20.二回目の小麦の納品

 小麦の根本近くの茎を風魔法で切る。風魔法が発動して二メートルくらいの小麦が地面に倒れた。今度は倒れた小麦に向かって乾燥の魔法を唱えると、小麦がカサカサに乾燥する。


 今度はそれを束にして腕に抱えると、脱穀機の傍にいるクレハの傍に置く。


「じゃあ、よろしくね」

「おう、任せておけ!」


 すると、クレハが脱穀機の動力部分を足で押す。すると、脱穀機の突起の付いたローラーが回転し始め、そこにとれたばかりの小麦の穂を近づかせる。突起が穂に付いた小麦の実を弾き飛ばし始めた。


「この瞬間が気持ちいいぞー」


 穂先についていた小麦の実がどんどん落ちていき、あっという間に穂に付いた実を落とし終えた。落ちた小麦の実は敷いたシートの上に溜まり、今度はそれをイリスがかき集める。


「今日の小麦の実もぷっくりと膨れてますね。この分だと多く小麦粉が作れそうですね」


 嬉しそうな顔をして小さな箒で小麦の実を集める。集めた小麦をふるいの中に入れ、ゴミと小麦の実に分離させる。ふるいを揺らしていくとゴミだけが落ちていき、小麦の実は残る。残った小麦を袋に入れれば、収穫の完了だ。


 私はせっせと小麦の茎を切り、乾燥させ、束にしてクレハに持っていく。クレハは小麦の穂を脱穀機に当てて、小麦の実を穂と分離させる。最後に落ちた小麦の実を集めて、ふるいにかけてゴミと分離させて小麦の実を袋に入れていった。


 その作業をずっと続けていく。黙々と作業を続けていくと、畑はあっという間に半分刈り取り終わった。


「んー、あと半分か。クレハは進んでいるかな?」


 腰を伸ばして立ち上がると、クレハを見る。私の作業の方が早いからか、クレハの隣には刈られた小麦が沢山置かれてあった。


 もしかして、脱穀機がもう一台あればもっと早く終わるかもしれない。今日コルクさんにもう一台借りれないか聞いてみよう。


 ちょっとした休憩をした後、再び小麦を刈り始めた。


 ◇


「よし、これで完了っと」


 クレハの隣に収穫した小麦を置いて、私の仕事は終わった。


「ノアの仕事は早いぞー」

「お疲れ様です」


 クレハはずっと脱穀機を踏み続けて小麦の実を分離させ、イリスは落ちた小麦の実を集めてふるいにかけている。まだ、実を落とす必要のある小麦は沢山あり、まだ終わらない。


 どこかに私が手伝えそうなところはあるかな? クレハの動きを見て考える。すると、クレハの動きが止まる瞬間を見た。シートの上に置いた小麦を取る時手が止まっている。ここをフォローして上げればいいんじゃないかな?


「私が小麦を取るからクレハはそのまま小麦の実を落とし続けて」

「おう?」

「やってみるよ」


 私が小麦の束を抱えると、クレハに小麦を渡す。クレハが脱穀機で小麦の実を飛ばし終えると、すぐに新しい小麦を渡す。


「お、お、おう! なんだか、作業が早くなったぞ!」

「いい調子だね。このままどんどん小麦を渡していくから、クレハもどんどん小麦の実を飛ばしていって」

「分かったぞ。これなら早く終わるような気がする」


 クレハの作業効率が各段に上がった。先ほどとは見違える速さで小麦の実を飛ばし始めた。逆に忙しくなったのはイリスの方だ。


「どんどん実が溜まっていきます」

「後でそっちも手伝うね」

「はい、先に実をお願いします」


 イリスは忙しそうに実を集め始めた。よし、今日は昨日より量が多いから、手早くやっていかないと夕方になっちゃう。


「クレハ、やるよ」

「おう! どんどん、小麦を渡してくれ!」


 両腕に小麦を抱えると、小麦の束をクレハに渡す。クレハは束を持つと、脱穀機の回っているローラーに小麦の穂を近づかせた。すると、ローラーについた突起が小麦の実を飛ばし始める。


「これが終わったら、すぐにくれ」

「分かった。どんどんやっていこう」


 ◇


 二人で作業をすると、物凄い速さで小麦の実が取れていく。次々に小麦を渡すとクレハがどんどん処理をしていく。その傍ではイリスが一生懸命落ちた小麦の実をかき集めてはふるいにかけていく。


