですか?」
「そーよー、経験があれば目を瞑って音だけで誰が入ってきたか分かるわ」
「それ、本当ー?」
「ふふっ、冗談よ。はい、今日もパンがあるから、存分に食べていってね」
雑談をしながらミレお姉さんが食事を私たちの前に置いていく。今日もパンと野菜の少ない肉スープだ。食べれるだけでもありがたい、いただきます。
「肉がホロホロだぞー」
「パンがすごく香ばしいです」
二人とも幸せそうに食べているな。そんな二人を見ていると、食事が益々美味しく感じる。そのまま幸せそうな二人を眺めながら食事を進めていった。
「ふー、ごちそうさまだぞ」
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
あっという間にペロリと完食する。それを見計らったようにミレお姉さんが食器を片づけにやってきた。
「おそまつさま」
「そうです、パンって売ってないんですか?」
「あー、パンね。まだここで消費する分しか小麦粉が手に入らないから、そんなに作れてないのよ」
「そうですか、残念です」
そっか、ここで買えば昼食で食べれたかもしれないんだ。でも、まだまだ小麦が足りないことが分かったね。数十キロだけじゃ、この村で消費する分しか作れてないんだ。せめて百キロは作りたいな。
「ノア、もっともっと頑張って小麦を作っていきましょう」
「うん、そうだね。みんなが三食パンを食べられるようにしないと」
「ウチも頑張るぞー!」
「三人とも期待しているわ」
「頑張れよー! 応援しているからな!」
「小麦粉作りは俺たちに任せて、小麦作りは嬢ちゃんたちが頑張れよー!」
食堂にいた人たちに応援され、とても賑やかになった。よーし、みんなの声援を受けてやる気も十分。今日も畑を拡張して、沢山の小麦を作っていくよ!
◇
宿屋で朝食を取り終えた私たちは、肉屋に寄って昼食用の肉を買った。クレハ用にホーンラビット一つ、私とイリス用にウサギ肉二つ。これだけあれば足りるだろう。
石の家に戻ってきた私はすぐに畑を拡張した。無理をしないように縦横一メートルずつ伸ばす。少しずつ大きくしていって、魔力が尽きないぎりぎりを狙いたい。
次に昨日残しておいた小麦の種をみんなでバラまいていく。昨日よりも量は多いが、それほど時間はかからずバラまき終えた。
小麦の種を撒き終えると、植物魔法の出番だ。畑に手をついて魔力を高めて放出すると、小麦の種が一気に穂が垂れさがった小麦に成長した。
「よし、収穫するぞー!」
元気のいいクレハの声が響いた。今日は昼食用の肉があるので、始めからパワー全開みたい。私は早速風魔法を使い小麦を刈り取り、刈り取った小麦を乾燥させてクレハのところに持っていった。
「うおぉぉ、今日はやるぞー!」
物凄い速さでローラーを回して小麦の実を取っていく。三日目ともなれば手つきは慣れていて、すぐに小麦の実は落とされていった。
「クレハの気合が凄いですね」
「昼食の力かな?」
「私たちもクレハに負けないように頑張らないといけませんね」
「そうだね、今日も頑張ろう」
物凄い勢いで小麦の実を取るクレハを見て、私たちもやる気が出てきた。すぐに自分の仕事に戻ると、小麦を刈り取っていく。
◇
「そろそろ、昼食の時間か」
高くなった陽とお腹の減り具合からそろそろだと思う。小麦を刈るのを一旦止めて、石の家に近づいていく。そこには事前に用意していた石と枯れ木で作った焚火台があり、その上には鉄板が乗せられている。
枯れ木に火魔法で火を点けて、鉄板を温めた。その間に肉の下処理をする。それぞれの肉に買ってきた塩を振りかけて、これで下味の完成だ。
すると、鉄板がいい感じに熱しられている。その鉄板に肉を置くと、ジューッと美味しそうな音が聞こえてきた。肉を三つ並べると鉄板の上は隙間もないくらいいっぱいになった。
あとは火加減を弱火にしておいてっと。よし、これでしばらくしたらひっくり返しに来よう。私は作業へと戻り、小麦を狩り始めた。しばらく作業をしていると、いい匂いがこちらまで漂ってきた。
「ぬおぉぉ、美味しそうな匂いだぞー」
「本当だ、いい匂いですね」
クレハの作業効率がまた一段と上がった。その余波を受けて傍にいるイリスは忙しそうに小麦の実を集めている。やっぱり、昼食があるのとないのとじゃ作業効率は段違いだね。
私は一旦作業の手を止めて、鉄板のところへ行く。木のトングで裏返してみると、いい感じの焼き目がついていてとても美味しそうだった。後は片面を焼いてっと、これでしばらくしたら食べられるね。
「もう少しで肉が焼けるから、もうひと踏ん張りだよー!」
「おー!」
「はい!」
明るい二人の返事が聞こえた、私も張り切って小麦の刈り取りを続ける。作業中、肉の焼ける匂いが本当に美味しそうでよだれが止まらなかった。
しばらく作業をしていると、肉の匂いに香ばしさが混じり始めた。そろそろかな、作業の手を止めて鉄板のところへ行ってみる。木のトングで裏側を見ると、丁度いい焦げ目がついていた、完成だ。
「二人ともー、お肉が焼けたよー!」
「本当か!? これが終わったら行く!」
「今、行きまーす!」
二人を呼び寄せると、私は準備を始めた。まずテーブルを地魔法で石を出して作り、次にイスを地魔法の石で作る。皿に肉を盛ってテーブルに並べ、コップに生活魔法で水を出す。あとは木のフォークを並べて、これで完了だ。
「うわー、美味しそうだぞ!」
「近くに来てみると、匂いが濃いです」
「座って食べよう」
二人が作りたての石のイスに座り、三人で手を合わせた。
「「「いただきます」」」
フォークで肉を刺して持ち上げると、焼きたての肉にかぶりつく。ジュワッと肉汁が溢れだし、肉のうま味が口いっぱいに広がる。
「「「おいし~!」」」
三人の声がかぶってしまった。でも、そんなこと気にする暇もないまま、肉にかぶりつく。ウサギの肉は柔らかくて、さっぱりとした味だ。噛めば噛むほど優しいうま味がにじみ出てきて、食べるのを止められない。
行儀は悪いがフォークを外して、手づかみで食べ始める。すると、とても食べやすくなって、食がどんどん進んでいく。
「ウサギの肉はさっぱりとしていて柔らかくて美味しいね」
「はい、さっぱりとしていながらもうま味も感じて美味しいです」
「ウチの肉はちょっと固めだけど味が濃いぞ。肉食べてる感じがする」
「ウサギとホーンラビットは同じようで違うんだね」
「ウチはホーンラビットが気に入ったぞ!」
「私はウサギ肉で良かったです。自分にぴったりでした」
ウサギ肉もホーンラビット肉もそれぞれに特徴があるようだ。食べ比べをしてみるのも楽しいのかもしれない。それに、肉の種類も豊富だったし楽しみが増えた。
お肉だけの昼食だったけど、三人で一緒に食べればお肉だけでも十分だった。美味しく感じられる環境に感謝だね。
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