21.肉屋と雑貨屋

 作物所を出てお店っぽい建物を探すと、すぐ近くにあった。肉の看板を掲げた肉屋だ。


「肉屋はここだぞ! 早く入ろう!」

「クレハ、落ち着いてください」

「今日は買わないからね」

「なんでだ!?」

「夕食は宿屋で取るでしょ? 肉を買うんだったら、明日だからね。今日は商品を見るだけ、いいね」

「……はーい」


 クレハはがっくりと肩を落とした。クレハは本当に肉が好きだな、狼獣人だからかな?


 荷車を置いて店の中に入ってみると、店の中は色んな肉が吊るされていた。


「いらっしゃい」


 すると、店の奥から威勢のいい声が聞こえてきた。視線をそちらに移すと黒髪のオールバックをしたおじさんがこちらを見て来ている。


「おや、見慣れない顔だな。どこの子だ」

「先日、この村に移住したノアとクレハとイリスです。よろしくお願いします」

「もしかして、小麦を作っている子たちかい?」

「うん、そうだけど」


 私たちのことがもう村に知られている? そのことに驚いていると、そのおじさんは笑顔で対応してくれる。


「そうか、そうか! いやー、助かったよ。ようやく小麦粉が手に入ったから、久しぶりにパンが食べられるようになった。とはいっても、一日分くらいだけどね」

「パンが食べられて良かった。今日も小麦を納品したんで、小麦粉が作られると思うよ」

「そいつは楽しみだ。村のために小麦を沢山作ってくれよ」


 あの量だから村全体に行き渡るか不安だったけど、少なくとも村人には売られているらしい。でも、まだまだ足りないと思うのでどんどん作っていかなきゃいけないね。


「なぁなぁ、ノア」

「ん、あーごめんごめん」


 クレハが裾を引っ張ってきた。どうやら話が長すぎたようだ、本題のお肉を見せてもらおう。


「あの肉を見せてもらってもいい?」

「もちろん、いいぞ。何か買っていくか?」

「明日買いに来るので、その下見です」

「そうか、そうか。存分に見ていってくれ」


 許しが出たので、店頭に吊るされた肉を見ていく。大小さまざまな肉の塊があり、部位も色々とある。


「クレハはどんな肉が食べたい?」

「ウチは骨付き肉が食べたいぞ。明日、買う肉はこれがいい!」


 そう言って指さしたのは、私の体の同じ大きさの肉だ。いや、さすがにこれはちょっと大きいかな。


「もっと小さくないと持ち運べませんよ」

「もっと小さくか……どれくらい?」

「片手で持てるくらいの大きさじゃないと困るんじゃないですか?」

「片手、片手……」


 クレハは手を肉の前にかざして大きさを測っていた。クレハが肉を見ている間におじさんに質問をする。


「ここにはどんな肉があるの?」

「冒険者が狩ってきた魔物肉や狩人が狩ってきた動物の肉が置いてあるぞ。冒険者はホーンラビット、ワイルドボア、オストクック、オークなんかを狩ってきたりする。狩人は森ネズミ、ヘビ、ウサギ、森ハト、森ブタ、鹿を狩ってくるな。肉の種類は豊富にあるぞ」


 沢山の肉の種類があるようだ。宿屋でもそうだったけど、ここでは肉には困らなさそうで良かった。足りないのは主食と野菜だけなんだね。


「なぁなぁ、ウチはこの肉がいいぞ」

「そいつはホーンラビットの肉だな」

「それくらいの大きさならいいと思います」

「明日はこれを買おう、なっ?」

「うん、いいよ」

「やった!」


 お目当てのお肉を食べれそうになってクレハは飛んで喜んでいる。頑張ってお手伝いしてくれているんだから、お腹いっぱいに食べさせてやりたいよね。


「そうそう、ウチで加工肉とかも扱っているぜ。ソーセージ、ベーコン、燻製肉、ひき肉、希望があったら出してやるからな」

「ほ、他にも肉があるのか! ここは天国かー?」

「もう、クレハったら」

「今度は加工肉も見せてもらおうか」

「うん、楽しみなんだぞ!」


 加工肉も売っているなら、そっちを買ってもよさそうだ。明日来て、肉を買おう。


「それじゃあ、今日は失礼します」

「おう、明日来てなんか買ってくれよな」

「また来るぞ~!」

「また明日」


 そう言って、私たちは肉屋を出ていった。あとは、雑貨屋だね。


 ◇


 荷車を押して移動すると、店っぽい建物を発見した。看板を見てみると、いろんな道具が書かれてあり、多分ここが雑貨屋なんじゃないかな?