 山盛りにあった小麦はどんどんかさを減らしていって、時間はかかったが最後の小麦の脱穀が終わった。


「終わったー!」

「終わったな!」


 長かった作業がようやく終わった。二人でハイタッチして、喜びを分かち合う。シートの上には沢山の小麦の実が溜まっている。


「じゃあ、今度はイリスを手伝うな」

「お願いします」

「私は残った茎などを焼却処分してくるよ」

「あ、そうですね。その作業もありました。分かりました、後片付けお願いします」

「ウチが小麦を集めるな、イリスはふるいを頼む」

「分かりました、分担しましょう」


 それぞれの仕事が決まった。クレハは箒で小麦を集めてふるいの中に入れ、イリスはふるいをかけて残った小麦を袋に入れる。そして、私は実をとり終わった穂の処分だ。


 脱穀機の近くには沢山の穂が積み重なっていた。それを両腕で抱えると、畑に移動させる。畑に残った根と一緒に焼却処分するつもりだ。一人でせっせと穂を畑に移動させた。


「よし、後は燃やすだけだね」


 畑の上に沢山の穂が積み重なっている。少し離れた位置から手を構えると、火魔法を発動させる。火は満面なく畑に降り注ぎ、火が燃え広がった。


 火は穂を燃やし、根を燃やした。私は火が飛ばないように監視を続け、燃え尽きるまで待つ。しばらく待っていると火が小さくなり、消えた。残ったのは燃えカスだけだ。


 最後に畑に手をつくと、地魔法を発動させて燃えカスと土を混ぜこむ。よし、これで明日の準備が完了だ。


 二人のところへいくと、小麦の入った袋を荷車に乗せているところだった。どうやら、あちらも終わったみたいだ。


「二人とも終わったの?」

「おう、終わったぞ!」

「今日は昨日より少し早めに終わりましたね」

「まだ夕暮れ前だから、そうだね。それじゃあ、コルクさんのところへ行こうか」

「その後は夕食だぞ。お腹ペコペコだ~」

「またパンが食べられるといいですね」


 まぁ、昼食を食べないで作業しているからお腹も減るよね。宿屋では今は昼食は作っていないって言ってたから、自分で何とかしないといけない。どうにかして食べる手立てを考えないとね。


 クレハが荷車を引き、私たち二人が荷車の後ろから押して行く。


 ◇


 小麦を積んだ荷車を引いていき、作物所のところへやってきた。荷車を建物の近くに置き、私たちは中へと入る。


「すいませーん。小麦を売りにきたよー」


 店の中に入って大声で要件を伝えると、店の奥から物音がした。しばらく待っていると、コルクさんが現れる。


「よう、昨日より早いな。どれ、小麦を店の中に運んでくれ」

「はーい」


 コルクさんの指示を受け、私たちは外にある荷車から小麦の入った袋を店のカウンターに置いていった。その間、コルクさんは運んできた小麦を測っていく。


「今日は全部で六十キロになるな。どうして昨日よりも量が多くて、仕事が早く終わったんだ?」

「作業を見直してみたら、早く終わっただけだよ」

「そ、そうなのか? すごいな」

「ノアはすごいんだぞ!」

「ノアのおかげですね」


 コルクさんは昨日よりも早く多くの小麦が売られて驚いているみたいだった。二人が持ち上げてくれるのは嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいな。


「ほら、今日の報酬だ」

「ありがとう」


 小麦の売上金を貰い、背負い袋に入っている袋に硬貨をいれた。今日は昨日よりも多く貰えたから嬉しいな。


「そうだ、コルクさん食べ物を売っている店ってない?」

「食べ物? うちでも売っているが、この有様だから今は勧められねぇか」


 店の中を見てみると、数えられる程度の野菜しか売られていない。数が少ないから値段も高くなっていて、あまり積極的に買おうとは思えなかった。野菜は自分たちで作るまでちょっと待っていたほうがいいかもしれない。


「あと食べ物を売っている店っていうのは、ガロンがやっている肉屋と調味料が売っている雑貨屋のサラんところだな。肉屋の肉はこの周辺で狩られる魔物肉が売っていて、雑貨屋の商品は他の町から仕入れてきているんだ」

「肉、肉が売っているのか!? 行こう、今すぐ行こう!」

「クレハ落ち着いてくださいー」


 肉屋と雑貨屋か、そこに行けば食べるものが一応手に入りそうだね。


「コルクさん、ありがとう。とりあえず、行ってみるよ」

「おう! どの店もこの周辺にあるから、分かると思うぞ。明日もよろしくな!」

「肉、肉、肉ー!」

「ちょっと、クレハ! ありがとうございましたー」


 飛び出していったクレハを追うように私たちは作物所を後にした。

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