 荷車を置き、店の中に入ってみると、店頭には様々な物が置かれてあった。雑貨屋はここで良かったみたい。


「あら、いらっしゃい。初めて見る子たちだね」

「先日、この村に移住してきたノア、クレハ、イリスです。よろしくお願いします」

「クレハだぞ」

「イリスです」

「まぁまぁ、そうだったの。これからよろしくね」


 店の奥にいた雑貨屋のおばさんは気さくに話しかけてくれた。この村の人はみんな優しい人ばかりで本当に良かったな。


「何か買っていくかい?」

「んー……そうだね、何も道具がないから買っていく」

「なら、じっくり見ていってくれよ。閉店まではやっているからね」


 明日、昼食の肉を焼くなら必要そうなものは買っておいた方がいいだろう。


「何を買うんですか?」

「明日、昼食に肉を食べるでしょ? その時に必要なものを買おうと思って」

「肉を焼くための道具も必要だぞ」

「そうだよねぇ、どうやって焼こうか?」


 肉の焼き方はどうしよう。今までは生活魔法の発火でなんとか焼いていたけれど、そういう訳にもいかないし。道具を使って焼けたらいいんだけどな。


「肉を焼くための道具かい? なら、いくつか候補はあるよ。串に刺して焼く方法、網の上で肉を転がしながら焼く方法、鉄板の上で肉をひっくり返しながら焼く方法」

「うーん、色んなやり方があるなぁ」

「迷いますねぇ」

「ウチはなんでもいいぞ!」


 どのやり方も美味しそうなんだけど、今後のことも考えながら買った方がいいよね。


 串にしちゃうとそれだけしかできなくなる。網の上だったら、肉以外でも焼ける。鉄板もそう、他の物も焼ける。ということは、利便性のある網と鉄板のどちらかがいいかな?


「網と鉄板、両方みせてもらってもいいですか?」

「いいよ、こっちにあるよ」


 店の奥からおばさんがこちらに近づいてきた。そして、店内を歩くとある場所を示す。そこには鉄板と網が置かれてあった。


 両方見比べて考える。どうやら鉄板よりも網のほうが安いみたいだ。だったら網の一択なんだけど、鉄板だったら色んな料理ができそうに思えてきた。


 ここは利便性をとって鉄板を買おう。


「鉄板をください」

「はいよ。なら、他にも必要なものがあるんじゃないか? 材料を炒める時に使うトング、料理を入れる皿、料理を食べる時に使うフォーク、あれば嬉しい水を飲めるコップとかはどうだい」

「必要そうなものばかりだ」


 くっ、出費が痛い。でも石の家に帰っても何もないし、一から物を集めなくちゃいけない。これくらいの出費なら大丈夫かな?


「全部ください」

「はいよ、毎度あり。全部木でできているからそんなに高い買い物じゃないから心配しなくてもいいよ」

「それは良かった。沢山買ったからお金が心配で……あっ! 塩とかも売ってますか?」

「もちろんあるよ、塩も入れておくね」


 おばさんは次々と必要なものを店頭から選び出して、私たちに渡していく。手で荷物を持つのは大変なので、背負い袋にいれておいた。


「よし、これで全部だ。会計はこれくらいになるよ」


 おばさんがそろばんを取り出して、それを見せてきた。うっ、結構するな。


「鉄板が高いからね、これくらいはしちゃうのさ」

「必要なものだから、仕方がない。はい、おばさん」

「毎度あり。これはおつりね」


 なんとか会計を済ませることができたけど、かなりお金が減っちゃったな。渋い顔をしていると、クレハが心配そうに話しかけてくる。


「明日、肉買えるお金残っているか?」

「ん? うん、それは大丈夫だよ」

「ほっ、良かった」

「頑張って働いてお金を溜めるしかありませんね」

「そうだね、頑張って小麦を作らなきゃ」

「小麦? もしかして、あんたたちかい? 小麦を作っている子供って」

「うん、そうだよ」

「そうかい、そうかい! 小麦を作ってくれてありがとよ、お陰でパンが食べられるようになったよ」


 ここでもお礼を言われてしまった、なんだか恥ずかしいな。でも、村のためになっているんだから良かった。もっと小麦を作っておかないとね。明日からまた頑張ろう!


「それじゃあ、おばさん。色々とありがとう」

「こちらこそ、沢山買ってくれてありがとよ。また来ておくれ」


 おばさんに別れを告げると、私たちは店を後にした。外に出ると夕暮れになっていて、クレハのお腹の虫が盛大に鳴った。宿屋に言って夕食を食べないとね。

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